突撃隣の救難船
巨大ミミックオクトパスは動かなくなった。
「さて、と。もう出て来ても大丈夫ですよ!」
私が声を掛けると、扉からひょっこりと王子が顔を出しこちらまで来ました。
「もうこれで後は脱出するだけです。早く行きましょうか」
「はい!それにしてもお姉さん、本当に凄いですね!カッコいいです!」
「そうですか?ありがとうございます」
はしゃぐ王子を連れ、その場を離れようとしたその時でした。
キイィィイン。と、何処からか音が聞こえてきました。
「なんの音でしょうか?」
そう思っていたのも束の間、目の前の巨大ミミックオクトパスがいきなり立ち上がりました。私は王子を庇うように前に出ます。
「王子!後ろに!なぜです?確かに脈の停止を確認したはず……」
私は再び散弾銃を構えました。が、
「ギィィイィィィアァァァァ!……ァ……ァ」
オクトパスは大きな声で鳴いた後、直ぐにまた倒れ今度こそ完全に力尽きました。
「……なんだったんですか今のは?」
王子が背後から聞いてくる。しかし私の心はそこまでの余裕はなかった。
「王子、早く逃げましょう」
「え?なぜですか?ボスはもう倒したんですよ?」
「いいから急いで!幸いもうすぐに船につきます!」
王子の手を引いて走り出す。
あの断末魔には経験があった。群れの長が亡くなる時に叫ぶ声だ。それが無いように念入りに撃った筈だった。
考え事をしていると王子の絶望したような声が聞こえてきた。
「あ……お姉さん、うしろに……」
「見なくても分かります!走ってください!」
あの鳴き声は、あの叫びは──。
ギュキィ!ギュギュキ!ガキュ!
様々な鳴き声と共に、彼らはやってきた。
王子が指差していたのは、背後から迫り来る通路を埋め尽くすほどの量のミミックオクトパス達であった。
「──あの叫びは、敵討ちをしろという最期の叫びなんですよ」




