7
蒼の部屋の掃除が終わってから1時間弱。
澪は公園に来ていた。
合コンの時にきた、あの公園…。
もうとっくに帰ってしまっているだろう。
そう思っていたのに、実際に彼の姿がないことを確認すると
なんだか悲しくなってきた。
「そうよね。」
なんで悲しいのか、解らないまま、澪は自分に言い聞かせた。
そう、もう居るはずがないのだ…。
それなのに……
「あれ?白石、来たんだ。」
「…え。」
しんみりとした空気をぶち壊すように聞こえたその声は確かに小山のもので、
そして振り返れば、先ほどまで澪の心を埋め尽くしていた顔があった。
「…え、ってなんだよ。」
「だって、いるとは思わなかったから…。」
「なんで?なんでいないと思うの?」
「だ、だって約束の時間…過ぎてる。」
「…あぁ、だってこっちが勝手に指定しちゃったわけだし。メール返ってこないしさ。」
「…ごめんなさい…。」
何時間待っていたのだろう、と考えると申し訳ない気持ちでいっぱいになって
澪は自然と頭を下げた。
「別に。来てくれたしさ。」
でも、小山は別に気にすることもなく、笑っていた。
「で、なんの用なの?」
「え?…あー…うーん。」
澪からしたら、当たり前の事を訊いたはずなのに、小山はなぜか気まずそうにする。
その態度に少しイライラするものの、あまり強くでれる立場ではない。
澪は少し拳を強く握りながら、辛抱強く小山の答を待った。
しかし、なかなか話ださない。
待ち切れず、澪が口を開きかけたとき、やっと小山が動いた。
「…あのさ、白石って好きなやつとか、いんの?」
「…へ?」
…例えば、俺の母さんが死んじゃって…とか、そんな真剣な話を想像した澪は
あんまり、どうでもいい質問につい間の抜けた返事をしてしまう。
「…だから、付き合ってるやつとか、いるの?…って、白石聴いてる?」
「…あ、あぁ、聴いてるけど。…べ、別に好きな人も付き合ってる人も居ないわよ。」
正直、知ってどうするの?
とも訊こうと思ったのだが、その前に小山が
「ほんとに!?」
とあんまりにも、嬉しそうな顔をしたから、訊けなかった。
「なにか、文句でも?」
どうせ、居ないわよ。
どうせ、恋した事ないわよ。
ふいっと横を向く。
「じゃあ、俺と付き合わない?」
今度こそ、思考が飛んだ。
え……?
何?
何か、聴こえた?
「ちょっと、白石、聴いてるの?」
また、聴こえた小山の声で我に返った、そして頭の整理をする。
違うよね。
幻聴なのよね。
さっき蒼ちゃんと話してたから、その影響なのよね。
「ごめん。聴こえなかった。」
もう一度、聴き直そう。
そしたらきっと違う言葉が聞こえるんだ。
別に、がっかりなんてしない…………
「まじかよ。じゃあ、も一回言うから、ちゃんと聴けよ?」
別に、がっかりなんて………………
「好きだ。…付き合わない?」
「…………冗談?」
「……まじ。超真剣な話。」
そういって澪を見る、小山の顔は真剣そのもの。
「ありえない………。」
今まで、17年生きてきたけど、まさか自分が告白される日が来るなんて、ありえない。
ボソリと澪の口から零れた言葉を、違うふうに取ったらしい小山がガックリと項垂れる。
「はぁー。やっぱ駄目?…あーなんか今までフってきた女の子の気持ちが解った気がする。」
なんか良く解らない、少しフワフワしたこの感情はなんだろう。
と少し夢見心地だった澪だが、なんか勘違いをしたらしい小山の言葉に、我に返る。
「え?あ、違う、違うよ。別に付き合うことがありえない訳じゃなくて…」
「…え、じゃあ、付き合ってくれんの!?」
「え、あ、う……。………うん……?」
付き合う、という行為がいまいち解らない澪はあいまいに答える。
付き合うってなんだろう。
別に嫌じゃないけど…
「なんで、疑問形なわけ?」
「…だって、私はあなたのこと好きとかそういう目で見たことないし…。」
「…うわ、結構ショック。これでも結構もてる自信あるのに。」
ごめんなさい。
そう言いかけた澪の言葉を遮って、小山はでも、という
「でも、それでもいいよ。付き合ってるうちに好きになるってゆーのでも。」
「…う、うん。じゃあ、それで。」
澪が答えた瞬間、小山が飛び上がる。
「やったー!」
軽く、ガッツポーズまでしてる姿をみて、澪は
少しドキッっとしてしまった。
…もしかしたら、もう好きなのかもしれない………。