森の国の講義
「ミュリエラ!見ろよ!森しかないぜ!」
「ホントね。でもすごく神秘的で素敵」
私たちは馬車に揺られて中立国である、エルヴァリア聖森国に向かっている。
エルヴァリアは大陸の真ん中にあり、国境は森で覆われている。
この世界には、エルフ、獣人、竜人、人間、そして魔族という5種類の種族が居る。
5つの種族はそれぞれ国を持ち、長きに渡り栄えてきた。それと同時に、戦をしていた。
獣人は持ち前の戦闘能力を活かし、竜人は古代の知恵を活かし、人間は魔法と剣を磨き、魔族は狡猾さと美しさを活かし。どの種族が優れているのか、争い続けた。
唯一、エルフだけは争いに参加せず、中立を保っていた。
そして何千年、何百年と続いた争いは、静かに終わりを告げた。
獣人は心を開き、竜人は知識を共有し、人間は様々な技術を広めた。
エルフは沈黙を保ち、魔族は交流を持たず、500年もの時が過ぎた。
そして今、世界は魔力枯渇の危機に瀕している。
魔力が無ければ、私たちは死んでしまう。
魔力とは、血と同様に身体に無くてはならない物。生命維持に必要な力だ。
今回、私達は魔力枯渇の原因を探るべく、集められたのだ。
と、エルフの王から説明を受けた。
が、実際は今朝侍女が言っていた言葉通りなのだろう。
これまでは各種族同士で結婚してきたが、魔力枯渇問題が出てきてそうも行かなくなったと。
この世界には昔から言い伝えられてきた事がある。
他の種族と番になると魔力が増え、その国は豊かになる。
結婚なんて、全然考えていなかった身からすると、突然ガルドやレイヴァルト、友達と結婚して番えなんて無理な話だ。
ましてやルシェル様は今日知り合ったばかりの初対面。絶対に無理。
女王族の責務は婚姻して世継ぎを残すこと。
それは分かっているけど、私だって、一度は恋をしてみたい。
「神様、女神様、もし居らっしゃるのなら、私の願いを叶えてください。一度でいいから、愛し愛される恋をしてみたいです」
満点の星空が広がる空を眺め、手を胸の前で組み祈りを捧げる。
日々の感謝と、唯一の願い事を込めて。
その時、一粒の光が空を流れた。
「おはよう!ミュリエラ!」
「…きゃあああああああ!!!!ガルド!」
いつの間にか寝ており、目を覚ますとガルドは隣で寝ていた。
私は布団から飛び起きて、ベッドから出る。
ガルドは、私の声に驚いて耳を塞ぐ。
「声デケェよ…耳痛ェ」
「貴方が私のベッドに入ってくるからでしょう?もう!着替えるから出て行ってよ!」
獣人は他の種族よりも五感が優れているので、大きい音やキツイ匂いなどが苦手だ。
私はガルドを追い出して今日の準備を始めた。
各国の王族を集めて魔力枯渇の原因を探ると言っていたが、それは建前で要は王族同士のお見合い。
今日は世界史を学ぶと言っていた。
ノートと筆記用具を手に取り、食堂へ向かった。
「おはようございます」
「おはよう。ミュリエラ嬢」
食堂にはもう既に他の王子が揃っていた。
私は侍女に荷物を渡し、適当に座ろうとした。
「お前はこっち」
ガルドはそう言って私の手を引いて左隣へ座る。
そして右隣には竜人のレイヴァルトが腰掛けた。
それを見たルシェル様は苦笑して、私の向かいへ腰掛けた。
全員が席に着いた時、給仕が続々入ってきて料理を並べた。
ガルドとレイヴァルトには肉料理を。ルシェル様には野菜料理。私は白身魚を。
種族によって好む食べ物が分かれているので、それぞれの好きなものを出してくれた。
「では、糧に感謝して。食べようか」
それぞれ国の神に祈りを捧げ、ご飯を食べた。
「今日から講師を勤めさせて頂きます。世界史研究をしています、ヴァルシエルと申します」
「よろしくお願いします。ヴァルシエル先生」
ヴァルシエル先生は約500年生きているエルフで、種族争い終戦の時に産まれたらしい。
見た目は40代〜50代の紳士のようだ。
そしてずっと古代の研究をしているのだとか。
今はルシェル様の教育係。
「では、まず各国と種族について学びましょう。この世界には5つの種族が居ますね。では、それぞれ自分の種族について説明して頂けますか?まずは、ガルド様から」
「俺か。獣人は他の種族よりも戦闘能力が高いな。魔力の高さによって完全に獣化出来たり、出来なかったり。戦時中も己のポテンシャルのみで戦ってたって習った」
ガルドはそう言うと、自慢げに獣化して、白狼へと姿を変える。
私の背丈を優に超える大きな狼。昔はよく背中に乗せてもらって王家所有の森を走り回っていた。
「ありがとうございます。次にレイヴァルト様、お願いします」
「僕の国は沢山の知識で溢れている。僕達は竜化して、戦っていた。だが、竜化する時間が長ければ長いほど人の姿には戻れない。戦時中は人の姿よりドラゴンの姿の方が多かったらしい」
レイヴァルトはそう言うと癖のメガネを上げる仕草をした。
ガルドの白狼はよく見ていたが、レイヴァルトのドラゴン姿は一度も見たことがない。
いつか見れたりするのだろうか。
「ありがとうございます。次、ミュリエラ様お願いします」
「はい。私たち人間は獣人のように身体能力が特別高かったり、竜人のように知識が沢山ある訳ではありません。そして、エルフのように長命でも。ただ、魔法と、創造力。主に火を使って繁栄してきた種族です」
私たちは何かに変身できる訳でも、何かに秀でている訳でもない。
私たちは何かに変身できる訳でもない。ただ、魔法と創造力で文明を築いてきた。
全体的に見れば劣っている種族だろう。
「ありがとうございます。では最後に、ルシェル様」
「私たちエルフは長命で精霊達と共に暮らしてきた種族です。戦争にも参加せず、終戦後も中立を保っています」
エルフと、ここには居ないが魔族は謎が多い種族だ。
エルフは他国と交流はするが、どこの国の味方に着く訳ではない。
魔族は終戦後鎖国状態が続いていて、どのような国政が行われているかは分からない。
「今日はここまで。各国の特徴を復習しましたね。明日は世界の始まりから学びましょう」
「ありがとうございました」
私達は礼をして、各自部屋を後にした。
私は宛てがわれた部屋に戻らず、図書館へ向かった。
明日の予習の為に少しだけでも本を読もう。
今まで自国の歴史は学んだが、戦争の歴史を学ぶ事はタブーとされてきたため、何も知らない。
今日、種族の違いについて改めて確認させられたのは、種族間戦争と魔力枯渇が深く関わっているからだ。
私はそれらしい本を手に取り、椅子に座る。
エルフは長命で寿命は1000年前後。歴史書に何か詳しい事が書かれているかも知れない。




