2人のファンのMAXハート
スーは一陣の踏み込みから正面に現れるまでの動作の一切を知覚する事は出来なかった。
「貰ったぞ!」
「……」
いや、する必要は無いと判断していた。
2丁のうち1丁の銃の引き金を引く。狙ったのは自らの足元。パシュンと軽い音と共に撃ち出された弾丸が地面にぶつかった時。
キィィ!
と空気を引き裂く金切り音が鳴り響いた。
音響弾と呼ばれる弾だ。本来なら自らの位置を知らせるため等に使うそれをスーは使った。
「ぐっ!」
音に顔をしかめながらもビームソードを振り抜かんとする。流石は達人だけあって些細な事では殆ど怯まない。
「!」
そう、殆ど。自分でせっかく作ったごく僅かな隙を見逃すスーではない。振り抜こうとするその手に向かってもう1丁の方の銃を向ける。
パン。発砲音と共にビームソードの柄を吹き飛ばす。いつも使っているエアーガンだ。
「ぬう……!」
吹き飛ばされた柄を取りに行こうとする一陣の右手をスーは掴んだ。
「もらいました」
掴んだ腕を離さずに空いた手で攻め続ける。それを一陣もまた空いた手で受ける。彼は剣の達人だ。だが剣を持っていなくとも、左手だけでも、長い戦闘経験と知識の差は圧倒的に一陣の方が上である。それでもスーは一陣を圧倒していた。
「わしがこんな小娘に圧されるとは……」
「貴方はたしかに強いです。お孫さんのために頑張る貴方はもっと強いです。ですが貴方は大切な事を忘れてしまっているのです」
「なんだと?」
以前スーの優勢は変わらず。最早決着はつくところだ。
「思い出して下さい!私達の掟を!1番大事な事を!」
「っ!」
何かに気づきハッとした一陣の隙をスーは的確に突いた。大事な言葉を思いに乗せて。
「イエス!ジェノキュア!」
ドスン。スーの大きな声と共に今日1番の拳が一陣の腹部にめり込む。一陣はよろめきスーに覆い被さるように倒れる。それをスーはしっかりと支える。そして、一陣もまた言の葉を紡ぐ。思い出した、大事な掟を。スーの言葉の続きを。
「ノー……タッチ……」
「よくできました……!」
一陣は薄れる意識の中、優しい声を聞いた。




