帝
帰り道は意外とすんなりいった。
お金を持っていたので宿にも泊まれたし、荷物は少納言と大納言が持ってくれたりで楽チンだった。ペースはお婆さんに合わせてだったのでゆっくりだったが、意外と早く帰ってきた。途中、籠などを使った。それでもまだお金を持っていた。
私は港町の女将さんに感謝をしつつ、歩みを進めた。
道場に着くと、私は山門を叩いた。
お婆さんは連日の歩きでくたばっていたし、何より私はおっさんに会いたかった。
道場からは少納言に文を持たせて、家までひとっ走りしてもらった。3日後くらいにはお爺さんと合流できるはず。
道場で、まずおっさんに会った。
「よく帰ってきたね」
おっさんは涙ぐみながら言った。
私が数日ここに泊めていただきたい、と言うと、部屋を準備してくれた。
お婆さんは伸びをしながら聞いてきた。
「ここが桃太郎の修行していた道場かい?」
「うん。一年間お世話になった場所」
私は柔らかく笑った。
お湯の準備ができたと言われ、お婆さんから先にお風呂に入った。
私の番になり、お湯に浸かっていると、お花ちゃんの声がした。
「桃太郎さん、お着物ここに置いておきますね!」
私はああ、と返事をするとお花ちゃんに話しかけた。
「お花ちゃん……きびだんご、役にたったよ。ありがとうな!」
「あれくらいで役にたちましたか?」
お花ちゃんの嬉しそうな声が聞こえる。
「ああ、充分役にたったよ。本当に感謝している」
「それならよかった。お風呂あがったらご飯の準備をしてるだで」
「ああ、ありがとう」
お花ちゃんが元気そうでよかった……と思いつつ、ゆっくり湯に浸かった。
3日後、お爺さんが少納言に連れられてやって来た。
お婆さんはお爺さんと抱き合って再会を喜んだ。
私も嬉しくてもらい涙をした。
次の満月まであと3日だった。
私はお爺さんとお婆さんに天へ帰らねばならぬことを告げた。
お爺さんとお婆さんは大変驚き、そして悲しんだ。
私はおっさんにもこの話をしようと、おっさんの部屋を訪れた。
私はことの顛末を話すと、涙して言った。
「どうか、私と一緒に来てください」
おっさんは驚いた様子だったが、こう言った。
「ずいぶん待ったよ、かぐや姫……」
私はその名で呼ばれたことに驚き、困惑した。
「きみが鬼ヶ島に出発してからだった……俺はある夢を見た。」
おっさんが話し始めた。
「俺が前世で帝だったこと……きみの顔……すべて思い出したんだ。きみを追いかけようかとも思った。だが、きみを信じたい気持ちのほうが大きくて、今まで待っていたんだ」
おっさん……いや、帝の目にも涙が溢れてきた。
「まさか、またきみが天へ還らねばならぬとは……」
「お許しください。そしてどうか、私と共に来てください」
私は涙まみれになりながら、畳に頭を擦り付けた。
「かぐや姫……愛しているよ……」
そのまま、私たちは愛し合った。
――翌日。
お爺さんとお婆さんはあることを決めた、と言う。
「わしも鬼ヶ島へ行こうと思う。聞けば気のいい鬼たちだと言うじゃないか。お前も天へ還ってしまうのなら、ここにいても意味がないからのぅ」
お爺さんはまた涙して言った。声が震えていた。
お婆さんも言った。
「桃太郎、お前がいないこの世では私たちに希望はないんじゃ。せめて鬼ヶ島で、鬼たちの役に立って死んでゆくよ」
私も涙して答えた。
「ありがとう、お爺さん、お婆さん。私はそこまで思っていただけて本望です」
「ときに、婚約者は見つかったのかえ?」
「はい、帝……いや、師範代が一緒に来てくださるそうで」
私は顔を柿のように赤く染めた。
「そうか……お師匠さんか……」
「桃太郎、大切にしてもらいなさいね」
そこまで言うと、少納言、中納言、大納言が部屋に乱入してきた。
「かぐや姫、私たちじゃなくて他の人を選んだって本当ですか?」
中納言が泣き叫ぶ。
「相手は俺だと思ってたのに……」
少納言も涙する。
「僕はいい選択だと思うよ」
大納言は涙を堪えながら呟くように言った。
私はみんなを抱き抱えておいおいと泣いた。