言葉はまれに輝く
読んでいる方がいらっしゃるかどうかはわかりませんが、今日のように余裕ができれば投稿していきたいと思いますのでよろしくお願いします。
微妙なところで続きました(苦笑)
「どうかしたのか?シャリス。ぼーっとしてるなんてお前らしくないぜ」
友人のオーマス・プレディオの野太い声で気がついた。
シャリス・ルシドファーレは、普段から穏やかですねと言われる象徴である、垂れ目を大きく瞬かせた。
「心配させて申し訳ございません。
少し消化不良なことがございましてなんとか納得させたところなんです」
「尚更、珍しいな、オイ」
オーマスは、隣に座っている優しくて善良な友人が悩みごとを持つことを不思議に思った。
学生時代からの友人であるシャリス・ルシドファーレの印象は"穏やかな優等生"である。
学生時代にあった厳しめのルールを常に、破り続けていたオーマスを時には宥め、時に教師に言い訳してくれたのはシャリスだった。
寮生活を送っている最中、頭がよく儀礼に厳しいという他人の評価を一身に受けていたこの男は、絶対的に理性で解決できないことはないと言い張ったこともある。
生まれ育ったロンドン近郊から一歩もでたことがないオーマスには、学校卒業すると同時に外国に行ってしまったシャリスとの心の壁を打ち砕くことはできないと思うが、30を越えてなんとか包容力を身に付けてられたと思う。
ロンドンに戻ってくると、シャリスから電報をもらったときには目を疑ったものだ。
だが、学生時代を覚えてくれていたことをどこか心の中を暖めてくれたのは本当のことだ。
オーマスは、仕事でも使っているオンボロ車にシャリスを乗せると、キーを差し込み回した。
ぎゅるるぅん、と、すぐにでも壊れてしまいそうな音を出しながら発車することに成功した。
***
シャリス・ルシドファーレは、どんどん緑深くなっていく景色を美しいものを見るかのように眺めながら、薄めの唇を開いた。
「奥さんはお元気ですか?オーマス」
運転席のオーマスは大柄な身体を震わした。
ゆっくりと笑いで喉を震わしたオーマスは、厚い口を開けた。
「ああ、元気も元気だ!!今年、6人目の子供が生まれる予定なんだぜ」
シャリスは、久しく聞いてなかった慶事に目をぷるぷると震わせた。
なんと、嬉しいときに戻ってこれたのでしょう。
このように、楽しいことがたくさんあればいいのですが。
オーマスは心から嬉しいとばかりに大きく口を開けて笑う。
そして、続けた。
「もしかしたら、7人目になるかもしれんと医者は言ったんだ」
「もしかして、双子なのですか?」
「おうよ。マーシャルは、経験はあるしエミリーも大きく育った。
オレたち夫婦を助けてくれるだろう」
「そうですか。よかったですね」
更なる慶事を、本当に嬉しく思いながら聞いているとやはり結婚すればよかったでしょうかと考える。
オーマスには言ってなかったが、実は付き合っていた女性と結婚する予定を立てていた。
だが、彼女の昇進を理由に気持ちがすれ違ってしまい連絡がとれなくなってしまったのだ。
あのとき、彼女との気持ちをはっきりさせてしまえばよかったと思うことがある。
しかし過ぎてしまったことをウダウダ言っていても進まない。
これはこれでしょうがないことだと思うしかないのだ。
気持ちのすれ違いばかりはどうやっても心にシコリを残してしまう。
後悔から生まれた疑心暗鬼ほど、倒せるのに時間がかかる。
これほど時間が解決してくれるという言葉にすがったことはない。
「オレんちに泊まるか?今日」
「いいえ。先月、サー・エンゼスと会談しにロンドンに戻ったときに部屋を契約しておきましたので今日からそこに住みます。お気持ちだけ、受け取っておきますね」
「・・・相変わらず、ソツがねぇな」
もしかしたらと思って提案したことだったのだが、さすがシャリスだなと思い直した。
この男のスケジュール力になんど、舌を巻いてきたことだか。
そんな会話をしながら、シャリスが指示したアパートの目の前に車を停めたオーマスは、
自分の家よりも古びてカビが生えていそうな外観に絶句した。
さすがにここを選んだのは何かの間違いだろっ!?と声に出せずにいるとシャリスはさっさと助手席から降りてアパートの鍵をポケットから出していた。
おいおい、ちょいまて!本気なのか!?本気なのか!!?と戸惑うオーマスに軽く会釈をしたシャリスは、鍵を開けてアパートの中へ入ってしまった。
卒業してから連絡をたびたびとっていた友人の変わってしまった価値観に、どこか目を遠くにやっていしまったオーマスは、次女のシェスターからの連絡がくるまであまり使ってこなかった脳内をぐるぐるとかき回していたのだった。
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すっかりと日が暮れて寒い夜風が吹く。
ベリーチェは、教会で毎週行われている施し会に顔を出して、色がかぎりなく薄いコンソメスープと固くて削るしかないような黒パンを3個ゲットでホクホクしていた。
これで、1ヶ月はいける。
黒パンは腹持ちがいいとはいえないが、よく噛んでいれば満足感は白パン以上だ。
白パンを食べたことはないが、妄想の中で食したことを若干現実に持ち込んで薄く笑う。
なんとか今月も生き残る糧は得られた。
食料は必ず、確保しないと生死に関わる。
今日はコンソメスープを飲むだけで済ませて、明日起きたら黒パンを削って食べよう。
自分と同じくらい汚い格好をした男女の後ろ姿を見ながら足を急がせる。
さすがに寒くなってきた。
急がないと。
「あれ、空港の方ですよね。・・・・・・女性がひとりで歩く時間帯ではないと思いますよ」
急がないと。
「・・・聞こえていらしゃらないのでしょうか?」
・・・・・・急いだところで目の前にいる人物から僕の姿が消えることはないだろう。
今日の仕事中に、ぶつかった男が僕の目の前に立っていた。
手には、外国の名前がかかれた袋がふたつ。
紫色の目を瞬きさせて首をかしげていた。
闇夜であっても、月の光を反射して浮かび上がってしまうプラチナブロンドは本物だ。
男を幽霊だとは思わないほどの良識ぐらいは僕も持っている。
市街にでて買い物して帰ってきた途中なのだろう。
このアクシデントは、予想外すぎる。
なんで、帰る途中でこいつと会うことになるんだ。
今日の今日だぞ、!!本当にむかつく。
穴があったら入りたいぐらいには、心を揺さぶられていた。
そして、ひゅーひゅーと潤いが足りなくてかさつく喉から出た音は、どこか何かが欠けていた。
「これから帰るところなんだ」
声を出した途端に、男は、ぱっと花開いたかのように笑った。
僕はその変貌ぶりに、ぎょっとし、抱えていた黒パンを落としかける。
なんなんだこいつは!!
こいつもあれなんだろうか。その、間違った解釈をしたフェニミストという部類なのだろうか。
あの、女に対して紳士的に行動するという、要らない親切を執行する輩のどこか終わっている姿を見るのはちょっと、最近つらくなってきた。
だって、女が欲しいと感じている優しさを履き違えているだもん。
独り善がりの優しさなんて何にも心に響かない。
男は眉尻を下げた。
その行動で、更に優しそうな表情になる。
「それはよかったです。お送りいたしましょうか?」
「結構」
心底からでた言葉だ。
男に、親切を蹴ってしまって申し訳ないっ!!という気持ちは浮かばない。
呆気にとられた男は、伏し目がちになった。
・・・やっべぇ、この表情は反則だ。
この男、イケメンではない。
だが、どこか繊細さを感じる造りをしている。
プラチナブロンドと紫色の瞳。
白人としては、デカイ方ではないと思われるかもしれないが絶対に180は越えている。
ボタンを2つ外したシャツの開けた胸元から見える鎖骨は、太く胸板は厚い。
運動をきちんとしていることがわかる、鍛え方をしっかりとしている人なんだろう。
表情をくるくる変えてしまうことで、彼の印象を変えてしまう人のようだ。
嬉しそうに笑えば、周りに花を咲かせる。
眉を一度でも寄せれば、悲しみが周りに伝染する。
感情が顔にでやすい健康体なんだと、顔を知った程度の僕でもわかる。
わかりやすくいえば、愛嬌というものだろうか。
彼は人に好感を与えられる朗らかな人なんだと結論づけた。
その彼が、なぜ僕のことを覚えていたのかはまったく知りたくはないが、僕としてはさっさと寝てしまいたい。
伏せられた瞳を僕にまっすぐ向けた。
「まさかだと思いますが、テムズ河の倉庫群ではありませんよね」
察しがいい男嫌い。
僕はまぶたを下ろした。
別に心配されるようなことになったことはない。
「あなたは女性なんです。きちんと、したところに住んだほうがいいですよ」
それができたら苦労しねぇんだよ。
諦めとも疲れたとも言いがたい感情で頭の中が一杯になる。
この世にはどうしょうもないことがたくさんある。
「私の知り合いの女性に相談しましょうか?それか、ルームシェアの検討もしたほうがよろしいでしょうね・・・?明日連絡したら起きてくださいますでしょうか」
僕の口が開かなくなってしまったことが彼の心配と不安を増設してしまったらしい。
心配を打ち消すために頭をフル回転。
不安を削るために、口を動かしてしまう。
そんな姿を、生前の祖母に重ねてしまっていた。
祖母も、友達ができなかった僕を不安がって、口を酸っぱくさせてよく、祖父に宥められるように抱き締められていた。
僕は、知らない人にも心配させられるほどの待遇なのだろうか。
よく、わからないな。もう、眠いよ。
遅いかっかってくる睡魔でうつらうつらして首が頭の重さに耐えかねてぐらんぐらんと揺れる。
彼の喉からひゅっと鳴る音を聞いた気がする。
僕は振り子のように頭を動かして、目が眠気で生理的な涙を流す。
力が抜けてしまった僕は、重力に従って顔から落ちてしまう。
もう、アスファルトときs・・・。
「今日は私の部屋に帰りましょう」
心配すぎて胃潰瘍になってしまいます。
優しい声が耳に直接、届いた。
顔をちらっと向けると、アスファルトでずってしまった僕よりもイタイと感情を出している紫色と目が合った。彼の荷物を置いた手が僕の顔をガードしている
彼は、何の苦もなく僕を立たせると腕一本で抱えた。
そして、持っていた荷物を空いた方の肩と腕にひっかけて歩き出した。
「どうした」
脈絡のない言葉に、
彼は、どこか遠くを見つめているような目で、増えてきた雲が星を隠してしまうのを最終的に見た。
「私にもわかりません」