再会
私が駆け寄っていくと、そこには元気な姿のお婆さんが。
「お婆さ〜ん!!」
と声をかけると、非常に驚いた様子でこちらに駆け寄ってきた。
「お婆さん、よくぞご無事で!」
「桃太郎、もしかしたら私を探しに来てくれたの……?」
「当たり前です!」
私はお婆さんとしばし抱き合って再会を確かめあった。
赤鬼がゆっくりこちらへやって来た。
「やっぱりお梅さんの知り合いでしたか」
「ええ、ええ。大事な息子です」
そんな会話をする二人の間に割って入ると、私は尋ねた。
「お婆さん、これはどういう訳ですか?鬼にさらわれて、それから何があったのですか?」
お婆さんは答えた。
「さらわれて来てしまったけれど、とてもよくしていただいているのよ。私は炊き出し係でね、みんなのご飯を作っているのよ」
「よくしていただいて?ならば何故お爺さんのことをほったらかしにしていたのですか?!」
「それはね、鬼たちが港へ入れないように規制がかかってしまったからなの。何通か文を出したのだけど……届いていない?」
「文なんてきてませんよ。それより無事でよかった……」
私は目頭を熱くした。
そんな私の目の前に、青鬼と緑鬼が立ち塞がった。
「お梅さん、知り合いか?」
「ええ、ええ。私のかわいい息子です」
すると青鬼と緑鬼が頭を垂れて言った。
「いつもお梅さんにはお世話になっています。どうぞ、以後お見知りおきを」
私は納得がいかなかった。
お婆さんは確かにあの時悲鳴をあげながらさらわれて行った。それに対して今のこの状況はなんなんだ。
先程とはちがう赤鬼が現れた。確か、こいつがさらっていったはず……
赤鬼は土下座をしながら謝ってきた。
「以前はお梅さんをさらってきて申し訳ない!お梅さんの作る料理があまりにいい匂いだったので、つい、連れて帰ってしまいました。お裁きは受けます。ですから、どうか他の鬼たちのことは許してやってください!!」
「裁きを受けると言ったな。では、お前の首をはねてやる」
するとお婆さんが赤鬼の前に立ち塞がった。
「桃太郎、彼はなにも悪くないのよ!ただ人間に対して無知だっただけなの!」
「お婆さん!退いてください!私はこの鬼の首をとらねば納得できません!」
お婆さんは大きく息を吸い込んで叫んだ。
「では、まず私を斬ってからにしなさい!」
しばらくの沈黙のあと、私は笑いだした。
「お婆さん、何を言っているかわかっていますか?」
「ええ。わかっていますとも。この島の鬼たちは皆心優しい鬼たちばかりです。この子を斬るというならば、まず私を斬りなさい」
私は更に笑った。
みんなが私がおかしくなったのだと思った。
少納言が呟いた。
「俺の勘は当たるんだ……いい鬼ばかりなんだよ」
中納言が翼を羽ばたかせながら言った。
「お婆さんがこれだけ言うんだ。信じよう」
大納言は黙って様子を見ていた。
「お婆さん、帰ろう」
私の目には自然と雨垂れのように涙が溜まっては落ちていった。
「でも、そうしたら皆のご飯の支度が……」
「皆のご飯とお爺さん、あなたはどちらを選ぶのですか?」
「…………」
お婆さんは言葉を失った。
大納言が深く考えた後、言った。
「お爺さんをこの島に連れてきてはどうだろうか?」
「お爺さんを?!」
「そしたら何もかもいい方向へ向かうんじゃないかと思うんだ」
私は悩んだ。悩んだ末、こう言い放った。
「まず、お婆さんは一旦連れて帰ります。その上でお爺さんの意見を尊重したいと思います。それで意義のあるものはいるか?」
一瞬の沈黙の後、拍手が起きた。何人もの鬼が拍手をしてくれた。
赤鬼がお婆さんに謝った。お婆さんはそんな赤鬼を慰めた。