永遠に君を待つ
昔、まだ5歳だった頃。俺は天使と出会った。
天使は白金の髪に、紫の瞳でキラキラ輝いていた。
名前はミュリエラ。
その時初めて、心の底から彼女が欲しい。そう思った。
俺の国では同じ年代の女子は媚びを売ってきて、キーキーうるさい。
けど、こいつは他の女とは何かが違う。
本能で感じた。
ーーこいつが俺の番だ。
それからは隣国という事もあり、よく遊びに行った。
ミュリエラは会う度に可愛くなって、綺麗になっていく。
早く大人になりたい。早く結婚したい。
毎日のように、両親へ強請った。
二人は困った顔をしていたと思う。
俺が13歳になったある日、いつものようにミュリエラとの婚姻を強請っていた時だった。
二人は真剣な面持ちで、俺にある事を教えてくれた。
異種族戦争終戦から500年程経った今、和平協定として異種族間の婚姻は禁止されている。と。
俺はショックのあまり、頭に鐘が落ちるほどの衝撃を受けた。
それから2週間は寝込んでしまった。
どんなに望んでもミュリエラとは結婚できない。
それがこの世界のルールだから。
でも、恋をするのは自由だ。
俺はそのルールを知ってからも、変わらずミュリエラを求め続けた。
そして衝撃の事実から5年。
ようやく、この時がやってきた。
「ガルド、この研究会は言わば誰がミュリエラ嬢と結婚するかの選別会だ」
「分かってるよ。13年だ。初めて会った時から、ずっとこのときを待ってた。行ってくる」
ただいまを言う時は、ミュリエラと共に。
そう心に誓い、家を後にした。
───
「着いた。見ろよ、ミュリエラ。お前が昔見たいと言ってた花」
「うわぁ…すごく綺麗」
私はガルドから降りると、花へと駆け寄った。
この花はエルヴァリア聖森国にしか咲いていない、特別な花。
確か花言葉は、永遠に君を待つ。
ここから少し先にも、同じ花が咲いている。
その先にも。等間隔に並んでいる。
誰かが昔ここで育てていたのだろうか?
沢山あるから、ひとつ貰って行こう。
私は一輪だけ手に取り、再びガルドと城へ戻った。
侍女に花瓶を持ってきてもらい、一輪挿しにして飾る。
ついでに保存魔法をかけて、私はそのまま眠りについた。
次の日、目が覚めると昨日保存魔法をかけたはずの花が枯れていた。
私は不思議に思い、再生魔法をかける。
しかし、花はピクリともしなかった。
どうして……すごく綺麗だったのに残念。
私は落ち込んだ気分のまま、食堂へ向かった。
「おはようございます」
「おはよう。ミュリエラ嬢」
今日昨日と同じ席順に座り、朝食を食べた。
今日の朝食は昨日とは違い、主食がパンだ。
これこそ朝食と言った感じで、少し嬉しく感じた。
「そう言えば、ガルド、昨日一緒に摘んだ花、枯れちゃった。せっかく連れてってくれたのに。ごめんね」
「んな事、気にすんなよ。また取りに行こうぜ!」
ガルドは骨付きの肉を頬張り、励ましてくれる。
「うん。ありがとう」
「保存魔法をかけなかったのか?」
「かけたよ。でも枯れたの。今朝も再生魔法をかけたのに、なんの反応もなかったの」
レイヴァルトと私の会話を聞いたルシェル様は、何かに気付いたように一瞬だけ表情を変えた。
しかし、その後は考え込んでしまった。
「ミュリエラ嬢、その花を持ってきてもう一度魔法をかけてみて欲しい」
ルシェル様の真意は分からないが、疑り深いレイヴァルトにも信じてもらうために、侍女に頼んで花を持ってきて貰った。
「リ・ブルーム」
手からは淡い光が放たれ、その光が花を包む。しかし、何も起きない。
私はほらね。と、レイヴァルトへ向ける。
ルシェル様はその花を見るなり顔色を変えた。
「ミュリエラ嬢、この花はどこで見つけた?」
「え、森の中です。昨日ガルドに連れて行ってもらって…」
「この花は…いや、講義の時に話そう」
ルシェル様はそれ以降考え込んでしまい、朝食が終わるまで黙ったままだった。
レイヴァルトは不思議そうに、花と私を観察していた。
「魔力枯渇の影響かもしれない。君の中の魔力が無くなったのか、もしくは減ったのか」
「本当に?そうなると私、この先ずっと魔法が使えない。早くこの問題を解決しましょう」
微妙な空気が流れたまま、無言での朝食会となった。
「はぁ……」
枯れた花を差した花瓶と、昨日借りた本を持ち私は講義の席に着いた。
まだ誰も来ておらず、一人大きなため息が漏れた。
このまま魔法が使えないのかな?
でも、もしそうならこの、お見合い会も無くなるかも!
いや、でも魔法が使えないのは不便よね……
不安と、嬉しさの間での葛藤を繰り返す。
本当に原因なんて見つかるのかな…
この花も、昔一度だけ図鑑で見かけた綺麗な花だ。
名前は忘れたけれど、花言葉が切なくて、印象的だった。
そんな花をガルドは覚えてくれていた。
なんでもすぐ忘れるガルドが覚えているなんて、ガルドの方こそよっぽど見たかったのかもね。
私は枯れた花を眺め、笑いが零れる。
「何一人で笑ってるんだよ」
不気味なものでも見たかのような顔をして、レイヴァルトが部屋へ入ってきた。
「別に」
この人はいつも、憎まれ口ばかり。いつも私を馬鹿にする。
初めて会った時もだ。私を見てちんちくりんと言った。
絶対こんなやつと仲良くなんてなれない!
そう思っていたのに、なんだかんだもう10年以上の腐れ縁だ。
「レイヴァルトはいつも意地悪ばっかり」
「そうだったか?君とガルドが僕の読書の邪魔さえしなければ、突っかかる事も無い」
幼少の頃から、国家交流として3カ国で集まる事が多かった。
みんなで遊ぼうとなっても、レイヴァルトは一人本ばかり読んでいた。
たまに読んでいる本の内容を教えてくれるけど、小さい頃の私達にはちんぷんかんぷんで難しい内容のものが多かった印象だ。
その度に、ガルドはすぐ飽きてどこかへ消える。
私はあまり遊んでくれないレイヴァルトが、少し構ってくれるのが嬉しくて内容は分からなくても、最後まで話を聞いていた。
この花を教えてくれたのもレイヴァルトだ。
「その花、懐かしいな」
「でしょう?エルヴァリア聖森国にしか生息してない花なの。昨日はとても綺麗だったの」
「知ってるよ。僕が教えたんだから。良かったね。見れて」
「うん!」
たまに出る優しいレイヴァルト。私は嬉しくて笑顔で頷いた。
それにしても、この花は図鑑で見た時からずっと何かが引っかかっていた。
どこかで見たことがあるような……でも、どこで見たかは分からない。
昔見た夢?それとも……
考え込んでいると、いつの間にかみんな部屋へ来て、講義が始まった。




