おっさん
厳ついおっさんは、くるりとこちらを向くと、こう言った。
「兄ちゃん、仕事はしてないのか?」
私はそちらを向きなおした。
「あ……はい……」
「茶代も払えないでなにやってんだ。仕事はする気ないのか?」
「仕事というか、修行がしたくて……」
「修行?」
「はい、剣の修行がしたくてここまで来ました」
おっさんは、ふん、と鼻を鳴らすと
「ついてきな」
と言った。
私は何がなんだかわかっていなかったが、とりあえずおっさんについていくことにした。
おっさんは街の外れの方へ向かってずんずん進んでいく。
「あのっ……どこまで行くんですか?」
「ついてくりゃわかる」
「はい……」
街の外れに近づくと、大きなお寺が見えてきた。
「大きい……な」
するとおっさんは山門の脇の扉を開けて入っていく。私も慌ててそのあとに続く。
境内を見渡すと、剣・剣・剣。
そう、ここは探し求めていたこの街一番の修行場だった。
よく見ると剣以外にも空手、薙刀と、種類豊富な修行を積むものの姿があった。
おっさんは、そのまま寺の中へ入っていく。
私は再び慌ててついていった。
「お前、ここで修行してみるか?」
私は喜んで答えた。
「はい、ぜひ!」
「それには条件がある」
「条件?」
「ここに来てる連中はみな高い学費を払って来ている。お前さんは金を持っていないんだろう?」
「学費……ですか」
「お前さんはここで修行する代わりにここで下働きをしてもらう。勿論、飯の面倒などもこちらで見る。どうだい、悪くねえ話だろ?」
私は少し考えてから返事をした。
「悪くないですね。働いたらお金とやらももらえますか?」
「当たり前だ。ただし、学費分は給料から天引きさせてもらう」
「キュウリョウ……テンビキ……」
「毎月お前さんが手にする報酬さ。なぁに、難しく考えるこたぁねえよ」
「わかりました。お世話になります」
おっさんはわかればいい、という具合に返事をしつつ、手を叩いて人を呼んだ。
すぐに飛んできたのは可愛らしい女の子だった。
女の子は私を見ると顔を赤らめた。
だから、私の顔がどうかあるのか?と何度も聞こうとするが、おっさんが女の子に指示を与え始めたので黙っていることにした。
女の子に出した指示は、私を厨房に連れていき、仕事を全部説明してやれ、というものだった。
厨房へ向かいながら私は少女に話しかける。
「さっきはなんで赤くなった?」
すると女の子は耳まで赤くして言った。
「おめえ様があまりにかっこよかったから……」
「え?」
私は今頃また思い出していたが、街の人々の視線はそういうことか、と。
「ありがとう。今までお爺さんやお婆さんにも言われたことがなかったよ」
「そうなんですか?そんなに綺麗なお顔立ちなのに……」
「自分で自分の顔を見ることはできないからね、わからないんだ」
「それだったら、おら、鏡を持っているだ……」
「ありがとう。恩にきるよ」
鏡の中を覗くと、確かに美形が一人。これが私か。かぐや姫のときと顔がかわっていない。つまり、そのままの姿で転生してきたことになる。
私はため息をついて鏡を女の子へ返した。
「ときに――お名前はなんとおっしゃるので?」
「名前?桃太郎だが、君の名前はなんというのかな?」
ふくよかで可愛らしい彼女は名乗った。
「おら、お花と申しますだ」
「お花ちゃんか、これからいろいろ世話になると思うが、よろしく頼む」
そう言われるとお花はまた耳まで柿のように赤く染まった。