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第四話 夢魔スレイペン

 テララという少女は、僕たちに村落を案内してくれた。井戸、水車に始まり、鍛冶屋に酒場、教会などだ。僕たちは様々な場所に行き、その変な格好について質問されると共に、歓迎を受けた。やはり若者はどこにいっても貴重な労働力なのだ。

 僕はテララ宛に食事を提供してもらう代わりに、薪割りなどの肉体労働をするという約束を取り付けた。村の人は喜んだ。テララの父が死に、あの家には働き手がいないことが問題視されていたからだ。

 シュウジはゲームが無いと死ぬ体質なので、たとえ薪割りであっても、何かやっているということはよいことだった。モエとレイコは裁縫の腕を発揮して、服の修理を請け負っていた。

 

 それから一週間が過ぎた。

 

「僕たちは旅人です。どこか大きな街か、あるいは、この国の首都に行きたいんです」

「ここフランク王国の首都というと、パリのことかね? ここからはずいぶん歩くことになるよ」

「はい。できるかどうかは分かりませんが、王様への謁見を望むつもりです」

「ふうむ。しかし王様のところには謁見待ちの行列ができているという噂だ。割り込むにはコネが必要だな。ここの領主様にはお会いしたかね。早くお会いして、自分達の立場をはっきりさせたほうがいいと思う」


 その老人の助言を受けて、僕たちは領主様に会いにいくことになった。

 結果から言えば、それがいけなかった。

 

 豪華絢爛とまでは言えないが、領主様の館は遠くからでも良く見えた。その周囲には壁があり、人の出入りを阻んでいる。僕たちは堂々と館の門の前まで歩いていった。

 

「あのう……」「誰だ、名を名乗れ」「ヨシノブ、シュウジ、モエ、レイコの四人です」「聴き慣れぬ名だな。先日、西の魔女ペルペが死んだ。遺言にはこうあった。幾名かの魔王が現れ、災厄を振り撒くと。お前たちが魔王でない証拠を出してもらおう」

 

 僕らにはそんなものは無かった。ただ、働いて貯めた十数デナリの銀貨があっただけだ。だから、質実剛健な衛兵に取り押さえられたのは当然だったといえる。

 

----

 

 牢屋の良いところを挙げるとすれば、何もしていなくても毎日パンが運ばれてくることだった。黒いボソボソしたパンと水だが、囚われの身では品質に文句を言ってもしかたがない。

「これじゃ薪割りでもしてたほうがマシだったな」シュウジが零す。

「この服を売り払って、お金と普通の服に変えといたほうがよかったかもね」レイコが分析する。

「でも考える時間はいっぱいあるよ」モエがフォローする。


 そう。考える時間だ。なぜ僕らはこの世界に召喚されたのか。思考しなければならない。イエス・キリストはいない。とすると、都市部における信仰は多様性を維持しているはずだ。魔女と言いながら「西の善き魔女」と、その存在を認めている。キリスト教圏でならありえないであろう光景だ。

 

 牢屋に灯りなどというものはない。

 まずモエが、次にシュウジとレイコが、最後に僕ことヨシノブが、全員眠りについた。

 そして、それは体感で、僕が三時間ほど眠った後のことだった。

 

「お眠りのところ大変失礼しますが……」

 

 目を開けると、眼前に黒いものが浮いていた。トゲトゲもしている。新種の生物だろうか。

 

「名前は?」

「私は夢魔スレイペン。いやいや、そんなことはどうでもいいのです。あなた方はこんなところで一体何をなさっているのですか?」


「見ての通り足に重しを繋がれている」「なら『粉砕』の呪文でも何でも使えばいいでしょうに」


「魔法?」まいった。タイムトラベルに引き続き、ファンタジー要素まであるのか。やれやれ。


「つまり……あなたたちは魔王クラスの膨大なマナを持ちながら、使い道を知らない。そうなのですか? ようやく仕えるに値する主君を見つけたかと思えば、よもや魔法音痴だとは……」


「お前は何だ」「あの打ち捨てられた指輪に宿る、一匹の使い魔でございます」


 悪魔はうやうやしく礼をして、溶け去って行った。全ては夢だと思いたかった。

 だが、僕は起き上がると、指輪を探した。牢屋の奥に、それはあった。金色の質素な指輪だった。僕はそれをポケットに突っ込むと、今の夢の内容を忘れるために、二度寝した。

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