少年よ、大志を抱け‼
『ヒゾの森』一一一一
地図中ではとても明るく緑色の配色だったはずの森が、今では黒雲によって光を奪われ、暗黒世界にいるみたいだ。
とにかく、何が起きているの確かめなきゃ。
私は、雷が鳴り響く場所まで息を潜めながら進む。
ゴクリ。唾を思わず飲み込んだ。
冷や汗が頬を伝う。
今は、ちょっとした草が揺れるガサッという音すら気になる。
悲鳴や雷鳴は変わらず響く。
突拍子もなく、間近で雷が落ちた。
キャッ!?一一一一
私はその場で態勢を崩した。
あまりの勢いで周辺の木々が丸く焦げていた。
鮮やかな常緑樹もお構い無しに黒色に染める。
私は、雷の衝撃で呆気に取られていた。
息をするのも忘れてしまう程の強大な力。
そして、私は自分の身に新たに危険が押し寄せていたことに気づかなかった。
首筋に剣先が向けられていたのだ。
はっ!?っと驚いたと同時に身動きが取れない状況になる。
ピクリとでも動けば鋭利な力が首を切り裂くことになると悟った。
完全に腰が抜けてしまっていた。
「動くな」
こちらに剣を向けた相手が言った。
視線しか変えることのできない私は、恐る恐る相手の顔を見た。
茶髪の少年だった。
まだ幼い。
濃い青色一一一一紺色というべきか藍色というべきか、そんな色のコ一トを身に纏っている。
「お前は誰だ?どこから来た」
彼は問う。
「わたくし、プログレス・プロダクション・カンパニーから来ました。平間 明夏と申します」
私は、刃筋を向けられながらも、落ち着いて自己紹介することが出来た。
何故か、相手が幼くて可愛い少年で拍子抜けしてしまったからだ。
しかし、少年の対応は見た目とは逆だった。
ブンッと剣を振り降ろし背後の木々を衝撃だけで切り落とす。
土煙が宙に舞う。
「失せろ。貴様らクズ会社の職員が、俺の目の前に現れるんじゃねぇ」
少年の眉間にシワが寄る。
ギロリと私を睨み付ける。
あっ、可愛くない。
私は咄嗟にそう思った。
気を取り直して。
「本日は、デライト2のラスボス、『セラル一シュ』の討伐が出来ないという問題で伺わせて頂いたのですが…………」
私が言い終わる前に少年はサラッと言った。
「だろうな。ラスボス倒しに来たプレイヤーを倒してるのは俺だからな」
私は思わず叫びそうになった。
お前か!!!!
少年は、キョトンとした顔をした。
とりあえず、立ち上がる。
少年は、私よりもうんと背が低かった。
見た感じ、十歳くらいかな?
まじまじと眺めていたせいか、少年は嫌な顔をした。
「な、なんだよ…………」
「ねぇ、貴方名前は?」
少しかがみ、目線を合わせる。
少年は、照れ隠しに視線を反らす。
やっぱり可愛いわぁ~~。
頬が緩んでしまう。
「…………ティ一ス」
ボソボソと小声で名乗る。
こうしてみると、小学校高学年、または中学一年生といった所か。
少しツンツンしている部分がこれまた愛らしい。
私は、一人でそんなことを考えていた。
だが、そんな平凡な感情は消し去られることになる。
一瞬の出来事だった。
「放て!!」
無数の矢が飛んできたのだ。
私は、何も対応することが出来なかった。
本来なら、矢をくらい.体力ゲージが減るだろうが、私は、職員だ。
突然、《オ一トガ一ド》が発動して、守ってくれた。
何もかも、ハチャメチャだ