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第十一話 炎魔ガーシュイン

 語るに足る全ての物語がそうであるように、この話は猫から始まる。

 

 僕らはサヴァンの館から出られないので、館の中を歩き回って暇を潰した。広い館なので、所々に絵画が掛かっている。中にはサヴァン自身の肖像画もあった。

 僕とシュウジが猫と竜の描かれた絵画を見つけたのは、そんな時だった。

 指輪の中の夢魔スレイペンが言った。「猫の絵だ……何と恐ろしい」

 

「猫のどこが恐ろしいんだ?」シュウジが訊ねる。

「御存知ないのですか? 世界の終わりが来たとき、400キュビット(約20メートル)の猫の軍勢が現れて悪魔のかしらたる漆黒の竜と戦うんです」

 

 その話は初耳だった。

 

「この世界に猫はいないのか?」シュウジが問う。

「いません。猫は遠い昔に別の世界に旅立っていきました。残ったのは老猫ミールだけです」

 

「おいおい、まさかドラゴンがいるという話じゃないだろうな」シュウジが訊ねる。

「ドラゴンは居ますよ。魔女ペルペが生前、ゲオルフというドラゴンと取引をしたという噂があります」

 

「猫が居なくて、ドラゴンが居るのか……この世界について、少し認識を改めないといけないな」僕は唸った。

 

「これであらかたこの館は調べ尽くしたわけだが、まだ入っていない部屋がある。サヴァンの書斎と寝室だ」シュウジは全部の部屋をマッピングするまでやめる気は無いらしい。

「衛兵がいるのに、どうやって入るんだ」「簡単じゃないか。『衛兵よ、眠れ』と唱えればいい」「なるほど」僕は同意した。

 

 まるで盗人ぬすっとだが、僕らを館に幽閉しようとしたサヴァンもサヴァンだ。せっかく稼いだデナリウス銀貨。もっとパリを観光したいのに、サヴァンに邪魔されたようなものだ。

 国王陛下との謁見も実現しそうにない。だからといって、僕たちは、このままこの館で老いていくつもりなどさらさらない。

 

『衛兵よ、眠れ』


 衛兵は眠りにつき、崩れ落ちる。僕たちは彼を横に寝かせると、サヴァンの部屋に入って行った。机には羽ペンとインク壺が置かれており、また、僕らが持っているのと同じような指輪が一つ置かれていた。

 

「ガーシュイン!」叫んだのは指輪の中のスレイペンだった。「あれはガーシュインの指輪だ。もう一つの指輪だ」

「どういうことだ? 指輪はこの世にいくつある?」シュウジが問う。

「私の知る限り、四つあります。スレイペン、ガーシュイン、ラヴェル、ブーランジェ。いずれも私のような悪魔を封じた指輪です」

「そうか。じゃあこの指輪は貰っておこう。ところで……全てを統べる『一つの指輪』まであるんじゃないだろうな?」

「そういうものは存在しません。……なぜそんなことを訊くんです?」

「俺たちの世界には指輪物語っていう伝説的な物語があるんだよ」シュウジが言う。


「『ガーシュイン、喋れ』」

「んあ? 俺を呼ぶのは誰だ?」指輪が喋った。

「俺はシュウジだ。お前のあるじになる者だ」

「そうか。あんたが新しい魔王か。じゃあ用事があったら呼んでくれ。力を貸そう」


「『炎魔ガーシュイン』。俺だ。スレイペンだ」

「おお! その声は『睡魔スレイペン』か。久しぶりだな。そうかそうか。お前もあるじを手に入れたか。ならば魔王は二人に増えたな」


「魔王?」僕は訊ねる。


「なんだ。知らなかったのか? お前たちが魔女ペルペが予言した魔王だ。その証拠に、指輪を二つも手に入れているじゃあないか」ガーシュインは答える。

「指輪は四つ。俺らも四人。確かにつじつまは合うな」シュウジは言った。

「魔王になんてなりたくないよ」僕は抵抗する。


 しかしガーシュインは語り続ける。


「だが運命は変えられない。魔女ペルペは予言した。魔王が現れると。そしてそうあれかし。そうなった。お前たちはあと二人いると言ったな。いずれ残りの二つの指輪も手に入るだろう」


「僕らは魔女ペルペを信じちゃいない」

「信じる信じないの話じゃないのさ。これは運命だ。選択の余地は無い」

「じゃあ僕らはいずれこの世界の敵になるのか?」

「それはお前たちが決めることだ。魔女にも善き魔女と悪しき魔女がいる。魔王にしても同じだろうよ」そこまで言って、ガーシュインは沈黙した。


「僕らはきっと善き魔王になる」「ああ。そうだな」シュウジは窓の外の庭園を見つめながら、僕の台詞に同意した。

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