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輝夜姫  作者: ちびひめ
14/18

赤鬼

音で気付かれぬよう最大の注意を図りながら鬼に近付く。


じりじりと、少しずつ。


後少しで鬼に手が届く、というところで、中納言がくしゃみをしてしまった。

「へっくしっ!!」

鬼がゆっくり振り返った。





今何をしてるかというと、鬼と談笑だ。



数十分前――


くしゃみをしてしまった中納言はしまった!と慌てて口元を押さえた。

ゆっくり振り返った鬼は、人懐っこい笑顔を浮かべると喜んだ。

「いやあ、お客様なんて珍しい!いらっしゃい!」


それからかれこれ世間話をしていた。



鬼が

「よかったらうちに寄っていってよ」

と笑いかける。

私はまだ警戒を解いていなかったが、鬼が住む場所も見ておいた方がいいと判断し、ついて行くことにした。


少納言なんかはもう警戒を解きまくっていて、ゆるゆると尻尾を振っている。

中納言は気まずそうにしている。

大納言だけは私と一緒で警戒をまだ解いていない様子だ。


鬼に案内され、住み家にたどり着く。

他に鬼はいないようで少しホッとした。

鬼は家の中に私たちを招き入れると、お茶を淹れ始めた。

相変わらず少納言と世間話で盛り上がる鬼。中納言も横から口を出していた。

私はというと、刀に片手をかけ、いつでも斬れるような体勢で座っていた。大納言も同じ考えのようで、緊張したまま座っていた。


私は世間話が一段落したところで聞いた。

「お婆さんがどこにいるか知らないか?」

「お婆さん?」

「しらばっくれるな!去年拉致したのはわかっているんだぞ!」

私はありったけの威厳を込めて叫んだ。


「あー――お梅さんのことかな?」

そのとき私は、お婆さんの名前も知らなかった自分に愕然とする。

家では「お爺さん」、「お婆さん」としか呼んだことはなかったのだ。

だが、多分、お梅さんというのがお婆さんのことだろう。

「お梅さんなら炊き出し場にいるんじゃないかなぁ……」

私は刀を抜くと、赤鬼に案内するように指示した。

赤鬼は

「そんな物騒なもの出さないでくださいよ。せっかくの男前が台無しですよ」

と、びくつきながら立ち上がった。

鬼の背丈は二メートル五十センチほどもある。正直、襲われたら一発でピンチだ。

鬼はため息をつくと言った。

「その物騒なものはしまってくださいね。みんなびっくりしちゃいますから」

歩き始めた赤鬼の後ろで、私は一旦刀をさやにいれた。しかし、片手はまだ刀にかけたままだった。

少納言が囁いてきた。

「かぐや姫、心配いらないって。きっといい鬼なんだよ」

私は腕を組ながら言った。

「まだまだ油断は禁物だ。」

「そうだそうだ!禁物だ!」

大納言が四つ足で歩きながら言い添えた。

少納言は、

「そうかなぁ……いい人だと思うんだけど……」

「正確には『人』じゃないですがね。」

中納言が言った。


それにしてもどのくらい歩くのだろう。海沿いの道を外れ、森の中の道へ入ってずいぶん経つ。まさか、体力が落ちたところで全員が喰われる……?

日が暮れ始めた。

赤鬼は、

「いけない、日が暮れ始めましたね。少し急ぎますよ」

と言ってペースをあげた。私と少納言はついていけるだけの体力があったが、問題なのは中納言だった。飛べば何とでもなるのだろうが、慣れない二足歩行で体力を消耗していた。

大納言はそれを見ていて辛そうだとわかったのだろう、中納言を背におぶって歩き出した。


いつもあれだけ喧嘩している三匹が喧嘩もしないで連携プレーで頑張っている。これはちょっとした感動を私に与えた。


私たちはやがて、大きな洞穴を目にした。

「あそこだよー」

のんびり言う赤鬼を無視して私は走り出していた。

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