守銭奴
少納言と私は話しながら鬼ヶ島へと向かった。
それは端から見れば私が独り言をいいながら犬を連れて旅をしているように見えただろう。
私は今夜の宿を探していた。
「そこの綺麗なお兄さん!うちに寄ってかない?可愛い娘一杯いるよー」
「私は宿を探しているのだが」
「うちはお泊まりもOKよ〜」
「金がないから明日、一日働くから泊めてもらえないだろうか?」
「えぇー。そりゃ無理だわ」
こんな調子で断られ続けた。
一軒、ぼろい宿屋があった。客引きもおらず、灯りがついていなければ行き過ぎてしまうようなぼろ屋だ。
私はここに狙いを定めて扉をノックした。
「はいはい、ただいまー」
と言いながら出てきたのはお婆さんだった。
私はわけを話して泊めてくれないかと交渉する。
お婆さんは人が良いらしく、ただで泊めてくれることと相成った。明日、雨漏りがする屋根を修理してくれたら、とのことだった。
それならお安い御用だ。
お婆さんは夕食までご馳走してくれた。焼き魚のみだったが、私にはご馳走だった。
風呂まで用意してもらい、私はルンルン気分で風呂へ向かった。
さらしを外し、風呂へ飛び込む。とてもいい気持ちだった。
ルンルン気分で歌を歌っていると、何やら外に人の気配がする。
私はザバッと風呂からあがると、桶でお湯をぶっかけた。
すると、三人の男が慌てふためいて出ていった。
覗きだ。
さっと風呂をあがるとお婆さんのところへ行った。そこには先程の男三人組がいた。
三人組は私を見ると慌てて出ていった。
お婆さんはお金を持っていた。
「いいじゃないか、見せたって減るもんじゃなしに」
お婆さんは風呂を覗かせてお金をとっていたのだ。
「……よく私が女だと気づきましたね」
「女でも男でも金はとるよ。あんたがたまたま女だっただけさね」
守銭奴。お婆さんは守銭奴だった。
だが、泊めてもらってご飯までくわせてもらっていたので、私は我慢した。
そして、いい人ばかりではないということを学んだのだった。
翌日、お婆さんの言った通り、屋根の修繕を行った。屋根は相当古くなっているようで、間違えて数ヶ所踏み抜いてしまった。だが、昼過ぎには作業も終わり、お婆さんからお茶を出してもらい、旅の支度を整えた。
するとお婆さんが、私の手に何かを握らせてきた。お金だった。
慌てて断ると、
「屋根まで直してもらって、ありがたい」
と言って再度お金を握らせてきた。
「昨日の覗き賃の半分さ。分け前、分け前」
と言って聞かなかった。
私はありがたく頂戴することにした。
「帰りも寄りな。今度は覗かせないから」
お婆さんはそう言った。
私は感謝しながら旅立った。
少納言が、
「覗きだったら俺もしたかったな」
と言い出して喧嘩になりかかった。
「今度私を女扱いしたら、許さないから!」
はい、と少納言は言うと、
「お金はいくらもらったの?」
と聞いてきた。
「次の宿代くらいかな」
と私は答え、歩みを進めた。
次の宿はどうかいいところでありますように……と祈りつつ歩いていった。一人で歩くより、二人で歩いているほうが楽しかった。
私は少納言に感謝していた。
しばらく行くと、雉が行き倒れていた。
まだ息があるようだ。
「可哀想に……」
と水をやると、雉は息を吹き返した。
そして、ありがたや……と言いながらこちらを向くと固まった。
「かぐや姫……ですよね?」