修行2
訓練は続いた。今度はその小さな石を頭の上まで持っていき、スクワットを繰り返した。これは全身にキた。最初は頭の上まで持っていけていた石もだんだん位置が下がっていく。スクワットしている足もプルプル震えだし、膝がカクカク笑った。
今日は半日中この特訓だけだった。
この練習は1ヶ月間続いた。
私は午前中の掃除ができないほどくたびれ果てた。
お花が心配して、掃除は自分がやるから休憩しろと言う。
私はそれを断って、全身筋肉痛のまま雑巾がけをした。
1ヶ月もすると、筋力がついたのか、膝が笑うことも、筋肉痛もなくなった。
石も頭の上まで持っていけたままになった。
そこでおっさんから、中くらいの石を持ち上げてみろと言われた。
中くらいの石は比較的早く持ち上げることができた。
そして、そのままスクワットへ。膝が笑うことなくスクワットをこなす私。
だが、それも最初のうちだった。
だんだん位置が下がっていく石。
おっさんがもっと持ち上げろと言う。
私は必死で持ち上げた。
その日の夕方、おっさんから
「明日からは今日の練習と剣の練習を交互にやる。いいな?」
と言われた。私は久しぶりに筋肉痛になりかけている身体で跳びはねながら喜んだ。
その日の夜、一緒に風呂に浸かりながらお花が言った。
「桃太郎さん、ずいぶん筋肉がついただね」
「そうかな?自分ではよくわからないんだけど」
そう言って力瘤を作って見せた。確かに以前より瘤が太くなっている気がする。
「でも、勿体ないなぁ」
ため息混じりにお花が言う。
「なにが勿体ないんだ?」
と私が聞くと、お花は肩をすくめながら言った。
「桃太郎さん、顔も綺麗だし、身体も綺麗なのに筋肉つけるなんて」
「私にはお婆さんを助け出す使命があるからな。早く助けに行きたいんだが、こればっかりは仕方ない。まだ時間がかかりそうだ」
そう、出来るだけ早く助けに行かねば。お婆さんは無事だろうか……
お爺さんはどうしているだろうか。食事はきちんととれているだろうか。
私はほんの少しホームシック気味になった。
その様子を見かねたお花が言う。
「おら、お爺さんの様子を見てこようか?」
「いやいや、おなごの足では三日以上かかる道のりだ。お花ちゃんにそんな危険な真似はさせられない」
「でも……」
「私の爺さんと婆さんだ、達者に暮らしているよ……」
私は遠い目をして言った。
翌日からは剣の練習も始まった。
以前より刀が軽く感じられる。
それは1ヶ月の特訓の成果でもあった。
まだ軽く振り切ることしかできなかったが、それでも一歩踏み出せた喜びでいっぱいだった。
まずは剣の型から教わった。ただやみくもに振り回すのではなく、型通りに振ることが大事だと知った。そうすることで、体力を温存することもできるし、なにより防御しやすいと教わった。
型通りに振ることは意外と難しかった。
「もっと肘を内に入れる!」
「違う違う、何度言ったらわかるんだ?」
おっさんからは珍しく怒られっぱなしだった。
ただ、出来たことはとても褒められた。
私はそれが嬉しくて、何度でもやり直して自分のものにしていった。
そうした特訓が1ヶ月を過ぎる頃、おっさんが不意に休みをくれた。
お爺さんの様子をちゃんと見てこいと。場合によっては、ここの道場に連れてきて面倒を見てもよいと言われた。
私は来るときには三日かかった道のりを二日で帰宅した。
お爺さんは無事だった――。
私の姿を見つけると、涙を流して喜んだ。
私も同じく涙を流して再会を喜んだ。
久しぶりの再会に心が震えた。
お爺さんに、一人でいると何かと不自由だろう、と、道場に来ないかと誘いをかけたが、
「万が一お婆さんが助かって戻ってきた時に誰もいないんじゃいけない」
と言われ、私は納得した。
その夜は久しぶりの実家で、興奮して眠れなかった。