Prolog
世界には、かつて一本の大樹があったと言われている。
その樹は空より高く伸び、
根は大地の奥深くまで広がり、
すべての命に力を与えていた。
人々はそれを――
世界樹と呼んだ。
だが、それは遠い昔の物語。
今では童話の中にしか残っていない。
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時は流れ、世界には五つの国が生まれた。
森を守るエルフの国。
獣人の帝国。
竜人の王国。
人間の王国。
そして、魔族の国。
種族は違えど、それぞれが国を築き、
時に争い、時に手を取り合いながら時代を重ねてきた。
五百年前。
長く続いた戦争は終わり、
世界には二つの大きな約束が結ばれる。
――種族間の戦争を禁ずること。
――種族間の番を禁ずること。
それから世界は、長い平和の時代を迎えた。
少なくとも――
表面上は。
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だが最近、ある異変が起きている。
魔法の威力が、わずかに弱くなっている。
ほんの些細な変化。
普通の者なら気づかないほどの違い。
けれど魔法に長けた者たちは、
その異変に気づき始めていた。
まるで世界から、
何かが静かに失われているかのように。
原因は誰にも分からない。
それでも各国は、ひとつの決断を下す。
王族の子をエルフの国へ集めること。
中立の森で、
この異変の原因を探るために。
⸻
そして同じ頃。
遠く離れた人間の王国で、
一人の少女が空を見上げていた。
白金の髪。
紫の瞳。
その少女はまだ知らない。
自分の運命も。
この世界の秘密も。
やがて彼女の元に、
各国の王子たちが集うことも。
それが偶然なのか。
それとも――
遥か昔から決められていた運命なのか。
まだ誰も知らない。
物語は、静かに動き出そうとしていた。




