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第二十話 国王との謁見

 国王との謁見の広間。赤く柔らかな絨毯が敷かれた上に、僕たちは立っていた。

 寸分の乱れも無く並ぶ屈強な近衛兵が、両端から僕たちにプレッシャーを掛けてくる。

 玉座の隣から、一人の太った男が進み出て言った。


「四賢者殿。トゥール・ポワティエ間の戦いに勝利できたのは、国王陛下の卓越した戦争指揮もさることながら、あなた方の予言のおかげでもあります。ピピン2世前国王陛下が生み出し、シャルル・マルテル国王陛下が鍛え上げた騎兵隊はフランク軍を勝利に導きました。兵士たちはあなた方の行なった奇跡によって癒され、戦死者は最小限に抑えられました。なんと礼を言ってよいものか。これまでの数々のご無礼、どうかお許しください」

 

 大柄の太った男、宰相メルローは僕たちに向かって深く頭を垂れた。無論、もはや僕たちが魔王であることは周知の事実となっている。その上で、この場で四賢者と呼んでくれたということは、魔王であり賢者であるという矛盾した僕たちの存在を、フランク王国が認めてくれたということだ。

 

「頭を上げてください、宰相メルロー殿。故郷を持たぬ我々に、これまで衣食住を提供してくださった御恩は一生忘れません。それに、予言とはただそれだけでは成り立ちません。優秀な理解者がいてこそ真に意味を成すものです」僕はメルローと共に、サヴァンのことも持ち上げる。

 

ペーパーの生産は順調に進んでいます。ペーパーの販売により、フランク王国の修道院のほぼ全てが黒字化を達成。聖書の原典からの写経計画は、各地の修道院で順調に進んでおり、年内には全主要都市の修道院に、再来年までには大小に関わらず全ての修道院に聖書が『配られる』予定です」

 

 サヴァンは最後のくだりを強調して言った。彼もまた、僕たちの予言を現実にした一人なのだ。

 

「それは素晴らしい。国王陛下も、主イエス・キリストもさぞお喜びになられることでしょう。ペーパーの発明者、サヴァン殿。この偉業のために、いずれあなたはキリスト教の聖者の末席に並ぶことになるやもしれませぬ」シュウジはサヴァンを思いっきり持ち上げる。

 

 聖者の末席。その響きに、サヴァンは軽く眩暈を覚えたようだった。

 

 魔王がキリスト教を信じているという壮絶な矛盾に、サヴァンは別の解釈を見つけていた。彼らは魔女ペルペが予言した魔王などでは断じてない。彼らは神の遣わした「使徒」なのだ! と、サヴァンは公言してはばからなかった。その証拠に彼らはフランク王国に味方し、奇跡を起こし、我々を勝利に導いたではないか、と。

 

「国王陛下との謁見の時間です」

 

 天幕が開かれ、玉座が、シャルル・マルテル国王陛下が姿を現す。

 僕たちは絨毯に片膝をつき、頭を下げる。

 

「おお!おお! なにをしている。顔を上げよ四賢者殿。立ってその御姿を良く見せてくれ。諸君らの働きぶり、まことに、まことに見事であった」

 

 僕たちは顔を上げ、言われたように立ち上がる。

 

「諸君らになんでも望みの褒美を取らせよう。なんなりと申すがよい」

 

「本当でございますか」僕は念のため確認する。


「神に誓おう」シャルル・マルテル国王が宣誓する。


「では……『ランゴバルド王国の征服』を、お願い申し上げます」


 謁見の間にざわめきが広がる。軍事的戦略は国家の重要案件である。それをこのような場で願い出るなど、本来であれば正気の沙汰ではない。

 

 ランゴバルド王国は、イタリア半島を支配するゲルマン系ランゴバルド族による国家である。ランゴバルド王国は、かつてのローマ帝国の主都であったローマを、完全に包囲するように発展してきた経緯がある。かろうじて現在のローマは独立を保っているが、東ローマの助力を期待できなくなったローマ教皇が、いずれ西ローマの末裔たるフランク王国に援助を求めたとしても不思議なことではなかった。

 

 シャルル・マルテル国王が呟く。

 

「ふむ。余もそれは考えていた。ただ、東ローマの面子もあろうから、言い出せなかったのだ。あるいはその事業は我が子ピピン3世に託そうとも考えていた。少し予定が早まったようだな」

 

 宰相メルローは突然の大計画を前に、頭の中でそろばんを弾き始める。大司教サヴァンは偉大なるローマ教皇のことを想ってだろうか、そっと目を閉じた。

 

「教皇に使いの者を送らせよう。もし向こうから半島の奪還を願い出るようであれば、フランク王国はランゴバルド王国征服計画を発動する」

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