算数のお勉強
ルドルフが二歳になって数日経ったある日。彼は適当に家の中を散策していたが、二階のある部屋の扉が若干開いていることに気がついた。二男、アウグスト・ヴェクトロの部屋である。彼は暇を持て余していたので兄の部屋に入ってみた。相手をしてもらおうと思ったのだ。
アウグストは机に向かい何かを書いていた。彼は兄に近づき尋ねた。
「何をしているんですか? 兄さん」
突然声を掛けられた彼は一瞬手を止めたがさほど驚いた様子も見せず右隣にいるルドルフの方を向いた。
「大学の課題を仕上げているんだ。悪いがこれが終わるまでは相手をしてやれないぞ」
アウグストはノヴォルデ大学理学部に通っている二回生だ。
「へー、どんな感じなんですか? 見せてください」
「見ても分からないと思うけど」
そう言いながらも彼はルドルフを抱き上げ膝の上に乗せ課題を見せてやった。
物理学の問題のようだ。十枚程の藁半紙に手書きで問題が書かれてあった。彼は生前でも高校一年生だったので当然分かる筈もなかった。
「……何を問われているかも分からないです」
「な? 分からないって言ったろ? 遊びたいなら母さんのところでも行ったらどうだ?」
「いえ、ここで兄さんがその課題を終わるのを待っています」
「……そうか。あと一時間くらいかかると思うから適当に時間を潰しててくれ」
それから一時間。彼は今日覚えたことを復習していた。
「ルドルフ、終わったぞ。何をするんだ?」
「あ、兄さん。早かったですね。今日は遊びじゃなくて勉強を教えてもらいたいんです」
「勉強?」
「はい。兄さんがさっき解いてたような問題を僕もいつか解きたいと思って」
「へぇ、まぁ、お前は賢いからすぐに解けるようになるさ」
賢いのではなく、ただめちゃくちゃ勉強しているだけ、努力しているだけなのだけれど。とは言わなかった。
「さて、じゃあ何から始めようか。そうだな、しゃあまずは算数を教えよう」
それから彼は二時間、ルドルフに数の概念や四則演算を教えていった。ルドルフはそれらを既に分かっていたけれど、そのことはおくびにも出さず、夢中で兄の授業を聞いていた。
「はい、じゃあここまで。まぁ、今日全て理解出来る話じゃないから出来なくてもそんなに落ち込むなよ」
その夜、彼はほぼ徹夜して問題集を消化しきった。因みに習熟度は初めから80%だった。
9(-5+3)+6×4÷10+(-1-2)=
57+35+24+63+42+58+37+76+65+43=
こういう問題だった。彼はまだ難無く解けた。
翌日、彼は兄に出された問題を全て解いてみせた。兄は多少驚きはしたものの、ルドルフの能力を考慮すればこれくらい出来るかと特に不審がることもなかった。その日彼が教えたのは図形問題だった。




