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第五話 奇跡も、魔法も、あるんだよ

 朝になり、牢屋にも日光が差し込んできていた。

 

「起きたか?」シュウジが訊いてくるので「ああ」と僕は答えた。

 

「……夢の中で悪魔に会った」僕は報告する。

「俺もだ。マナがどうとか、魔法がどうとか言っていた」

「じゃああれは夢じゃなかったんだ」

 

 僕はポケットから指輪を取り出して、シュウジに見せた。

 

「夢魔スレイペン。確かそう名乗っていたような気がする」僕が言うと、

「悪魔の一種……夜行性の生き物なのかもしれないな」シュウジが冗談を言った。

 

「うるさいわね。起きちゃったじゃない」

「むにゃむにゃ……モエはまだ寝ていたいのです」レイコとモエも起き出してくる。

 

 この世界には本当に悪魔と魔法が存在するのか。議論となった点はそこだった。

 

「悪魔と魔法が存在するとなると、いよいよもってファンタジー世界だな。その指輪を暖炉にくべたら、『一つの指輪』って文字が浮かび上がってくるんじゃないか?」シュウジが茶化す。

「指輪をはめたら透明になったりするのか? 勘弁してくれ」

「これでドラゴンまで出てきたら、中世とは名ばかりの異世界ってことになるぜ」

「ああそうだな……もしそこまで行ったら覚悟を決めるしかないだろうな」僕は答える。

 

 そして――

 

『足枷よ、砕けよ』

 

 誓って言うが、僕は冗談で言ってみただけだった。だが、僕の意に反して、足枷は簡単に砕け散った。

 

「ヨシノブ……今何した? 魔法を使ったのか? つーか何語を喋ったんだ?」

「そんな……魔法なんてあるわけ……」レイコが怯む。

「実験だ実験。とりあえず再現性の確保が課題だ」シュウジは理系だ。面白い現象を目にしてはしゃぎ回る様は、まるで子供のようだった。


「足枷よ、砕けよ」シュウジが言っても、何も起こらない。

『足枷よ、砕けよ』僕が言うと、シュウジの足枷が砕け散った。


「分かった。魔法が使えるかどうかは、指輪の有無で決まる。貸してみろ」シュウジが指輪を手に取る。

『足枷よ、砕けよ』モエの足枷が砕ける。

『足枷よ、砕けよ』同様に、レイコの足枷が砕けた。


『光あれ』シュウジが冗談交じりに呪文を唱えると、部屋の中に数個の光の玉が浮かんだ。それは神秘的で、いかにも幻想的な光景だった。


「こんなちっぽけな指輪で、いっぱしの魔法使い気取りだな、こりゃ。とにかくここから脱出しよう」シュウジが言った。僕とレイコ、モエは同意した。


 僕の胸は高鳴った。この世界に魔法があるのなら、現代に帰る方法もあるのかもしれない。

 

『錠前よ、外れよ』シュウジはこの新しいおもちゃがお気に入りのようだった。


 ガチャリと音がして、錠前が外れた。ドアが開く。すぐにこの前の衛兵が音を立ててやってくるのではないかと危惧していたが、それは杞憂に終わった。どうやら四六時中見張りを立てているわけではないらしい。

 

 僕らに館の構造が分かっていたといえば、嘘になる。僕たちは一度ならず迷った。ただ、地面に敷かれた絨毯が行き先を指し示し、シュウジのマッピングセンスが組み合わされば、解答に到達するのは時間の問題だった。

 

「ここを曲がれば応接室か何処かに出るはずだ」シュウジが言う。

「この大きな扉は?」「開けてみよう」はたして扉はすんなり開いた。


 だが、そこには先客がいた。


「こんな朝っぱらから、一体何の騒ぎだね?」そこには上等な上着を着た貴族然とした男が、立っていた。


「あなたが、領主様ですか?」モエが問いかける。

「そうだ。私の名前は、アンリ2世という。ああ、思い出したぞ。少し前に怪しい四人組を捕まえたと衛兵が息巻いていたが、それが君たちかね」

「そうです。私たちは確かに変な格好をしているかもしれませんが、魔王じゃありません。なので脱獄しました」レイコがしれっと言う。


「ふむ。実のところ、君たちの働きぶりは住民たちから聞き及んでいる。自称旅人だそうだが、一体何が望みなのかね? 金か? 定住か?」

「実は私たちは故郷に帰りたいのですが、どうすれば帰れるのかが分からないのです」単刀直入に僕は言った。

「そうか。君たちは『漂流者さすらいびと』か……」

「何か御存知なのですか?」僕が問うと、領主アンリ2世は答えた。

「この辺りでは、ときどき歴史の狭間に、故郷を持たない人々が現れると聞いている」


「そうだ。君たちは預言者でもあるのだろう? 私がこの先どうなるのか予言してくれれば、衛兵が取り上げた黒い箱はそちらに返そうではないか」


「フランク王国はあと300年は栄えます。詳しいことはあの箱が無いとわかりませんが、この地方も安定して発展するはずです」

「ふむ。悪くない未来だな。それで、君たちはこれからどうするつもりかね?」


「このフランク王国の主都、パリに行こうと思います」僕は答えた。

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