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毒はどこだ?

三話目

 図書館を後にしようとしたとき、道の向こうから誰かがやってくるのが見えた。途中で道を曲がるかと思いきや、まっすぐ図書館へ向かってくる。私は思わず足を止めた。それが不自然だったのか、その人は二十メートルほど先で首をかしげた。

 失敗した。誰かが来るのを身を隠して待つべきだった。一本道だから、これでは私が図書館から出てきたようにしか見えない。事実、用事を済ませてそこから出てきたのだが。

 こちらに向かってきた人は私にずんずんと近づいてくる。そして、一言。

「体調でも悪いのか?」

 私は硬直した唇からなんとか言葉を出した。

「いえ、大丈夫です……」

「しかし、顔色が悪いね。図書館にいたんだろう? たぶんもう、前島さんがいるはずだ。事務室の前のポストから新聞がなくなってたしね」

 新聞、と聞いて心臓が跳ねた。

「……本当に、大丈夫? 図書館でなにかあったのか?」

 いけない。このままでは、どんどん怪しくなってしまう。

 私は必死に頭を回転させた。

その姿が、何かを怖がっているように見えたらしい。彼は「何かあったんだな」と尋ねてきた。

「あ、あの、その、」

こうなったら、腹をくくるしかない。

「図書館で、人が、倒れてて。男の司書さんが……」

 二人で図書館まで走った。私はそんな気力なかったけど、司書と聞くと顔色を変えて駆け出したのだ。

「あっ」

 ガラス戸越しに、奥の方で人が倒れているのが見える。女の子らしく悲鳴をあげた方がいいだろうか、と思ったが、それよりも成功したことに安堵して何も言葉が出なかった。

「前島さんだ……」

 彼はどういうわけか中に入ろうとしなかった。そういう私の疑問が伝わったらしい。

「もし彼が倒れてるのが、ガスが原因だったら私たちも危ないだろう。警察を呼ぼう」

 彼は、この図書館に勤める司書だということをこのとき知った。

 警察が到着して、救急車が到着して、前島司書が亡くなったことがわかって、私と司書の彼は図書館の中に通された。新聞が置いてある棚の前で今朝の行動について話をさせられた。その間ずっと、夢の中にいるようだった。

「死因は毒だったそうだよ」

「ガスじゃなくてよかったですね。本が傷んでしまいそうですもん」

「人差し指と、親指にも少しついていたらしい。どこかで毒を触って、その指を口に含んだんだろう」

 警察は、今朝の前島司書の行動を再現していた。その際触ったものをビニール袋に入れていく。

「君の事を聞きたいんだけど、いいかな」

 生きている方の司書は、片手を腰に当て、もう片方の手のひらを開いたり閉じたりしつつ聞いてきた。

「君は最初にここに来たとき、前島さんは生きていたの? それとも、もう死んでいた?」

 うまく答えないといけない。この人はただの司書だけど、周りにはまだ警察の人がたくさんいて聞き耳を立てているかもしれないのだ。

「倒れてました。私は普通に入ろうとしたんですけど、入り口からそれが見えて、なんだか信じられなくて。……夢でも見てるのかと思いました」

 今も同じ気分だ。

「そっか。そのときもう、図書館は開いてたんだよね? 電気はついてた?」

 私はうなずいた。そのとき、ゴミ箱からビンが見つかったぞ、と言って捜査官たちが騒いだ。彼は相変わらず手を開いたり閉じたりして、それを見ていた。

「今日の新聞から毒の反応は出なかったそうだし、これで操作は進むだろうな」

 少し考えた後、司書は私の顔をじっと見てきた。

「な、なんですか」

「今日の新聞を取り出して、この棚に置くために、どうしても触らないといけないものはなんだ?」

 私は何も答えなかった。なにか言わないといけないのに、口が重い。

「前島さんは毎朝、一番に新聞を読むんだ。彼も年だからね、指が乾燥して、うまくページがめくれないと言っていた。ここまで言えばわかるね? 彼は、指を舐めて唾をつけて新聞をめくったんだ。犯人はそれを知っていた」

 私は、視界からどんどん色が薄れていくような錯覚に襲われた。

「では、指についた毒はどこにあったのか? 簡単だ。今日の新聞を設置するには、昨日の新聞をどかさないといけない」

 彼は棚をぱかっとあけた。学生のほどんどは知らないことだが、この棚は二重構造になっていて、奥には過去の新聞が一か月分とってあるのだ。

「うちで扱ってる新聞は七種類。この七種類の、昨日の新聞のどこかに、毒が残っているはずだ」

 じっと私を見つめる瞳。彼はもう、目の前に犯人がいることに気がついている。体から力が抜けていった。

「昨日の時点で、新聞に毒はついていなかったはずだ。昨日つけたのなら、今頃何十人もの人が死んでるはずだ。何が言いたいのか、わかるね?」

 わかっている。だって、日中は人が多すぎて毒なんて仕込めなかったのを身をもって体験したから。閉館ぎりぎりまで粘ったが、結局人足は絶えなかった。

 彼は場違いなくらいほっとした顔をした。

「隠しておくのは、苦しかっただろう――顔色がちょっとだけ良くなったよ」



 


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