鬼ヶ島
もらった賃金でお茶を飲むと、私たちは歩みを進めた。
あと一日歩けば港町、そこからは舟で一日漕げば鬼ヶ島だった。
私はここで、舟を譲ってくれる人を探さねばならなかった。そのためには何日かこの町に寝泊まりせねばならない。
私は私を使ってくれる宿屋を探した。
宿は意外とすぐに見つかった。更には賃金もくれるという。
私は感謝してその宿に泊まることにした。
宿屋の仕事は忙しかった。朝早くから掃除、洗濯。それが終わるとお客様の朝食の支度。間をぬって朝食をとり、お泊まりがあった部屋の掃除。
チェックインまでだけ少し時間があり、その後チェックインしたお客様のご案内、夕食の支度。
私はこの間の時間をぬって舟を譲ってくれる人を探した。舟は商売道具だからか、なかなか譲ってくれる人もおらず、一週間ほど経った。
舟が無理なら筏を組むしかない。そう思っていたある日、近所で葬式があった。
以前から病を患っていたお爺さんが亡くなったということだった。
ご近所だからということもあり、私も葬式に参加した。若い娘を一人残しての葬式だった。
私は徐々にこの娘と仲良くなり、私がここにいる理由を話した。
すると娘は、
「それならうちの舟を使って」
と言ってくれた。
ただ同然で舟を譲ってもらった私はただただ娘さんに感謝するばかりだった。
満月の輝くその夜、夢を見た。
天女が、
「再び月へ戻っていただく準備ができました。次の満月の夜にお迎えにあがります」
と言った。
私は
「まだやり残したこともある!戻らないぞ!」
と夢の中で喚いた。
すると天女は動じることなく言った。
「今回は、姫の婚約者も一緒に月へ昇っていただきます。次の満月の夜までにお一人、決めておいでになってください」
「え?!ちょっ?!ま、待って……」
と言ったところで目が覚めた。
じんわり汗をかいていた。
窓を開けると煌々と光る満月。これは夢ではなさそうだ。
婚約者を一人……
この時、私の中ではもう一人、決まっている人がいた。
これは少納言たちにも伝えねばならないだろう。
翌朝、私は三匹を乗せて舟を出航させた。目指すは遠くに見える鬼ヶ島。
交代で舟を漕ぎつつ、私は昨夜の話をして聞かせた。
大納言はショックで口がきけなくなり、中納言は慌てふためいた。少納言だけは、なんだか納得している様だった。
「……で、誰を連れていくのですか?」
少納言は聞いた。
「まだ……言えない」
中納言は
「私ですよね?」
と聞いてくる。
大納言はやっと口を開くと、
「僕ですよね?」
と聞いてくる。
少納言は
「俺に決まってるだろ!」
と譲らない。
舟の上でわーわー喧嘩が始まる。
私は一言静かに言った。
「相手は、もう決めてある」
喧嘩がおさまった。
一日舟を漕ぎ続けると、やっと鬼ヶ島へ着いた。
私は舟をロープで手頃な木に縛り付けると仮眠を取った。なんせ、まる一日舟を漕ぎっぱなしだったので、相当疲れたのだ。それは少納言たちも同じだったらしく、三匹と一人は物陰で眠りについた。
目覚めたら日が高く昇っていた。私は三匹を起こすと、いよいよ鬼退治へと向かった。
腰に下げた刀の重みが頼りになると感じたのは今ほどなかったと思う。
私は今一度舟と舟を繋ぐロープを確認した。
しっかりと固定できているようである。これなら安心だ。
しばらく海沿いを歩く。
カチャカチャという剣の音以外には波の音しか聞こえなかった。
それからもしばらく海沿いを歩く。
いた。
赤い鬼が一匹。魚を採っていた。
このお話の中では求婚者は三人としていますが、竹取物語のお話の中では求婚者は五人でてきます。
その他細かい点も変更しています。ご了承下さい。