雉と犬
雉は
「かぐや姫……ですよね?」
と聞いてきた。
「前世はな」
すると雉は嬉しそうに羽を羽ばたかせて言った。
「私です、私。」
「えっと……誰?」
「燕の子安貝を頼まれた中納言です!」
あぁ、そういえばそんなものも頼んだな。
「まさか現世でかぐや姫に会えるとは思わなかったよ!」
少納言が、ちっ、と舌打ちする。
「そちらのお連れの方は……?」
「少納言だよっ!」
むくれた顔で少納言が返事をする。
「あぁ、蓬莱の!!」
「俺のかぐや姫に近づいてんじゃねーよ!」
「誰があなたのものになりましたか……?」
私は黒い笑みを浮かべた。
「はうっ、かぐや姫が黒いオーラ出してる……」
少納言は慌てた。
「かぐや姫、旅の途中のようだが、どちらまで?」
「今の名は桃太郎という……鬼ヶ島まで鬼退治に行く途中だ。」
「ほうほう、それは勇ましい。よろしければ私も同行させていただきたい」
「構わぬが、お主、なにか用事などがあったのではないか?」
「いえいえ、森の中を歩いていたところを、猟師にねらわれましてね。こうして命からがら逃げてきたところです
「そうなのか」
中納言は命からがら、と肩をすくめながら言った。
「はぁ〜それにしても腹が減って動けませぬ……なにやら食べ物を持っておいでじゃないですか?」
「あぁ、それならばこれを食べるとよい」
私はそう言ってきびだんごを取り出した。
「これはこれは!大層旨いものをお持ちですね!」
「そう言ってもらえると光栄だな。これはお花ちゃんが作ったきびだんごなんだ」
「お花ちゃん?」
少納言も尋ねてきたので、少しばかり道場の話を持ち出した。
「へぇー。そんなところにいらっしゃったんですね。これも何かの縁です。私も出来る限りのことはいたしますよ」
「あぁ、そう言ってくれるとありがたい」
私は雉と共に旅立つことにした。
少納言と中納言はいつまでも喧嘩した状態で、心地悪かったため、今宵の宿で話し合いをすることにした。
安宿はなかなか見つからなかった。
諦めて野宿でもしようか……というところで、声をかけられた。
「もし……旅のお人。今宵の宿をお探しですか?」
それは何とも見目麗しい女性だった。
「安宿でよろしければ、うちの宿をお使いになってくださいな」
「構わぬのか?」
「はい、ぼろ屋でもよろしければ、どうぞ」
というわけで彼女の言う宿へ向かった。
彼女の案内した先はほんとにぼろ屋だった。
私は少納言を入り口に繋ぎ止めると、中納言と一緒に宿へ入ろうとした。
「えーっ、なんで俺だけ入り口?!」
「だって犬ですから。室内にいれるのはさすがにだめでしょう?」
「じゃあ中納言も置いていってよ」
「私はかぐや姫のお供をします!」
「仕方ないな……じゃあ中納言も繋いで置くか。」
そう言って私は中納言にも紐をかけ、しばっておいた。
宿はぼろ屋だったが、ご馳走が凄かった。焼き鳥に小鉢が二つもついて、さらに味噌汁までついているという。
私は夢見心地でそれを平らげると風呂へ向かった。
昨日の宿屋の件から覗きに関して微妙に警戒心が高まり、必要以上に風呂場をチェックして歩いた。今回はトラップも何もないらしい。少しホッとして風呂へ入った。
湯からあがると、用意してあった浴衣に着替えた。
そして部屋へもどろうとしたのだが、何やら気になって玄関先へ向かった。
そこでは犬猿ならぬ、犬雉の醜い争いが続いていた。
「私のほうが偉いのですから従うべきです!」
「偉いのって前世のはなしだろ!今は俺のほうが戦闘力が高いんだから、俺に従えよ!」
そんな不毛な争いを目の当たりにして私はため息をついた。