二匹のゴブリン
あれから数日。
アリサとカノンはほぼ毎日と言っていいほど大地の店に通っていた。おおよそサンとシズクに会いに来るためだろう
まぁ、偶にだがアイクとダイスとダミアンも混じっている事もあるが男同士で話もしたい大地にとっては嬉しいことだろう。
その数日の間で変わった事と言えば、アリサとカノンが友達を各一人づつ店に連れて来た事があったくらいだろうか。
その時は、直ぐさまアリサとカノンの後ろに隠れて覗いていたため、すこぶる可愛かった。
どうやら獣耳と尻尾については、余程信用出来る相手のようで事前に説明でもしていたのか、ひょこひょこと動くそれを見て、息を荒げながら「可愛いぃぃ!」と興奮していた。
すると二人は何故か突然お互いを見やり、ガッチリと握手をしていたのは同族的な何か感じたのだろうか。友人二人はその日に初めて会ったらしいが。
それからアリサとカノンの効果もあったのか、お話をしていると友人二人にはすっかり警戒を解いた二人は頭を撫でるのを許していた。
だが相変わらずサンはアリサにシズクはカノンにピッタリとくっ付いていて友人二人は羨ましそうにしていた。
そして、おもちゃに付いてきたラムネ感覚で大地の料理を堪能し、その日は帰っていった。
「むむむ」
大地は元々寝ていたベッド横の床に敷いた布団の中でそう思った。
本当は食堂の筈なのに……と少し悲しくなる夜だった。
あ、因みに大地がベッドで寝ないのはサンとシズクにベッドで寝て貰うためだ。流石に大地だけベッドで寝て二人には床に敷いた布団に寝てもらうのは外道でしかないから。
まぁ、『三人がが同じベッドで寝ればいいじゃん』と思うのだが、作者が精神的ダメージを受けるのでやってはいけない。
その次の日。
大地は早朝いつものように外へ出て、少し冷んやりとした空気の中、ポカポカとした太陽に当たっていた。
今日の雲はほとんど無く、風も吹いていない。とても良い快晴だ。
「いい天気」
大地は空を見ながら陽気な事を考えながら伸びをした。
少しの時間そこに居ると満足したのか「今日も頑張ろ」と一言呟き、家の方へ歩き出した。
扉の前まで進み、取手に手をかけようとしたその時、大地の背後にあった茂みが大きな音を立てながら揺れ動いた。
「なんだ?」と頭の半分程で『風で揺れたんだろう』と思いながらその茂みを見たが、そこには何も無かった。
「なんだ風か」と納得しながら取手に手を掛けて扉を開けた。
ガサガサ!
また茂みが揺れ動いた。
だが、今度はさっきより音が大きかった。
今度はなんだと大地は音がした方を向くと、そこには
二匹のゴブリンが倒れていた。
大地はとても驚いた。
「魔物は入ってこれないんじゃないのか」
と不思議に思いながら、倒れたまま動かない二匹のゴブリンを観察した。
大きさが大と小と違うことが分かる。大きい方は大地の腰くらいだろうか、一般的な大きさ。
小さな方はその一回り小柄だった。
そして、大きい方は小さい方に腕を乗せて倒れているためか庇っているようにみえる。
大地は (死んでるのか?) と思い、生死を確認するためか中腰になり、いつでも逃げることの出来る態勢で、一歩また一歩。ゆっくりと近づき始めた。
すると、小さい方のゴブリンにまだ意識があったらしく、右手が動き始め、大きい方のゴブリンを弱々しく揺すり始めた。
それは安否を確認するかのように。
少しの間揺すっていると視線でも感じたのか、止まって見ていた大地の存在に気付き、顔を向けた。
そして大地の顔を見据える。
大地を見るその目はゴブリンの物とは思えない程、澄んだ瞳をしていた。
純粋な……まるでビー玉のように。
見ていると吸い込まれそうな感覚が大地を襲う。
そしてそのゴブリンはおもむろに口を開き、カタゴトながらしっかりと言葉を発した。
「タス……ケテ……クダサイ」
大地は驚き過ぎて逆に冷静になってしまった。
この世界でのゴブリンは「ビャー」とか「ギー」など到底言葉には聞こえない不快な音を発し、それで意思疎通でもしているのか、基本的に集団で過ごしているという。
その世間一般的に知られているゴブリンが人間の言葉を発したのだ。
すると、そのゴブリンは痛みや悲しみに歪んだような顔をしたと思ったら、グッタリとし、線が切れた操り人形のように動かなくなった。
大地は (死んだのか?) と思い、さっき居たところより三歩ほど近付いてみた。
すると細くて短い感覚ながらも息をしていることに気付がつき、まだ生きている事が分かった。
だが、このまま野晒しにすると数時間で死んでしまいそうな程弱々しかったが。
大地はどうしようかと思ったが、このまま放って置くわけにもいかないからと保護することにした。
その動機には普通のゴブリンと違うような、この二匹は人間に友好的かもしれないという感覚が大地にはあったからだ。
とりあえず中に運び込み、応急措置をする為に二匹が倒れている正面に移動した。
そして何を考えたのか、両方のゴブリンの腹部に外側から手を回し、担ごうとした。
だが……
「お、重い」
大地には持ち上げられなかった。
それもそうだ、ゴブリンというのは中々筋肉質な体をしており成人男性の腰くらいある身長だ。少なくとも二十五キロはあると考えたほうがいい。それを片手に一個ずつは鍛えている人にしか無理だろう。
まぁ、アイク達は余裕で持てるだろうが、生憎この場には居ない。
大地は、以外と重く持ち上がらなかったため、仕方なく一度に運ぶのを諦め、軽そうな小さめのゴブリンから運ぼうと、首と膝裏に手をやり、お姫様抱っこをするようにして持ち上げようとした。
その時
突如大きいゴブリンの左手が動き、大地の腕をがっしりと掴んだ。
大地は内心めちゃくちゃビックリしていたが下手に動かないほうが良いと考え、黙っている。
そして
「ワタシノ......ヨメニ......テヲダスナ!」
大地はこっちも喋るかもしれない、そんな気がしていたので最初よりは驚かなかったが、それでも驚くことは驚くのか、冷や汗を滝のように流している。
それに加え大きい方のゴブリンの目は殺意と守るという決意に満ちて、燃えるようになっているためか、大地の冷や汗は一層増えた。
数秒間ほど大地は大きい方のゴブリンと目を合わせていた。いや、目が離せなかった。
目を離すと本当に殺されそうで体が動かないと言った方がいいのだろう。
すると、薄くチリーンと音がし、不意に扉が開く音がした。
大地は突然の事でゴブリンから目を離し、その方向を向いた。
扉の前にはサンとシズクが眠たそうな目を擦りながら欠伸をしている姿があった。
大地はドキッと心臓が跳び上がりそうになる感覚がした。
きっと初めて見るゴブリンを、サンとシズクは怖がると思ったからだ。
そう思ったのも束の間。サンとシズクはこちらに気付いた。
大地はまずいと思ったが、ゴブリンを見た瞬間、サンとシズクは少しだけ体をビクリとさせた。
ーーだが、それだけだった。
大地はもうどうにもなれとゴブリンの方を向き直し、担ごうとして手をやる。
ここでそういえばと大きいゴブリンを見てみると、まだ睨んでいるとビクビクしていたが、そこには小さい方と同じようにグッタリとして動かなくなった姿があった。
だが、息はしていた。
とにかく中へ入れる為に大地は小さいゴブリンをお姫様抱っこで担いだ。小さいながらも中々ズッシリと来た。
すると。
「この人達どうしたの?」
サンはシズクと普通に歩いてきながらそう聞いてきた。
大地は
「怪我してるから助けてあげたの」
そう簡潔に説明をする。
サンは「ふーん」とだけ言うと、大きい方のゴブリンに近付いて行った。
「おい」
大地はさっきの殺意の事もあり、サンを呼び止める為に少しばかり大きな声で言った。
だがサンは止まらなかった。
何をするんだと見ていると、サンはゴブリンの腹部に手を回し……肩まで持ち上げた。
「ハッ!?」
これに大地は生まれてきて二十一年の間で一番ビックリした。それに持っている小さい方のゴブリンを落としそうになってしまい、若干焦りもした。
そして、大地を見据え。
「助けてあげなきゃ」
サンはそう言った。
大きいゴブリンは三十キロ近くあると思うが、それを軽々と持ち上げたサンの腕力は下手をすると大地以上にあるのかもしれない。
その時大地は (もしかして、シズクもこの腕力持ってないよな……) などど考え、若干の苦笑いをした。
そして、家に中に運び込むために歩き出した。
(二階の部屋に運ぼう……救急箱は棚に入ってる筈) などと駆け足をしながら考えていたら、ふと横目でサンを見てみた。
左肩にはサンと同じくらいの、しかも三十キロ近くあるゴブリンが、足は前、頭は背中の方に垂らしながら軽々と運んでいる。
大地はどこからそんなに力が出ているのかと不思議でしょうがなかった。
「シズク、扉開けてくれ」
「うん」
扉の前まで来て、両手が塞がっていたのでシズクに扉を開けてもらった。
そして、椅子とテーブルのある食堂を通り抜け、二階に通じる扉もまたシズクに開けてもらい階段を登った。
サンは相変わらず軽々と階段を登ってきたので、大地は頼もしい様に見えてきて、何か複雑な気持ちになった。
そして居間を通り抜け、大地とサンとシズクが普段寝ている向かいの部屋に入った。
中に入ると、大地はシズクに布団を二つ広げてもらい、大地とサンはゴブリンをその布団に寝かせた。
大地は、休む間のなくその部屋を出て向かいの部屋である大地達の部屋に入り、その一角にある棚の上から包帯やら傷薬やらが入っている救急箱を手に取った。
そしてまたゴブリンが寝ている部屋に入った。
大地はゴブリンの横に膝立ちになり、二匹の傷の具合を見始めた。
全体的に大きな傷は無いが、所々に青アザが出来ている。打撲痕のようだ。
そして、細かい切り傷が頬と腕に数カ所あった。たぶん森の中を駆け巡ったのか、枝で出来た傷だろう。
最低でもナイフなどの刃物で出来た傷ではないと大地は確信する。
全体的に見てそんなに大きな傷は無く、安心しながら大地は、救急箱から傷薬と包帯を取り出した。
傷薬の蓋を開け、クリーム状の物を少し指先に付けてから枝で出来ただろう傷に塗り付けた。
ゴブリンの肌は以外ともっちりスベスベしていた。
まぁ、このまま放置でも大丈夫だが、一応包帯も巻いておいた大地。
サンとシズクは大地の隣に座っており、何やらゴブリンをまじまじと観察している。
大地は「取り敢えずこれでいいか」と一息つき、そういえばと朝ご飯がまだの事を気付いた。
ゴブリンの事は多少心配だが、まぁ大丈夫だろうとその場から立ち上がり部屋を後にした。
今日の朝ごはんはシンプルに目玉焼きとご飯とサラダにし、出来上がったので階段の下からサンとシズクを呼んだ。
すると奥から「はーい」と聞こえたのでその場で待っていると、トテトテと床を歩く音が近づいてきた。
そして、階段の上にサンとシズクの姿が見え、降りてきた。
大地は一足先に扉を開け、沢山あるテーブルの一角の椅子に座った。
サンとシズクも後に続いた。
テーブルの上には朝ご飯が三人分置いてある。
「「「いただきます」」」
三人は食べ始めた。
〜カット〜
朝ごはんが食べ終わり、片付けも終わり、大地は調理場の中に設けられた椅子に座り、お客を待っていた。
「今日も来ないかな……」
そんな事を考えながらも、ゴブリンの言葉を喋ることなどを考えていた。
ちなみに、サンとシズクはと言うと、食事が終わるや否やゴブリンの方へ行ってしまっていた。
大地は暇潰しにカウンターの椅子で本を読んでいると、不意に鈴が鳴り扉が開く音がした。
アリサ達が来たのかと思いながら大地は「いらっしゃい〜」と声を出した。
いつもならここでアリサが「こんにちわ〜」と声を掛けてくる。
……筈だが、その言葉は聞こえてはこなかった。
その代わりに「す、すいませーん」と控えめな声量で可愛らしい女の声が聞こえてきた。
大地は心臓がドキリと跳ねるような感覚がして、慌ててその方向を向くとそこには、扉を少し開けその隙間から頭だけを入れ、店内をキョロキョロと覗き「ふわぁ」と息を漏らしている姿があった。
すると大地の存在に気付いたようで、少し申し訳なさそうな表情を出し。
「あのー。ここは食堂ですよね? やってますか?」
と質問をしてきた。
大地はお客だと分かり。
「はい。やってますよ」
と答えた。
その答えに女性は「そうですか!」とちょっと嬉しそうな声を発して扉から頭を引っ込めた。
大地は (なんだ?) と久し振りのお客さんだからか少しウキウキしながら待っていると、外の方から
「やってるってよ!」
「おぉ! そうか!」
とさっきの女性ともう一人、男性と思われる声が薄っすらと聞こえてきた。
そして、少しばかりの間を置いて扉の鈴が
チリーン
と音を立てた。
外からは女性二人と男性二人の何ともバランスが良い人達が入ってきた。
その人達は胸当てプレートを付け、各々が武器を持っていたので冒険者パーティーと直ぐに分かった。
なので
「いらっしゃい。お好きな席にどうぞ」
と言った後に
「防具類はそこのスペースに置いて貰っても構いませんよ」
と付け加えておいた。
冒険者パーティーは中に入るや否や、外見からは想像できないほど広い空間に驚いてキョロキョロと店内を見渡していた。
そうしながら防具と武器を降ろし、窓際にある四角いテーブルの席に腰を掛けた。
そのタイミングで大地は人数分のメニュー表を渡しに行った。
いつもならすべての席に置いてあるのだが、今日は掃除をする為に、朝食の後にたまたま回収していたのだ。
「メニュー表をどうぞ」
と少し大きく薄い本を四人に配った。
それを開くと、肉料理や魚料理、サラダなど綺麗に組み分けされた文字が数ページに渡って書かれていた。
それに、そのメニューには大地が元々居た世界の料理も入っているため、簡単な説明文を入れるているのは、ちょっとした気遣いだ。
四人組は何を食べるか話し合っていた。
大地はその会話を横目に聞きながら、カウンターで本を読んでいた。その間ちょっとだけそわそわしてたのは内緒だ。
すると、さっきこの店はやっているかを聞いてきた女性が少し大きな声で「すみませーん」と言ってきた。
大地はすぐに「はーい」と応え、注文を聞きに行った。
「ご注文は」
と質問をすると
「はい。えっとね。この豚カツ定食とサラダで」
と注文を言い
「俺はーー」
と次々と注文をしていく。
……全員が注文を言い終わると大地は注文に聞き間違いがないか聞いておき「少々お待ちください」と言ってキッチンへ入っていった。
少しばかり存在を忘れてきているが大地はチート能力を使えるので、ズババッと料理を完成させる。
料理をしている時に四人組の話を聞いたりしていると。
「ここ凄いね」
などど非常に耳に良い話をしていて大地は嬉しそうだった。
そして完成した料理達を「お待たせしました」と四人組のテーブルへ運んだ。
全員が肉料理を選び、その肉からは熱々と肉汁が溢れ出し、踊っていた。
それを見た四人組は「わぁ」と歓喜の声を漏らしていた。
「ゆっくりしていってね」
大地はその言葉を言い残してまたキッチンへ入っていき使用した料理道具を洗い始めた。
そして。
「頂きます!」
と男女が入り混じった声が聞こえてきた。
少しの間を置き。
「うまぁーい」
と至福の声が聞こえてので、大地の顔も至福となった。
それから四人組は食べ終わり、大地と少しばかりお喋りをしてから会計を済ませた。
どうやらこのパーティはちょっとしたクエストをやっていたら道に迷ってしまい。
食料も殆ど持ってきてなく、腹を空かせていたらしい。
そして、街でいつも食べるお店より美味しかったなどと褒めてから。
「また来るね!」
四人組はそう言い残し、この店を後にした。
と思ったら、また入って来た。
どうしたんだと思うと。
「アヴィリストってどっちですか?」
と少し申し訳なさそうに質問してきた。
大地はある方向を指を指し、そっちに行けば貿易商の人が通る道があるからそれに沿っていけば街に着くよと教えてあげた。
冒険者パーティは「すみません」と感謝しながら今度こそ店を後にした。
大地は少し笑いながらまたキッチンに入り、久しぶりのお客と美味しいと言う言葉に満足しながら食器を洗っていると、階段の扉が開く音がした。
サンかシズクかと思って待っていると、
「大地!」
と随分と慌てたサンの姿が出てきた。
大地は
「どうした?」
と聞いてみると、どうやらゴブリンが目を覚ましたらしく、驚いているらしい。
大地はあと数枚の食器を急いで洗い、ゴブリンの元へ向かった。
最悪の場合、そのゴブリンは友好的では無く、襲われるかもしれないからだ。
だが不思議とそんな気はしない大地だった
今回はSimejiというアプリを使ってみました。
ᕙ(⇀‸↼‶)ᕗムキッ




