第8話 ゴブリンが三匹
茉莉ちゃんとの約束通り、とりあえずの食事として野菜をぶち込んだ袋ラーメンで腹ごしらえをしてから、俺はダンジョンの入り口を睨む。
ぐっすり眠ったおかげで、疲労感はさほどでもない。
今からダンジョンアタックに向かえば、もう四時間は戦えるだろう。
「問題は、先に進んでみるか、ひとまず留まるか、か」
もう一度入るのは確定として、分からないことはある。
まず、一階層にいるゴブリンはリポップするのかしないのか。
次に、きっとあるだろう二階層のモンスターの強さはどの程度なのか。
最後に、二階層から入り口に一瞬で戻るような機能はあるのか。
謎自体はたくさんあるが、気になるのはこんなところだ。
当面の目標としては、もう一つレベルを上げること。
サブ目標として、使っていないCPを積極的に消費して戦うべきか、パッシブスキルを重視すべきか見定めること。
現状の俺は、不意打ちできればゴブリンには苦戦しない程度。
戦闘は向いていない自覚があるが、戦闘になる前に倒せれば問題はない。
だが、二階層もそれでいけるとは限らない。
一階層だって、ゴブリンが二体いるとビビるのだ。
「仲間が欲しくなるな」
仮に二階層からはゴブリン二体クラスが基準になるとしたら、ちょっと困る。
だが、今の俺はダンジョンを秘匿しているので、仲間を集めるのは難しいのだ。
茉莉ちゃんと秘密を共有することになったら、彼女は喜んで仲間になってくれるかもしれないが、ダンジョンの秘匿がどうなるか分からない情勢だ。
犯罪の片棒を担がせるかもしれないと思えばこそ、俺は彼女にもダンジョンを秘密にしているのだ。
何も俺だけの事情で、隠したわけではないのだ。うん。
「とりあえず、聞けることは端末に聞いてみるか」
そう思い、俺は武器防具を装備し直して、再びのダンジョンアタックへと向かった。
『ダンジョン18764番へようこそ。上杉志摩様。あなたの挑戦を歓迎いたします』
2回目のダンジョンアタックでは、新規登録のアナウンスは当然ない。
当たり前のように俺を識別されての、歓迎の言葉である。
どうやら、設計者的にはダンジョンに入って来てくれるのは嬉しいことのようだ。
「さて、まずは端末に質問をするか」
余談だが、一人暮らしを始めてから、独り言が増えた気がする。
たぶんそう思うのは俺だけじゃないだろう。
自分の行動を自分に説明するように、俺は端末へと先ほど抱いた疑問を投げかけてみる。
【一階層にいるゴブリンはリポップするのかしないのか】
↓
『一定時間の経過でリポップする。周期についてはダンジョンごとの設定による。攻略進度が進むと情報開示できる』
【二階層のモンスターの強さはどの程度なのか】
↓
『現時点で詳細に教えることはできないが、格段に強くなるような設計ではない』
【二階層から入り口に一瞬で戻るような機能はあるのか】
↓
『特定の階層にそういった機能はある。どこにあるのかを教えることはできない』
まぁ、相変わらず知りたいことは自分で調べろ系の回答が帰って来た。
だが、あるかないかが分かるだけでも十分にありがたいことだ。
ゴブリンがリポップすると知れた以上は、納得するまでは一階層に居ても良いということになる。
ゲームでは低レベルで進んだ方がレベル差で経験値が美味しいなんてこともあるが、現実でチャレンジする気にはなれない。
なので、ゆっくり地盤は固めさせてもらおう。
「となれば、まずは一階層のマップ埋めだな」
午前中に入ったときに、マップはそこそこ埋めたつもりだが、それがこの階層の何パーセントくらいなのかも分からない。
だが、今まで様々なダンジョン探索型RPGをやってきた俺の血が騒ぐのだ。
マップは、埋めるものだ。
たとえ動かしているのが、ゲーム上のキャラクターではなく俺自身であっても。
たとえ、現実では行き止まりにたどり着く行為がなんの意味もないとしても。
埋まって居ないマップは埋める。それが人間というものだろう。
「ゴブリンを探しながら、じっくりやっていこう」
趣味と実益を兼ねながら、俺は出来上がっていくマップを見て悦に浸るのであった。
そうして、三時間半ほど練り歩いてから、俺はそれを発見した。
「見事な階段だな」
入り口がゲートだったからどうなるのかと思っていたが、果たして二階層へ向かう入り口は、わかりやすく設置されている階段だった。
そこはちょっとした広間のようになっていて、俺のやってきた通路から見れば、広間の右側の壁に階段が設置されている。
問題はその階段の前だ。
「ゴブリンが三匹か」
階段の前には、門番のようにゴブリンが三匹たむろっていた。
今までの探索で、最高はゴブリンが二匹。
この午後のアタックでも一回だけ遭遇したが、その時はなんとかノーダメージで倒すことができた。
一体を不意打ちで倒し、もう一体は強打で速攻を狙ったのだ。
その作戦がうまく嵌って、相手に何もさせずに倒すことができたのである。
だが、三匹となると、もう全くの別物だろう。
「HPは満タン、CPも余裕がある。だが、あいつらが動いてくれないととても不意打ちはできない」
今まで遭遇したゴブリンは、すべて歩き回っていたから待ち伏せからの奇襲が成立した。
だが、今回のゴブリンは広間で立ち止まっている。
姿を晒して近づいていくか、おびき出さなければ攻撃できない。
姿を晒す時点で、不意打ちはもう効かないだろう。
「いっそのこと、HPを信じてダメージ無視で強打連打するか? いやないな」
ゲーム脳的に考えると、そうしてしまうのが一番早いように思える。
だが、俺はこのHPというシステムをそこまで過信していない。
今までの攻撃からは確かに俺を守ってくれている。だが、もしかしたらクリティカルな攻撃はHPを無視して俺の体を傷つけるとか、そういう設定だってあるかもしれない。
それに俺の体のステータスは、他のとステータスと比較して低いのだ。
あまり、信用するものでもない。
それらを加味して、可能ならやはり無傷で戦闘を終えたい。
「今の俺の持ち札は、ちょっと速ステータスが高いことと、強打を使えば一撃で倒せること」
一度入り口まで戻って、ステータスを整えるというのも選択肢だ。
だが、このダンジョンアタックで俺が倒したゴブリンは合わせて8体。
レベルアップはできないし、スキルを取るにしても、棒術と聞き耳か、すり足と聞き耳のどちらかだろう。
CPはできるだけ強打に使いたい。最大CPを無闇に減らすのも考えものだ。
今の状況を考えて、俺はようやく結論を出した。
「釣り出して、一匹ずつ処理しよう」
ひとまず、ある程度上げた自身の速ステータスを信じてみることにした。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
明日は朝夕で合計四話更新予定です。




