この世界の魔力について
「それじゃあ、サンとシズク借りて行くわよ」
「おう」
時は少し戻ってお魚パーティー開催のきっかけとなった青年が駆け込んでくる数十分前の事。
カノンはシズクの魔力うんぬんが気になるのか、アリサにシズクの魔力を調べようと提案した。
勿論、調べる為の場所と機材は有るとカノンは言う。
アリサも、サイリが言っていた、シズクの魔力に関して興味があったのか、いいねと了承した。
まぁ、その話を大地の恵み食堂のカウンターでしていたので、当たり前だが大地も居るわけだ。アリサとカノンは大地を向くと真っ直ぐ見つめた。
……言葉は無くとも友情があれば、見つめ合うだけで全てわかるというもの。友情って凄い! ……え? 違うって? ハハハ。
そんな事より、大地はしっかりと話を聞いていたようで、シズクの魔力を調べる事に首を縦に振った。
それから少しの間、食堂でダラダラしてから、最初のセリフに至る。
アリサ達は料理のお代をサリムに渡してから外に出ると、少し食堂から離れて輪を作るようにして並んだ。
カノンはみんなの準備が整った事を確認すると「三、二、一」とカウントダウンを始め、 ゼロになった瞬間、サン、シズク、アリサ、カノンの四人は薄い風切り音を残して消え去った。
前にもサンとシズクの服を調達する為に来た事のあるカノンの家へ『フォン』と不思議な音を出しながら床から三十センチ程空中に現れた。
シズク以外の三人は当たり前のように着地をするが、シズクは何とか両足で着地はするも、やっぱり出来ないようでそのまま後ろへ倒れ込んでしまい、尻餅をついた。
「うぅ」
カノンは直ぐさま近付いて声を掛けると、シズクの事を起こしてあげた。カノンは申し訳ない表情をしながら「どうしたら良いかしら……」と何やらブツブツと言っている。
サンもシズクに「大丈夫?」 と言うと、コクリと頷きながら「大丈夫」と返した。
シズクは怪我も無く、一安心した所でアリサはカノンへ早く行きましょうと急かすと、カノンはブツブツ言うのを辞め、「そうね」と何時もの状態に戻った。
出入り口の扉を開けると外から冷たい風が舞い込んで来た。アリサは、今は暖かい時期なのにと不思議に思いながら軽く身震いをしたが、外に出るとなんとなく意味は分かった。
周辺の建物は長らく誰も住んで居ないようで、蜘蛛の巣が張っておりボロボロで雰囲気が寒い。それに加え、この街を取り囲んでいる大きな壁が、太陽の光を遮っている為辺りは薄暗いのも原因の一つ。地面も冷え冷えだ。
因みにアリサは半袖だ。
サンとシズクも動きやすそうな格好をしており、肌寒そうだが、本人達には丁度良いらしく「涼しい〜」と言っている。
若いって素敵と思うアリサだった。まだ20近くだが。
因みにカノンは常にローブを羽織っているので心配ない。
するとカノンは
「もう一回転移して研究所の近くまで行きましょ」
とみんなに言うと、それを聞いたサンが嫌そうな態度をとった。どうやらサンはここら辺を散歩したいらしい。
前回ここに来た時、一瞬で解決した拉致事件があったにも関わらず、サンは怖くないのだろうか。少なくともアリサはそう思った。
まぁ、犯人を撃退したのは紛れもなくサン自身だったが、もしもあんなムキムキに鍛えている人ではなく、一般的な肉体をしている人にあの蹴りをお見舞いしてしまったら余裕でこの世から旅立ってしまうだろう。
これが成長したらどんな化け物になってしまうのだろうか……。
結局アリサは、サンの真っ直ぐな瞳に撃ち抜かれて研究所まで歩くことにした様だ。
勿論カノンとシズクもついて行く。
「あ、そういえばカノンが言ってた研究所ってどんな所? やっぱり新しい魔法の研究とかしてるの?」
とアリサが歩きながら口を開いた。
その質問に、カノンは首を大きく横に振った。
「……そんな難しい事する様な所じゃないわよ。研究所って言うけど、だいたい冒険者御用達の便利アイテムの扱いをしてるわね」
「それって工場的な?」
「んー、一応魔力を使ったアイテム作ってるから研究所でいいんじゃない?」
「ふーん」
因みにその研究所だが、カノンがお世話になったり、お世話をしている所であり、決して禁断魔法の解明とか戦術級魔法の開発なんかをしている所では無い。
そんな物より冒険者御用達の便利アイテムを開発、製造している。
中が見た目より広くなっている、拡張魔法を使ったバックは勿論の事。超低魔力を使い続けて半永久的に火をつける事ができるコンロみたいな物。などなど色々とある。
そんなこんなで数十分。
サンとシズクのお願いで、大通りに寄り道して、大量の人間と出店の数々に目を輝かせてから研究所に着いた。
「ここよ」
そう言われて目の前の建物を見てみると、赤っぽいレンガを基調に作られた、とにかくデカイ、倉庫みたいな物がどっしりと構えていた。
「……あ、今日私たちが用があるのはこの建物じゃなくて、隣の建物だからね」
え!? 違うの!? と驚きつつも左隣を見てみた。だが、倉庫みたいな所から出入りする扉くらいしか見つからなかった。
「……どっち見てるのよ、右の方よ」
そう言われるがままに右を見ると、倉庫みたいな所から細い通路が繋がって、ちんまりと同じ様な建物があった。
ちんまりと言ってもそこら辺にある家より何倍も大きいが……全ては倉庫みたいなのが原因だろう。
早速行きましょうと、カノン達は倉庫みたいな建物を横目にちんまりとした建物へ歩き出した。
暫くして到着すると、カノンは鉄製の扉に手を掛けた。その扉は周りが暖かいにもかかわらず、凄く冷んやりとしている。
扉を開けると、大理石の様なツルツルとした床が一面の、通路が伸びていた。
そこを少し進んで行くと、階段に突き当たる。それを登り、二階へと行くと、カノンは一つの扉の前で立ち止まった。
周りは、小さな窓から入る僅かな太陽の光で照らされているので非常に薄暗い。
コンコンとノックをして扉を開けると、中から光が漏れてきた。
カノンは「どうも」と言いながら入って行き、アリサ達は「お邪魔します」と恐る恐る入って行く。
中へ入ると、この世界観には似合わない白衣を着た人達が十数人程だろうか、研究に精を出しており、周囲の棚には得体の知れない機材が所狭しと並べられている。
それに、近くのテーブルには試作品なのか名札が貼られたアイテムが置かれている。
すると、白衣の人達はチラッとこっちを見た。と思ったら自分たちの研究に戻ってしまった。アリサはなんだこの人たちはと思うと、またバッとこっちを向いた。
そして、慌てて研究を中断すると体をカノン達へ向け頭を下げた。
「カノンさん! お疲れ様です!」
「「「お疲れ様です!」」」
この光景にはアリサだけではなく、サンとシズクも苦笑いをするしかなかった。
カノンはいつもの光景の様にそれを気にせず、「お疲れ様」と返しつつ、一人の男性を手招きしてアリサ達の所へ呼んだ。
その人は全体的に清潔感があり、とても白衣が似合っている人だ。
「前言ってた知り合いの子供を連れて来たわ」
「はい。この子達ですか?」
男性はサンとシズクの獣耳と尻尾を見ると、「わぉ……」と目を輝かせた。
「ほほぅ。昔、本で読んだ事が有りますが本当に居るとは……」
「最近は知り合いの店でよく見かけるけどね」
それを聞いた白衣の人は勢い良くカノンへ顔を向けながら「そうなんですか!?」と叫んだ。
少し仰け反りながら「ええ。街にも結構居るらしいわよ」と言った。
白衣の人は腕を組みながら「へぇ〜」と息を吐いた。
すると、白衣の人はふと思い出す様にアリサを見つけた。
「あ! すいません。カノンさんのご友人ですか……挨拶が遅れました。私はハンと言います」
気付いてくれるのか心配だったが、気づいてくれた事に嬉しく思いつつ「私はアリサです」と丁寧に返した。
するとカノンは「それで、今日は調べたい事があって来たんだけど」と不意に本題に入った。
両手をサンとシズクの頭に乗せ「この子達の魔力を調べたいんだけど」と言うと、ハンは「いいですよ」と軽く言った。
すると、ふと何か閃いたのか「そういえばデータを取りたい物があるんです」と言いながら奥の方へ行ってしまった。
アリサはハンの後ろ姿を見ながら「あの人こっちの了承は得らないのね」とカノンに問いかけると「いつもの事だから気にしないで」と返事が返ってきた。
そんなこんなで、ハンは手の平サイズのガラス玉を一つ、大事そうに持って来た。
「これのデータを取ってからでも良いでしょうか?」と今更聞きながらガラス玉をアリサ達に良く見せた。
何やら中心が緑色に発光している不思議な物だ。
「これを掌に乗せて貰ってですね、発光している色で大体の魔力量を調べるんですが」
「原理は?」
カノンが問う。
「その質問待ってました。えーとですね、周囲の魔力に応じて多色に発光する鉱石を散歩中に見つけまして、それを微調整しながら凝縮し、ガラス玉の中に埋め込んでみました」
その答えをカノンが聞くと「相変わらず、えげつない技術力ね」と呆れた声を出した。
「少々大変でしたが、微調整の甲斐あってガラス玉に触れている物のみの魔力量を調べる事が出来る様になったんです」
「それは凄いわね」
するとアリサは、ハンが持っている時の色である緑色はどの程度の魔力量なのかを聞いたが、まだ情報量が少ないらしいので分からないという答えが返ってきた。
そして色についてだが、一番少ない物から赤に始まり、増えていくにつれて赤→橙→黄→緑→青→藍→紫と変わってゆくらしい。
簡単に言えば虹の上から下への色という事だ。
因みに冒険者に需要の無いガラス玉はデータが取れる様に冒険者学校などに寄付するらしい。
そんなこんなで説明をアリサ達に聞かせ、早速測定に入った。
先ずはシズクから始める事になり、掌をお椀型にして出してもらった。落としてしまったら大変だからだ。
お椀型にした掌にガラス玉を入れて様子を見ていると徐々に色が変わってきた。
「「おぉ」」
その場の全員が興味津々に覗き込む。
ガラス玉は黄色から緑になり、やがて青になり、ストップした。
これがシズクの魔力量の様だ。
データが無いので分からないが、少なくとも成人のハンより圧倒的に多いのは分かった。
これが才能的な物なのか。
「むぅ。この歳で私より魔力量が多いとは……伸び代を考えるとカノンさんクラスの魔法使いになれるかもしれませんね」
さらっととんでもない事を言ったが、お次はサンだ。
シズクと同じくお椀型で手を出してもらい、その中にガラス玉を入れた。
青く光っていたガラス玉は徐々に色を変えてゆく。今度は少なくなっている様で、青から緑、黄色になって、まだ少なくなっていく様子だ。橙色になり、とうとう赤になってしまった。
「これは……ほぼ魔力は無いようですね、でもゼロではなさそうですので大丈夫そうです……」
ハンはいつの間にか持っていた紙に結果を記入している。
「はい。次はアリサさんですね」
「え、私も?」
当たり前ですよ、と言いながらガラス玉をアリサに渡す。
嫌々ながらもアリサの掌では勝手にガラス玉の色が変わってきた。
赤色から橙色になり……ん? 橙色になり……これはストップした様だ。
「はい。分かりました」
「ま、まあ、魔法が出来ないから物理系の弓とかやってる訳だし……」
「そんなの分かってるわよ」
サンは、何故かニヤニヤしている。
「同じだね、アリサお姉ちゃん」
「うぅ……はぁ」
嬉しいのか嬉しくないのか複雑な気持ちながら、次はカノンの番だ。
「はいどうぞ」
アリサがカノンへガラス玉を渡した。
さてカノンの掌の上では早速色が変わってきている。当然橙色からは上になる訳だ。
黄色になり、緑になった。まだまだ増えそうだ。
青から藍色になり、シズクの魔力量を悠々と越え、色は暗くなっていき、とうとう紫になった。
「これは凄いですね」
「……正直自分でも驚いてるわ」
ハンはカリカリと紙に記入すると、一回頷いてからお礼を言った。
「ありがとう御座いました、では本物の魔力測定をしましょうか」
するとアリサが閃いた様に一つ提案をした。
「別に二人の魔力計らなくて良いんじゃない?」
「ん? 何故ですか?」
理由は簡単なものだった。
シズクは正確な魔力量は分からないが潜在魔力的に十中八九魔法使い系になるだろうし、サンに至ってはアリサと同じ物理系になるしかないという大体の結果は分かったからだという。
「うーむ。それもそうですね。本来の魔力測定って結構面倒くさいですし、このガラス玉のデータがある程度取れたら要らない子になりますね」
突然だか本来の魔力測定の説明をしよう。
この世界での魔法とは、魔力が血液の様に身体中を巡っており、特定の呪文を唱える事により体内の魔力が反応し、それに応じた量の魔力を電車の路線変更をする様に掌などに変え、炎や水へと変化した魔力が放出されるのだ。
そして、身体中を巡っている魔力は血管の様に筒状として流れている。しかも、必ず一定量で全身をめぐる速度はキッカリ一分。
それを利用して、魔力測定をする訳だ。
手首に専用の機械を装着し、測定をジャスト一分間する事でその間に流れた魔力の量を視認出来るという事。
ハンが言っていた「面倒くさいですし」は機械自体が大型で持ち運びが難しいに加え、それがある場所まで移動しないといけないという事を指している。
「それじゃあデータが集まったら報告してちょうだい」
「分かりました。今思えば、このガラス玉は画期的な発明なんですね」
「そうね。精々この技術を盗まれない事ね」
「ははは。こんな技術はそうそう真似できるものではないですよ」
「それもそうね」
そんな軽い感じで時代が変わろうとしている正午を過ぎた頃。
そんなこんなで、シズクの魔力も分かった事だし、帰る様だ。
「今日はありがと。例の知り合いの店だけど、大地の恵みって言う食堂だから来てみてね、場所は……うーん。結構高レベルの冒険者に聞いてみて、その中に獣人族も混ざってるから」
ハンを筆頭に他の白衣の人達全員がカノンへ
「「「お疲れ様でした!」」」と送ってから研究所を後にしたアリサ御一行。
帰りは、サンとシズクもへとへとの様で、シズクはカノン、サンはアリサの背中で眠ってしまった。
まぁ、テレポートを使えば一瞬で帰れるのだが、背中からギュッと抱き締められるという幸福を十分に味合うために、あえて歩いて帰るようだ。
たっぷりと味わってから大地の店へと帰ると、何故だかお客さんが数人河原へと走っていた。
どうしたのだろうと、店に入ると、大地が「急遽お魚パーティ開催です」と言ってきたので魚をたらふく食べてから帰ったアリサとカノンだった。




