プロローグ
まだ肌寒い三月のある日。
二人が眠る墓の前で、中学生の少女は花を供え、手を合わせ小さく呟く。
「今日ね、私無事に中学を卒業したよ。相変わらず人付き合いが苦手で、友達なんていないんだけどね、えへへ……。あ、私、今度仕事の面接に行くんだ。高校には行けないけど、生きていくためだからね。大丈夫だよ、1年間独り暮らしして、料理も得意になったの。でも、やっぱり、高校生になって、友達つくって、みんなで何処かへ遊びに行く……なんて、そんな夢みちゃって。―――ごめんね、でももう現実みるよ! だから、心配しないでね」
お父さん、お母さん。
少女は最後にそう言って、つくったような儚い笑顔を見せた。
彼女の焦げ茶のショートヘアを撫でるように、風がふわりとなびく。まるでこの墓の主人である両親が頭に触れたようで、少女は鼻の奥がツンとしたが、ぐっと堪えた。
まだまだ幼さを残した顔が涙を抑える姿は、あまりに悲痛な光景だ。
「また、くるね」
すっと立ち上がり、少女は家へ戻る。
誰も待っていない家へ。
「面接、頑張って受からないと……」
自分に言い聞かせるように、口に出す。生活するためには、経済力がなくてはいけない。15年しか生きていなくとも、それは悲しいくらい分かっていた。
たとえ一度きりの高校生活を捨ててでも、選ばなくてはいけないものがある。
凍え震える灰色の冬は、もう終わりに近づいている。次の季節はもう、すぐそこだ。
色とりどりの花が咲き、新しい出会いを連れてくる春は、少女を待っている。
***
-continue-