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外面だけは完璧なコミュ障冒険者、Sランクパーティーでリーダーになる  作者: 端桜了/とまとすぱげてぃ
最終章 外面だけは完璧だったコミュ障冒険者、Sランクパーティーでリーダーになる
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逃走劇の果てにキャラ変

「ユウリ、どうした……って、コレ……」

 

 “今の”僕の顔が描かれた手配書――大逆罪と記されている罪名の横には、目が飛び出る程の金額が提示されている。


「……来い」

 

 オダさんは僕にフードを被せ、人混みを避けるようにして裏路地へと誘う。薄暗い路地の只中で、重みのある布袋を手渡された。


 袋口を開くと、今までの稼ぎの大半が入っていて、思わず彼を見上げる。


「俺たちが拠点にしてるロロの村は、山下の街(マウンテン・ダウン)から近すぎる。そのうち、手配書の情報も流れてくるだろうし、賞金稼ぎどもも金の匂いを嗅ぎつけてやって来る筈だ。

 王都から離れるようにして、北側の港町まで行け。そこから船に乗って、ほとぼりが冷めるまで別の大陸で過ごすんだ。一緒に行ってやりたいとこだが、死霊術師ネクロマンサーやってるヴィヴィの差別を避けるためには、ロロの村を離れるわけにはいかねぇ」


 なにも心配することはないと言わんばかりに、オダさんは笑顔で僕の頭に手を置いた。


「そしたら、戻ってこい。また、一緒にワイワイやろうぜ」

「…………」

「お前が今までどういう人生を過ごしてきて、どんな外面ことになってるか俺は知らないけどな」


 ぐしゃぐしゃと、頭を掻き回される。


「お前は、良いやつだよ」


 そして、彼は誰かと重ねるようにして僕を視て――


「ありがとな、ユウリさん」

「よぉ、オダ! 久しぶりじぇあねぇか!

 ん? そっちのちっこいのは、あんまり視ねぇ顔だが……お前、その顔、手配書の」


 背後から声をかけてきた大柄の男にタックルを仕掛け、オダさんは必死の形相を浮かべて叫んだ。


「行けッ!!」


 くるりと反転して駆け出す。


 人の群れを掻き分けるようにして走ると、後ろから「おい!! そのガキを捕まえろっ!!」という大声が聞こえてくる。


 人溜まりの中で抜剣した男たち、悲鳴が聞こえてきて、跳ね飛ばされた野菜や果物が宙を舞って地面に転がる。山下の街(マウンテン・ダウン)のギルド員たちも騒ぎを聞きつけたのか、扉を破るようにして出てきて弓や杖を構える。


「やめろ、撃つなっ!! 無関係な人たちに当たるぞっ!!」


 オダさんの叫び声に反応し、彼らは仕方なしに近距離用の武器に持ち替えて、僕のことを追いかけ始める。


 走る走る走る。


 新刊を買い損ねたし、オダさんたちには迷惑をかけたし、そもそも新しい僕の顔は指名手配犯らしい。なんてこった、これは酷い展開だとしか言えない。


「ゆ、ユウリ……前……っ!!」


 横の細路地から出てきた男に腕を掴まれ、思い切り壁に叩きつけられる。衝撃の瞬間に腕を挟み込み、左腕を犠牲にして内臓を守った。それでも、骨が軋むような痛みがあり、その場に倒れ伏す。


「悪いな、コレも今後の生活のためだ」


 男は僕に手を伸ばし――


「な、なんだコレはぁ!? や、やめ!! ぎゃぁ!?」


 死んだ後に腐乱した猫に飛びかかられ、顔に臓物をなすりつけられた挙げ句、体液を口に擦り込まれる。


「ユウリ、行ちぇっ!!」


 死霊術ネクロマンスで動物の死骸を操っているヴィヴィは、犬や猫、ネズミや小鳥の死体を追っ手にぶつけながら声を張り上げる。


 左腕を押さえながら逃げ、すれ違いざま――


「わしゅれんなよ、ユウリ……おみゃえは、ヴィヴィの舎弟じゃからな……」


 鼻を啜る音と共に、ささやき声が漏れる。


「戻ってきょいよ」

「……ありがとう」


 脇目も振らず、僕は走り出す。


 逃走を続けているうち、僕はなにかを思い出しかけていた。遠い昔、こんな風に、誰かから逃げていた気がした。でも、それが思い出せない。まるで、あらゆる災いの詰まった箱を自ら封印しているかのように。


「ユウリ、こっち!! こっちだよっ!!」


 オーロラがぴょんぴょんと跳ねながら、こちらに来るようにアピールしている姿が視えた。躊躇ためらいもなくそちらに飛び込むと、彼女は魔術を発動させて、僕と彼女の間を物品箱や商品を用いて遮った。


「ダメッ!!」


 思わず、駆け寄ると、彼女は障害物越しに叫んだ。


「行って……たぶん、君はこんなところにいる人間じゃない……もっと、重要な役目がある人だから……」


 満面の笑顔を浮かべ、オーロラは僕へと振り返る。


「一度くらい、憧れてた英雄ヒーローになりたいのは、男の子だけじゃないんだよ」

「……オーロラ」

「ほら、行け!! 魔術の自主勉、怠んなよ!! あと、ちゃんと、ご飯の後は歯磨きしなさいよ!!」


 憂いを振り切るようにして、僕は突っ走った。


 走って、走って、走って……全身が酸素を求めて、脳が痺れ始めた時、立ち塞がる影を前にしてゆっくりと足を止める。


「待ってたよ、ユウリ」


 建造物の高い壁に挟まれ、長方形になった青い空の下、陰鬱な裏路地のゴミ溜まりにまぎれて彼女は立っていた。


 レイア・トイヴァネン……の姿をした“なにか”。


 レイアさんの外面かたちをとった少女が、今まで僕の中にいた存在だと、直ぐに気がつくことができた。


 すっと染み込むようにして真実が晒され、汗を拭いながら彼女に対峙する。


「くふっ……わかるんだね、ユウリ。愛の力なのかしら。アミィとユウリは今まで繋がってたから、直感的に理解できるんだろうね。すごいね。二人が愛し合ってるって、神様が祝福してくれてるみたい」


 砂糖でまぶされた甘い声……僕はなにも言えず、立ち尽くす。


完璧な外面(ユウリ・アルシフォン)を失った感想はどう? 自分が如何いかに能無しだったか気づいたかなぁ? アミィがいなくなった後、今まで、自分のことを視てくれてた人がどういう風に自分をみたかわかった?」

「……そんなことを言いに来たのか」


 少女は僕に近寄って、そっと耳元に言葉を吹きかける。


「これから、も~っと、酷くなるよ。アミィが裡側から消えたことで、力を失ったことで、完璧な外面が保てなくなったことで、ユウリもユウリの大事な人たちもどんどん酷い目に遭う。そういう筋書きになってるんだもん」


 『Sランク冒険者に求婚されてみた』で、僕の肩をとんとんと叩きながら、彼女はささやいた。


「でもね、最後の最後、最低のドン底にまで追い詰められた時、アミィのことを求めてくれたら」


 興奮で爛々と輝く瞳で、彼女は言った。


「ユウリの中に戻ってあげる。そして、救ってあげる」

「…………」

「だから、愛してね」


 レイアさんの外面で、彼女は僕を抱きしめる。


「愛してるよ、ユウリ……」


 声音だけを残して、彼女は消える。


 取り残された僕は、膝をつき――顕在化けんざいかしたパーシヴァルが、不安そうな面持ちで肩に触れてくる。


「ゆ、ユウリ……だ、だいじょうぶ……?」

「……あんなの」

「え?」


 僕は、心の内を吐露する。


「……あんなの、アーミラちゃんじゃない」

「え、えぇ……?」


 一ファンとして、急なキャラクター変更は許せなかった。

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