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第一話 魔女ペルペは死んだ

 発令所。モニタは真っ赤に染まり、機械音声の警告が鳴り響く。

 『深刻なエラーが発生しました。深刻なエラーが発生しました。深刻なエラーが発生しました』

 ブルースクリーン(ソフトウェアエラー)ならぬレッドスクリーン(ハードウェアエラー)。トリプルチェックにより発生しないはずの障害が、ストラクチャードを襲う。


「ストラクチャードの大部分が機能喪失!」

「時空因果律カウンターの誤差、急速に拡大!」

「事象地平線が決壊していきます!」

「この宙域の因果関係が消失!」

「時空構成曲率が反転!」

「閉鎖虚数空間”使い魔”が多数出現!」

「もって残り20秒でクライン防壁が侵食されます!」

「状況、ヴァーチャルからリアルへ!ヴァーチャルからリアルへ!」

「コードネーム”魔女ペルペ”の発生を確認!」

「局長!」「局長!」


 それは超未来のとある銀河系。

 超時空集積回路「構造化されたエンサイクロペディア号」。難攻不落を誇る銀河文明のアカシックレコード、通称ストラクチャードは、瞬く間に崩壊の危機に瀕していた。


「ッ!……エスコートしてさしあげろ」


 局長と呼ばれた男の呟きが、雨となって発令所に降った。それは事実上の降伏宣言。

 防壁は解除され、魔女はあっさりと発令所の三次元モニタにまで到達する。


 魔女。魔女。魔女。

 科学技術の粋を集めても理解不能なる技術を用い、時空に介入する存在。

 その存在は生きた伝説。神々しいまでに脚色された魔女への幻想は先走り、あるいは別次元の、あるいは別宇宙の存在なのではないかとの噂も囁かれていた。

 

 魔女。魔女。魔女。

 しかし果たして現実はどうか。発令所の三次元モニタに投影されたのは、たった一人の女性であった。オールドタイプな、質素ともいえる衣装を身にまとい、局長に向かって一礼する。


「ごきげんよう。『構造化されたエンサイクロペディア号』、通称ストラクチャードの皆さん。私は魔女ペルペ。ただの時空改竄者。今日やって来た理由はとても簡単よ。あなたがたと”取引”がしたいの」

 

「何が望みだ? この銀河系の文明の半分を人質にとって、魔女よ、お前は何をしようとしている?」

 

 超時空集積回路と名を冠するだけあって、ストラクチャードはもはや銀河文明にとって無くてはならない存在だった。その中核たる時空因果律カウンターにより、既存の可能性宇宙を事前にエミュレートし、探索する。銀河系規模の文明を運営するための明晰な頭脳と確実な記憶として。そして未来を予測する賢者として。ストラクチャードはそれらの役目を、文明の行く末を預かっている。

 

「魔女ペルペは、私はもうすぐ死ぬ」

 

 その言葉に、発令所の面々がざわめきだす。


「私が今居るのは7世紀、私は、これまで長らく『西の善き魔女ペルペ』を演じてきた。そして私はもうすぐ死に、ヨーロッパには混乱が起こる。長くて暗い、中世の時代が14世紀まで続く」

 

「中世……ヨーロッパだと?」

 

「そう。人類発祥の地、恒星ソル系、第三惑星、地球、その『中世ヨーロッパ』よ」

 

 魔女ペルペは雑作も無く言った。

 

「不可能だ……人類発祥の地への大規模介入は、特SSS級時間犯罪だ。それにたとえこの銀河系型ダイソン球の全エネルギーを用いても、おそらく現在からソル系への時間遡行には桁が足るまい……」

 

「いいえ可能よ。あなたがたに依頼したいのは、もっとずっと小さな事象への干渉。21世紀前半のある四人組を、一部の周辺機器と一緒に、7世紀のヨーロッパに送り出して欲しいだけ」

 

「ちょっとしたタイムスリップか……だが、それでその四人組はどうなる。家にも、元の時代にも帰れず泣きだすか、生活レベルの差に耐え切れずに自殺するか、いずれにしても素人を送り込んでマシな結果になるとは思えないが……」

 

「かまわないわ。どうせ私が死んだあとのことだもの。それに……彼らはいまに立派な『魔王』になるでしょうよ」


「願いは四人組+αの転送。対価は私の命。さあ、望みを叶えてちょうだい」


「わかった。善処しよう」


 魔女との対話は終わり、発令所の三次元モニタに投影された姿が消失する。


「ストラクチャードの大部分が機能復帰!」

「時空因果律カウンターの誤差、正常範囲に落ち着きました!」

「事象地平線が正常に回復!」

「この宙域の因果関係が復活しました!」


 そんな当然の報告は無視して、局長は魔女ペルペに渡された四人の人物プロフィールを見ていた。男二人に女二人。手動ゲーム部。歴史オタクが入っているのは、僥倖ぎょうこうと言えた。

 同時に転送される付属品は「無限バッテリー」付きの「インターネット利用可能パソコン」。半永久的に21世紀のインターネットを覗けるチート装備である。

 

「中世を変える、か。いかにも古臭い魔女らしい考えだ」

 

 局長は、膨大な可能性宇宙のエミュレートを処理するストラクチャードのいちブロックに、念のため一つの項目を外挿する。四人組の存在で何が起こるかを知るために。だが、何も変わらない。中世は変わらない。歴史改竄は起こらない。魔女ペルペの予想は空振りをしたのか? あるいは、外挿が不足しているのか。

 

「全ては機械仕掛けの神のみぞ知る、といったところか」


 局長は発令所から、以下の命令を発する。


「人類発祥の地、ソル系第三惑星地球への小規模介入を実施する。本件は『特SSS級時間犯罪』ではあるが、魔女による現宇宙文明の半壊に比べればなんだってマシだ。責任は私が取る」


 オペレータは、手慣れた手つきでタイムスリップを実行する。

「介入開始。人物特定完了。転送開始。転送完了。以上です」


局長は椅子に背をあずけ、目を閉じた。

「――せめて中世に幸運があらんことを」

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