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「澪ぉー元気にしてた?会わないうちに大きくなったんじゃない?」
姉が帰ってきた。
まるで田舎の祖母たちのような、その言葉に澪は吹き出す。
「蒼ちゃん…おばあちゃんみたいな挨拶、やめてよ。だいたい、成長期終わってるし。」
「だってぇ、澪は私に会いに来てくれなかったじゃない。寂しかったのよ。」
澪が笑って言うと、蒼はもう大学生なのに、まるで幼稚園くらいの子の様に
頬を膨らませて言い返した。
何気なく、言ったその言葉が澪を苦しめているとも、知らずに。
澪だって、姉の見舞いにくらい行きたかった。
しかし、いつだって姉の傍には両親のどちらかは絶対にいて
姉と楽しそうに話をしていて、その楽しそうな空気を壊す事なんて
澪には出来なかった。
何度も見舞いに行こうとして、結局行けなかった
なんて、正直に言えるわけもなく、しかたなく
「だって、私だって高校生よ?けっこう忙しかったの。ごめんね。」
こう、嘘をついた。
忙しいなんて嘘に決まってる。
部活も、委員会もやっておらず、友達もいない。
でも、蒼はそれを知らない。
「そっかぁ、そうよね。今日も忙しい?」
「…ううん。今日は大丈夫。」
「そっかぁ、じゃあ、片づけ手伝ってくれるー?」
「いいよ。ちょっと、待ってて!」
はーい、という姉の声を背中ごしに聞きながら、澪は部屋へ向かった。
別に、部屋に帰ってすることもないが、とりあえず、心の整理がしたかった。
とりあず、元気そうな姉の姿にほっとした。
でも、どう接すればいいのか、解らなかった。
姉のせいで、振り回されているわけじゃない。
だけど、どこか蒼のせいだと思ってしまう自分もいるのだ………。
ドロドロとした思いを断ち切ろうと軽く首を振ると、着信ランプが点滅している
携帯が目に入った。
なんだろう、と携帯を手に取り確認する。
…差出人不明のメールが一通きていた。
『最初に会ったところで待ってるから。これないならメールしてよ。』
その内容で誰だか解った。
小山だ。
すっかり忘れていたが、約束というか…指定されているひ日はちょうど今日だった。
行くとも言っていないのに、ずいぶんと自分勝手だな。
しょうがないから、断りのメールをいれようとしたが、
「みおー!」
と、自分を呼ぶ声がしたのでそのままにしてしまった。
「もー、遅いよ!」
「ごめんごめん。」
「もしかして、カレシからのメールでもあったの?」
「…違うよ。」
何かを期待するように姉が放った一言を澪は軽くあしらう。
見当違いにもほどがある。
「なーんだ。」
心底つまらなそうに蒼は言った。
「蒼ちゃんは、いるの?」
そっけなさすぎたか、と慌てて取り繕う様に澪は訊いた。
「えっ…わ、私はー…」
「へぇ、いるんだ。」
「みっ、澪!…そ、そんなんじゃ…」