王子たちが集う日
「リュミエラ様、大変です!」
朝から侍女が慌てて部屋へ飛び込んできた。
私は本を閉じて顔を上げる。
「どうしたの?」
「各国の王子様が、今日この城へいらっしゃるそうです!」
……はい?
私は思わず聞き返した。
「王子?」
「はい!獣人の国フェンリヴァル帝国、竜人の国ドラグニル王国、そしてエルフの国エルヴァリア聖森国の王子様が!」
侍女は興奮気味に続ける。
「世界の魔力枯渇の問題について話し合うため、各国の王族がエルヴァリア聖森国へ集められるのだとか!」
なるほど。
最近、世界中で魔力が減っているという話は聞いていた。
結界の維持が難しくなった国もあるらしい。
でも――
「それと私に何の関係が?」
そう聞くと、侍女は気まずそうに笑った。
「……王族の中で女性はリュミエラ様だけですから」
嫌な予感がした。
「つまり?」
侍女は小声で言った。
「求婚、されるかもしれません。」
私は額を押さえた。
各国の王子。
求婚。
嫌な予感しかしない。
その時だった。
「久しぶりだな、リュミエラ」
窓の外から声がした。
振り向くと、そこには――
赤い髪。茶色の瞳。狼の耳。
そしてニヤリと笑う顔。
「ガルド・フェンリヴァル…」
獣人の国フェンリヴァル帝国の王子で、私の幼なじみだ。同い年なのに、昔から弟のような存在。
小さい頃は一緒にイタズラもした悪友だ。
「相変わらず窓から来るのね……」
この狼は私の部屋を訪ねる時、一度も扉から入ってきた試しはない。
「扉から入ったら面白くないだろ」
そう言って乱暴に窓枠から飛び降り、私の方へ近付いてきた。
私の手を取り、自分の頭へと誘導する。
撫でてと言わんばかりにゆっくりとしっぽを揺らしている。
私はいつものように、彼のふわふわの耳を触る。
それに反応して耳が跳ねている様子が、とても可愛い。
暫く撫でていると、扉の方から声がした。
「相変わらず、君は礼儀がなってないね。それでも王族なのか?」
声のする方へ振り向く。
そこに立っていたのは――
白い髪。金色の瞳。
竜人の国ドラグニル王国の王子。
「レイヴァルト・ドラグニル……」
彼もまた、私の幼なじみだ。
私のひとつ上で、私達がイタズラしているのを横目に、いつも静かに本を読んでいた。
そして勉強を教えてくれていたお兄ちゃんのような存在。
まさかもう来ているなんて。
そして――
部屋の空気が変わった。
外の木々がザワザワと揺れ始め、開いている窓から私を押すように風が通り抜けた。
追い風に煽られながらも、髪を整えて前を向き直す。
私の立っていたのは、白銀の長い髪を持つ、美しい青年だった。
透き通るような青い瞳。そして何より、尖っている耳。
エルフ。
「初めまして。人間の国アストレア王国の王女、リュミエラ」
彼は優雅に一礼する。
「私はエルヴァリア聖森国、第一王子―― ルシェル・エルヴァリア」
彼は静かに笑いかけると、微風が起こった。
先程の追風など無かったかのように、向かい風が、柔らかく私を包み込んだ。
その瞬間、なぜか胸が強く高鳴った。
私はまだ知らない。
この出会いが、世界の運命を変えることになるなんて。
そして――
私自身が、世界の秘密の中心にいることも。
――そして、世界樹と呼ばれる存在と深く繋がっていることも。




