かぐや姫
昔々あるところに、お爺さんとお婆さんが住んでいた。
お爺さんの仕事は竹取り。いい具合の竹を切って、それを物々交換して暮らしていた。
二人は大変仲がよかったのだが、二人の間に子どもは生まれてこなかった。それでも二人は仲睦まじく、細々と暮らしていた。
そんな二人に、ある日天啓が降りる。
「お前たちに『姫』を授けよう。これは神の使いである。大切に育てるように」
朝起きたお爺さんは同じく起きたお婆さんと目を合わせ、それが夢でないことを悟った。
お爺さんが言われた場所に行くと、一本だけ金色に光っている竹がある。
えいやっと、その竹を切ると、中には可愛らしい女の子がいた。「お告げ通りじゃあ!」お爺さんは女の子を抱き抱えると、お婆さんの元へ走って帰っていった。
お婆さんはたいそう喜び、女の子――姫を抱き抱えた。
姫の成長速度は並みじゃなかった。一日に一歳くらい年を取っていった。
十日も経つと、大人と変わらぬほどに成長した。
その輝かんばかりの美しさに、いつしか姫は、かぐや姫、と呼ばれるようになった。
かぐや姫は美しいばかりでなく、たいそう聡明だった。
かぐや姫の美しさのあまりに、三名もの求婚者がプロポーズして来た。
姫はここぞとばかりにあり得ないものをリクエストした。
求婚者たちは一蹴されてしまった。
さらには時の帝からも求婚されたが、これを無視した。「かぐや姫や、今日も帝からのお文が届いているぞぇ」
「無視してください」
「しかし、帝のご命令とあらば、わしらは無視することはできない。一目で良いから会わせろとおっしゃっている」
「一目が一目で終わらなくなるのでお会いできません」
「しかしのぅ……」
お爺さんとお婆さんは困り果てた。
かぐや姫はやがて、夜の月ばかり見上げるようになった。
月を見上げてはため息。
そんな中で一大プロジェクトが組まれる。
帝がお忍びで、かぐや姫を垣間見るというものだった。
ある夜、帝を乗せた牛車がかぐや姫の屋敷の前で止まった。
何も知らずに月を見上げるかぐや姫。
帝は一目見てかぐや姫に本気になってしまった。
「一目見るだけでいいとおっしゃっていたのに……」
お爺さんとお婆さんは困り果てる。
そんな折、かぐや姫からお爺さんとお婆さんに話があると言われた。
話というのが……
「私は月からやって来ました。月からの使者は成人と共に月へ還らねばなりません。私は成人しました。次の満月の日に私は月へ還ります」
「そ、そんなぁ……」
「かぐや姫や、還らないでおくれ」
お爺さんとお婆さんが嘆いた。
お爺さんとお婆さんの嘆きは帝の元へも入っていった。
「かぐや姫を月へ返してなるものか」
帝直々の命令で、かぐや姫の警護が開始される。
かぐや姫は
「その様なことをしても無駄だというのに……」
と嘆いた。
満月の夜、いつもよりも数倍の警護が増やされる。帝自身もかぐや姫の屋敷に足を運ぶという大騒ぎだ。
お爺さんはかぐや姫が連れていかれないようにと、ぎゅっと姫を抱き締めていた。
月の明かりが一層明るくなり、月からの使者が舞い降りる。
警護の者は弓を射たが、全く届かず目が眩んでまともにものを見ることすらままならなくなった。
お爺さんの意図とは反対に、お爺さんの体は動かなくなり、かぐや姫はするりとお爺さんの元を離れた。
三つ指をつくと、かぐや姫はお爺さんとお婆さんに最後の挨拶をする。
「お爺さん、お婆さん。今まで育ててくれてありがとうございました」
帝が慌ててかぐや姫の元を訪れる。
「帝、申し訳ありませんが、私は月へ還ります。いつか、もし機会があったらゆっくりお話でもしたいものです」
では、と言うと、かぐや姫は月からの使者に伴われて月へ戻っていった。
……と言うのが私の前世だった。