ホワイトデー
「ふあぁぁああ・・・」
目覚ましが鳴り響くその数分前になぜか目が覚めてしまう。そんな経験誰しも一度はあるだろう
まさに今晴れの日はその状態であった。今日は日曜日、特に予定もなく任務もない
それでいて快晴だ
当然、目覚ましより早く起きてすることと言えば答えは一つ
「・・・寝よ」
そう、目覚ましのスイッチをOFFにして再び夢の世界に旅立つのだ
就寝時には感じられない布団のぬくもりとまだ眠っていられることで得られるこの快感に勝るものなど果たしてあるのだろうか?そう考えながらも晴れの日はウトウトと瞼が落ちる
だが、いつもならいすんなり寝れるもののなぜか今回は寝付けない
どうにも胸騒ぎがするのだ
「・・・なーんか忘れてる?」
だが特に予定を組んだ記憶はない
訓練も雨の日が休みにしたし、特に任務も与えられていない
では何を忘れているのだろう
「えーっと、今日は何日だっけな・・・ってあぁなるほど」
もぞもぞと布団から這い出てまだ視界が復活していない目をこすりながら壁に掛けられているなんの柄もない質素なカレンダーを眺め、何を忘れていたのか思い出した
今日は3月14日
そう、ホワイトデーだ
「なーんだ・・・ホワイトデーか・・・ほ、わ・・・いと、でー・・・か」
自分で口に出しておきながらどんどん顔色が悪くなる
半分寝ていた意識が急激に覚醒していくのを晴れの日は感じていた。そう、晴れの日は先月貰った数々のチョコレートのお返しを全くもって準備していなかったのだ
「って、ほわいとでぇぇぇぇぇぇえええ!?」
これは自らに課せられた異能の力を持った変革者達の、己と欲とこれからの女性人からの好感度をかけた
平成の戦のお話・・・
「やばいよやばいよ!!いや、ほんとこれがリアルなの!?」
寝ぐせで後ろ髪が一部ピヨンと跳ねているがそんなことお構いなしのこの少年の名は晴れの日
ここ、変革者達が集まり切磋琢磨にお互いを高め合う施設、天候荘に所属する一人の戦士だ
そしてそんな彼は今、ある種の絶対的危機に瀕している
「みんな手作りだったけど俺は市販で平気かな・・・いやでも待てよ・・・それだと味気ないよな。でもゴデュパのチョコなら・・・あぁでも俺今月貯金しなきゃ月の支給金じゃきついんだよな・・・」
ぐるぐると部屋の中を練り歩きながらどうしたものかと必死に思考を巡らせる
市販のチョコであれしっかりと気持ちを込めることが大切であるのがお返しというものだが、まだまだ若い高校生のお年頃
女性に対して少しでも好感をもたれたいと並大抵のチョコは選べない
「と、とりあえず雨さんとかに聞いてみよ・・・!」
部屋で籠って考えていたところで答えは出ないと判断した晴れの日はまだ朝日が眩しい午前8時前に部屋を飛び出す
もちろん寝ぐせはきちんと直し服も、パジャマから一応の私服であるジーパンに白シャツのラフな服に着替えてある
廊下の絨毯の上を一歩、また一歩と歩くたびに雷火の日や他の女性陣に合わないことを祈る。もしここでばったり出くわせば問い詰められてチョコが無いことがバレかねない
「もうすぐ雨さんの部屋だ・・・ってか起きてるかな。これ起きてなかったら無駄足・・・」
思い直してみれば雨の日がこの時間に起きていること自体まず考えられないだろう
普段の晴れの日ならば簡単に予想できたことではあるが、状況が状況だけに冷静な判断が出来ないでいる
だがここまで来たからには尋ねてみるべきだろう
それに、もし雨の日がダメでもこの近くには雷の日の部屋だってある。チョコの件を相談できる相手が確実に一人居る事に安堵した
「お、ここだここ・・・おーい!雨さーん?起きてるー?」
ドアをノックするが当然と言えば当然。返事がない
やはり寝ているのだろうか?
「しょうがない・・・雷さんのところいこ・・・」
雨の日に相談するのをあきらめて雷の日の元に行こうとしたその瞬間、雨の日の部屋の中から人の動く気配がした
いや、正確には誰かが何か重たいものを机に置いた音、だ
寝がえりとはまた違う。起きていなければ普通はしない音に晴れの日は驚きを隠せない
だってまだ、8時なのだ
「・・・世間的には8時に起きてて普通だけどね」
ここにきて普通とは程遠い生活を送ってきた晴れの日はここでの生活にしっかり慣れてしまっていることを実感し苦笑いと共に言葉を落とした
そして気を取り直して再びドアをノックしようとドアの前に戻り手をグーにした瞬間だった
突然ドアが開いた
「は~い、どちら様~・・・って晴れの日君!どうしたのこんな朝から?」
現れたのは雨の日・・・ではなく片手に菜箸をもって花柄のエプロンをつけたかわいらしい女性だった
もちろん、この部屋は雨の日の部屋だ
だがその女性は何も臆することなく来客に対応してきた
その女性とは・・・まぁ言わずも知れた雨の日の大ファン、撫子だ
「撫子さんこそなんで雨さんの部屋に!?」
「そーれは秘密っ!それで、雨さんまだ寝てるけど何か用事~?」
ポッと顔を赤くし撫子は意味深にウインクして答えた
そしてジェスチャーで入室を促しながら晴れの日に尋ねる
「あ、その・・・なんと言うか・・・ホワイトデーの事で・・・」
「お?もしかして晴れの日君本命貰っちゃったりしちゃったり~っ?」
まるで修学旅行の夜の同級生の絡み方のようだ
ニヤニヤと笑いながら晴れの日の反応を楽し気に覗き込んでくる
だが撫子の思いとは裏腹に晴れの日の心中はかなり焦っていた。このままでは雨の日に相談など到底出来ない、と
なんなら撫子に話してしまうのもアリではある。撫子は雨の日以外の男性には恐らく興味がないだろう
ならば晴れの日の失態を知ったところで好感度云々はどうともなるまい
そう踏んで思い切って晴れの日は吐露した
「えと・・・実はお返し準備してないんデス・・・それと本命は某ニュース番組よろしくゼロですよ・・・」
自分がまだ準備していないことと本命を貰っていない事。どちらも思い切って行ってみた
すると撫子は一瞬驚いた眼をしたがすぐにいつもの優しい目に戻り笑顔になった
何故この状況下で笑顔なのか、晴れの日には理解できなかったが次の言葉でなんとなく意味が分かった
「それはある意味ラッキーだよ!ほら、天候荘には彼がいるじゃない!」
「彼・・・?誰ですか?」
鈍いなぁと呟いて撫子はびしっと晴れの日の鼻の先に指を突き立てあの男の名を呼んだ
「パティシエコンテスト前年度優勝者!フレディよ!!」
もうこれ以上フレディに特技があっても驚くまい、そう思っていた時期が晴れの日にもありました
でも無理です。フレディ凄すぎます。彼は一体何者ですか?
目の前にはフレディが今まさにホワイトデー用に作った大量のケーキやクッキーが並んでいる。見たことのあるガトーショコラや、食べたことすらないおいしそうなチーズケーキ、チョコに限らず多種多様なチョコがここ、フレディ専用厨房に並べられている
厨房は一面白い壁で、調理台は学校の家庭科室のように広い。これなら十分に伸び伸びと調理ができるだろう
「フレディ、これ全部自分で作ったの・・・?」
あまりに美しいそのお菓子たちはまるで一つの芸術品のようだ。これを食べるのは実にもったいない
そう思って中々食べれず毎回溶ける寸前まで食べない女子もいるとかいないとか・・・
「yes!毎年ミーンナの分つくるんだよー!」
「すげぇ・・・フレディなんでもできるんだな・・・流石だよ!」
「さすがis流れ石!最近カンジ覚えたよ!no・・・なんでもはできないよ!できることだけ!」
なんだか名言が生まれた気がする。言葉としては当然の事を言っているが、なぜか深い意味を考えてしまう
だが、晴れの日はそんな名言を聞きに来たわけではない
「流石って漢字覚えたんだ!ってフレディ!助けてくれよ!!ヘルプ!」
「he,help? what happened?」
身長差があるので必然的に晴れの日の両手はフレディの肩でなく上腕にしか届かないが、その上腕を両手でそれぞれしっかりと掴み、いかにもせっぱつまったと言わんばかりの顔で訴えかけたためか、フレディも思わず全部英語で返事してしまった
意味は、
た、助けて?なにがあったの?
となる
「それが・・・」
晴れの日はフレディに自分の過失でお返しを用意していなかったことと、撫子に紹介されてフレディにお返しつくりを手伝ってもらおうという魂胆を説明した
全て聞き終わったフレディはふむふむと頷いてニカッと白い綺麗な歯を見せて晴れの日の肩をバシッと叩いてきた
「ハレ!作るよ!今から!now!」
「へ!?」
もう少し渋られたり自分の失態に小言を言われるかと思っていた晴れの日は豆鉄砲を食らった鳩のような顔をした
「今って、now? just now?」
「yes!」
どうやらフレディのスイッチが入ってしまったようだ
どこから現れたかボウルやゴムベラ等お菓子つくりに必要な道具がどんどん出てくる
さらに晴れの日に何か白いものが投げつけられた
「わぷっ!これは・・・?え、エプロン?」
「お菓子作るなら、エプロン大事!!」
幸いこの調理場に二人以外に人はいない
柄は特にないが、やはりエプロンを着ることに恥じらいのある晴れの日は周囲を見渡して渋々装着する。どうやらサイズはフレディ仕様の様で少しぶかぶかしているがそこは我慢するほかないだろう
「ところで、何作るの?」
いきなり始まったお菓子つくりだがそもそも何を作るのか聞いていなかった
するとフレディは少しだけ悩んだ後、ポンッと手を打ってこう答えた
「トリュフ!!」
「フレディの簡単お菓子つくり~! まずは材料を揃えるよ!!」
家庭用ではなく、業務用冷蔵庫を開け、中からチョコや生クリームなどを取り出す
トリュフを作る、と言われた時は晴れの日も驚いた
そんな簡単に作れるものなのか、と
だがフレディ曰く、簡単なのだそうだ
「ふ、フレディ・・・材料のこのチョコ初めて聞く名前なんだけど・・・」
「Really? コレ、『クーベルチュールチョコレート』っていうんだよ!」
・・・初耳だ
「まずこのクーベルチュールチョコレートを450g用意!」
「は、はい!」
どうやら材料は用意してくれるが分量は自分でやらねばならないらしい
だがそれでこそ手作り
言われた通りにクーベルチュールチョコレートを手に取る。どうやらフレディはいつも10gずつに分けているようで、特に難しい事なく450g揃え終えた
「Next スイートチョコレート!150g!」
「おう!これかな?」
今度は先のクーベルチュールチョコレートよりも少し明るい色をしたチョコレートを手に取り、これもまた10gずつになっていたのですぐにそろえられた
「OK!生クリーム90cc!鍋に入れて!」
ドン、とフレディが鍋を晴れの日の前に置いた
ここに入れろ、ということだろう
計量カップでしっかりと90ccの線のところまで生クリームを入れ、それを鍋にゆっくりとこぼさないように移す
「last! ラム酒10cc!」
思いのほか材料が少ないことに晴れの日は疑問を抱いたが、天下のフレディ様の言うことに間違いはないだろう
ゆっくりとラム酒を小さ目の計量カップで測り、そのまま隣によけた
「OK、それじゃぁサッソク作ろうか!」
「おう!フレディ先生、お願いします!!」
まず、クーベルチュールチョコレートをテンパリングします
テンパリングとはクーベルチュールチョコレートを加工する際に必ずやらなければならない行程です。
「フレディ、テンパリングって?あの天パ?」
「NO! 天パじゃないよ!テンパリング!!クーベルチュールチョコレートをまず刻む!そして湯せんスル!」
「へー・・・?」
まな板の上で包丁を使ってできるだけ細かく刻んでいく
あまり普段包丁を握らないせいか、中々旨く刻めず、砕くに近い形になってしまったが小さくなればOKらしい
なんとか全部砕き終え、ボウルの中にお湯を入れ、その上にもう一つボウルを乗せその中に刻んだ(砕いた)クーベルチュールチョコレートを全部入れる
「よし!できた!このまま温度上げて行けばいいの?」
いいえ。残念ながらそれは初心者がやりがちな失敗の一つです
クーベルチュールチョコレートに含まれるカカオバターは融点の違う結晶を持っているので、温度の管理がしっかりしていないと味わいや舌触りに悪影響を与えてしまいます
もちろんそのこともばっちり知っているフレディが晴れの日の過ちを正す
「テキオンがアルよー!45~50℃だよ!」
「へー?どれくらいあっためるの?」
「カン!」
フレディの意外な一言に晴れの日は驚くが、確かにチョコの溶け具合はハッキリと決まっていない。勘はある意味正しいのかも知れない
そしてフレディは何やら体温計のようなものを取り出して溶けだしたチョコの中に突き刺した
そしてそのまま温度を眺めていると、温度の上昇と共にチョコが全て溶けきった
「ハレ!湯せん終わり!レイスイで冷やす!」
言われるがままに晴れの日は急いでボウルを持ち上げ、熱いのを我慢しながら冷水をボウルにあててチョコを冷やす
「今度は何度なの?」
そう。冷やすのにも適温がある
冷やし過ぎれば固まってしまうのでご注意を
「27℃くらいかな!」
言われた通りに、温度を気にしつつゴムベラで撫でるように混ぜていく
そしてしばらくするとカンペキに溶けきり、再度湯せんを再開した
今度の適温は30℃だ
「OKOK!これでテンパリングはfinish!このまま温度保っておいて!次行くよ!」
フレディが何やらスプーンを使ってクーベルチュールチョコレートのテンパリングチェックを行い、完成と認めた
そしてここからはいよいよトリュフ本体の製造開始だ
「まずスイートチョコレートを5mmに砕く!」
「お、砕くなら俺得意だぜ!」
先の包丁さばき、お世辞にも上手とは言えないが、砕くには見ていた
ものの見事に晴れの日は包丁をたたきつけるようにスイートチョコレートを砕き、第一工程を終える
「さぁ!次は!」
「生クリーム沸騰させて火stop!チョコ入れる!」
言われた通りに言われた順番にこなしチョコを投入していく
そしてゴムベラでゆっくり大きく混ぜていく
すると段々と滑らかに溶けていくのがハッキリと見て分かるようになってきた
ここで大切なことは素早く混ぜすぎない事、らしい
「OK!ボウルに移してラム酒GO!」
「ラム酒はいりま~す!」
初めてのお菓子つくりに興奮気味の晴れの日はつい大げさに掛け声を発したが、威勢の割にラム酒を入れる手はやさしく、そっと投入していた
「じゃ、ラップをしてっと・・・はい!このまま冷蔵庫の野菜室で30分ネかせるよ!!」
「っつは~!なんか緊張してるー!!」
フレディがそう告げた瞬間、晴れの日の緊張の糸が途切れ、どっと疲れと緊張が現れた
だが、心地よい疲労感に思わず笑顔になる
「楽しいでしょ?お菓子は食べなくても、作るだけで笑顔作れるよ!」
「本当だね・・・楽しいや!!」
では、その30分の間に、雨の日と雷の日のホワイトデーをのぞいてみよう
雨の日の場合
「ふぃぃ・・・お、撫子おはようさん」
ぼさぼさと髪の毛を好き勝手な方向に曲げながら雨の日が起床した
鼻にふと、卵焼きの甘い香りが漂って来る
普段ならまだ寝ている時間だが、撫子が着ていることを知っている
というより泊まりに来たことを覚えていたのでいつもより少し早く起きたのだ
それでも8時半頃ではあるが
「おはよう雨様!朝ごはん、もうできるから顔洗って来な~!」
「うーい・・・」
半開きの目をこすりながら雨の日は洗面所に向かう
そして撫子が鼻歌交じりに卵焼きの最後の盛り付けに取り掛かったのを確認して雨の日は洗面所から手のひらサイズの小さな箱を取り出した
特に可愛いラッピングがあるわけでもなく、質素な箱だが雨の日にしては珍しい、ピンク色だった
そしてそれをこっそり体の後ろに隠してもって撫子の背後から近づく
「ほら!出来たわよ!食べましょっ?」
「おうよ・・・と撫子」
「ん~?」
振り返る撫子の目と鼻の先に雨の日はその箱を突き出した
大人の余裕というやつか、子供の様に顔を赤くして畏まった渡し方ではない
すんなりスムーズに、自然体でそれを撫子に渡す
もちろん、ホワイトデーのお返しだ
「わっ・・・これホワイトデーのお返しっ?」
目を爛々と輝かせて撫子は箱を大切そうに両手で包み込む
雨の日は軽く一言そうだよ、とだけ言って朝食の席に着いた。もちろん撫子が座るのを待っているが
「あけていーい!いーい!?」
まるで子供の様にはしゃぐ撫子
それを宥めるお父さんのように雨の日は撫子にどうどうと制しをかける
「飯食ってからな?にげやしねーんだから大丈夫だっての・・・ほれ、いただきまーす」
「むぅぅ・・・仕方ない、我慢しますか!いっただきまーす!」
雨の日のホワイトデーは以外にも手作りで、クッキーだったとのちに撫子は風の人霙の日に延々と惚気たそうだ・・・
雷の日の場合
「あ、いたいた!雷火ちゃーん!」
「あれ?雷様?どうしたんですか?」
廊下の端から声をかけられた雷火の日は頭上に?を浮かべながら肩で息をする雷の日に尋ねた
雷の日はというと相当探し回ったのか膝に手を当て深呼吸をしていた
そして顔だけ上げて雷火の日に可愛くリボンでラッピングされた箱を手渡した
「え・・・これって・・・」
雷火の日の目がパッチリと見開く
「ん?ホワイトデーだよ!バレンタインのお返し!」
「わわわわわわ!え、やった!うれしい!!雷様ありがと!」
つい喜びで口調が年相応の女子に戻ってしまっているが歓喜の感情ゆえに気が付いていないようだ
ピョンピョンとその場で飛び跳ね、箱を上気した顔で眺めている
「お、落ち着いて雷火ちゃん・・・」
予想以上の喜びに雷の日もどう反応すればいいのか分からなくなってしまった
この場に二人以外の誰かが来れば雷火の日はすぐにいつものツンデレになるのだが、他に気配はない。残念なのかどうなのか、雷火の日はしばらくこのままだろう
「雷様!これ今食べたい!いい・・・?」
この娘は一体誰なのだろうか
そう思えるほどの豹変っぷりだ
甘いものが好きだと雷の日は前々から知っていたので、今回のチョイスはミルクレープだ
雷の日も、前日にフレディから教わって手作りだそうだ
「いいよ~お口に合うかな?」
「合わないわけないわ!! はむっ・・・!!おいしい・・・!」
「お、よかったよかった!」
一口、また一口と雷火の日はどんどん食べる
そしてあっという間に全部食べ切ってしまった。恐るべき甘党だ
「おいしかった!ありがと雷様!」
「どういたしまして!」
そしてこの時の出来事を雷火の日はのちに
・・・テンション上がりすぎて変な風になってたぁぁぁ!いやぁー!はーずーかーしーいー!!
と、雷の日に記憶の削除をお願いしたのだとか・・・
さて、そろそろ30分だ
「ハレ!最後、いくよ!」
「OKフレディ!」
フレディが取り出したのは絞り袋だ
これにスイートチョコレートをいれて絞り出すのだとか
「ゆっくり絞ってね!」
「む、難しいな・・・まっすぐでない・・・」
思いのほか絞り口からでるチョコはグニャグニャでなかなか思うように出てこない
なんとかすべてを絞り終えたら次はそれを手で丸める作業だ
「stop!ハレ!手を冷やしながらやってね!チョコ、熱弱いから!」
「了解!」
用意してくれた氷水に両手を突っ込み、我慢しながらも手を冷やす
そして冷え切ってかじかみつつある手でチョコを持ち、手のひらでコロコロと丸めていく
単純な作業だが、油断するとヒビがはいったり形が崩れてしまう
なんとか最後の一つまで丸め終わるとここでようやくさいしょにテンパリングしたチョコの出番だ
「これをコーティングしていくんだね?」
「yes!しっかりまんべんなくね!」
最期の工程・・・しっかりと集中して最後まで取り組もう
そう晴れの日は心に刻み、真剣にチョコをコーティングしていく
一か所に集中しすぎないように、少なくなり過ぎないように・・・そして、ついに・・・
「完成!!お疲れハレ!」
「で、きたぁぁあ!!」
「よくがんばりました!!」
フレディのとは比べようがないが、しっかりとしたトリュフがそこにはあった
現在はまだお昼
十分に間に合ったのだ
晴れの日はフレディに深々と頭を下げ、後で片づけを手伝うと言い、トリュフを小さな手のひらほどの箱に入れ雷火の日を探して厨房を後にした――――
「雷火―!」
「?どうしたのよ、そんなに走って」
「その・・・ホワイトデーのお返し・・・?」
照れ隠しに語尾に?が付いてしまった
だが対する雷火の日はもらう側だからか余裕そうだ
「あぁ・・・もしかして手作り?」
「おう!最強の敵・・・だったぜ?」
「ふふっ何よそれ。これ、食べていいかしら?」
珍しく雷火の日に棘がない
不思議に思いつつも雷火の日の提案を受け入れる
箱から雷火の日はゆっくりとトリュフを取り出してじっくりと眺める
「これ、あんたが本当に?」
「んだよーほんとだぞ!」
驚くのも無理はない
晴れの日にお菓子つくりの才能があるなど、雷火の日は夢にも思わなかっただろう
「そう・・・いただきます・・・」
「お、おう・・・」
ゆっくりと味わう雷火の日
そして・・・目を輝かせて雷火の日は感じた思いを叫んだ――――――
完