第27話 運の価値
時間は夜だが、寝るにはまだ少し早い。
というわけで、寝る前のゾンビ狩りだ。
目的のために心を殺した俺は、ゾンビを狩る鬼となる。
別に食べるわけじゃないが、その様はまさしくグール。
称号の名に恥じぬ狩りっぷりだっただろう。
メタルラックは思ったよりも使い勝手がいい。
金属バットよりも細長く、当たり判定は小さいが伸びた速のステータスがそのあたりを補強してくれている。
というかこれ、ほとんど槍だなこの長さ。そりゃ使いやすい。
遠心力もあってか、金属バットよりも攻撃力自体が増している気もする。
今まではゾンビを狩るのに4発必要だったのが3発で済むようになった。
ただ、即席の持ち手だとどうしても衝撃が殺しきれず手が痺れるのが難点だった。あと、思い切り伸ばすと天井にひっかかりそうになるのも。
「……また?」
俺が異変に気付いたのは、そんな順調なゾンビ狩りにもそろそろ疲れを感じていたころである。
そう。またなのだ。
目の前のゾンビが光となって消えたあとに、そこに腐った心臓のようなアイテムが残されたのは。
「どう考えても、ドロップアイテムだよな」
ゴブリンの錆びたナイフに続いて、そのまま持ち歩きたくない系のドロップアイテムだった。
それが、ゾンビ狩りを始めてしばらくして一つ。
そろそろ狩りを終えようかと思っていた今、もう一つ。
寝る前に少しでもEPを貯めようと思ったこの数時間の間に二つも落ちている。
「まぁ、おそらく上振れも上振れなのは間違いないだろうが」
それでも、実感せざるを得ない。
運というステータスを上げた意味を。
「一度、端末に戻って確認してみるか」
あまり素手で持ちたくないグラフィックのそれを、ストレージから出した袋に放り込み、ひとまず寝る前の狩りは終えることにした。
体に染み付いた腐臭に顔をしかめることは、もうしなかった。
『ゾンビの心臓を2個納品しますか?』
「はい」
『かしこまりました』
端末まで戻れば、やはり以前のゴブリンのナイフと同様、ゾンビの心臓も納品することができた。
差し出した心臓もまた、いつものように粒子へと変換され、端末がリザルトを告げるように淡々と告げる。
『ゾンビの心臓の納品を確認しました。一部スキルが解放されます。一部アイテムが解放されます。EPを160還元します』
「……やっぱり、ソンビの十倍か」
ゴブリンのナイフのEP還元が20だったので、ちょっと期待はしていた。
だが、それでもいきなり大量のEPを入手できてしまうと、戸惑いが勝る。
少なくとも、この納品だけで最初の目標だった隠密シリーズのパッシブスキルは取りきれてしまう。
そこを取れたら、三階層の下見をするつもりだったので、明日の予定が変わってしまった。
「まぁ、これも運を上げたから良かった、のか?」
一瞬、そんな感じで軽く流そうと思ったところで、頭の中の冷静な部分が告げる。
もっと、運のステータスの意味を真剣に考えるべきだと。
「ちょっと、整理してみる」
普通のゲームでは、基本的に運というのは戦闘時の乱数だとかアイテムのドロップ確率とかに関わってくるものだ。
攻撃をした時のクリティカル率が上がったり、高いダメージの乱数が出やすくなったり、ほんの少しだけアイテムのドロップ率が上がったり。
そう、アイテムのドロップ率が上がるのだ。
これが、普通のゲームだったら、それだけの話だ。
だけど、俺が今いるダンジョンは、普通のゲームではない。
ドロップアイテムが、≒で経験値になるんだ。
「待て、待て、待てよ」
仮に、EPを1持っている敵を100回倒したとしよう。
その時、手に入るEPは当然100になる。
だが、ドロップアイテムが1%落ちたとしよう。
ドロップアイテムの相場は今の所、モンスター本体のEPの10倍だから、手に入るEPは110だ。
たった1%のドロップ率アップで、EP効率が10%も増える。
もし10%のドロップ率であれば、、EP効率が二倍になる。
これは、とんでもない影響だ。
「馬鹿か俺。何が外れステータスだ。むしろ、これは、最重要ステータスじゃないか?」
もちろん、上記のはざっくりとした例だし、実際に元が0%ということはないと思うから、そこまでダイレクトな計算にはならない。
だが、それでも運によるドロップ率アップが、凄まじい経験値への影響を持っていることは事実だ。
たった3ぽっちを運に振った時点で、上振れだろうとはいえ、体感できるほどの影響が出てしまっているのだから。
「ただ、50体以上狩って出なかったのが、12,3体でポンポン出るのは、本当に偏りなのか?」
次に俺が疑ったのは、その点だ。
自慢じゃないが、俺はガチャ運とかはいい方だ。だいたいソシャゲで狙ったキャラを予算内で引くことができている程度には。
そして、そんな俺が、ここまで露骨な偏りにお会いすることはそうそうない。
だから、仮定に仮定を重ねた式だが、一つの仮説を立てる。
「ドロップアイテムがドロップしやすくなる運の閾値があるんじゃないか?」
たとえば、モンスターにも運が設定されていたとして。
俺の運が相手よりも高い場合は、ドロップアイテムが落ちやすくなるけど、俺の運が相手より低い場合はとても落ちにくくなる。
そういうステータスとして、運が扱われている可能性はないだろうか。
「端末くん、自分より相手の運が高いと、ドロップアイテムのドロップ率が落ちる仕様とか、ないよね?」
『…………』
俺の質問に、端末くんは珍しく沈黙した。
いつもだったら、即答で答えを言うか、答えられないと言うのに。
待った時間はそう長くはなく、端末くんは何事もなかったかのように話す。
『情報開示要求が承認されました。お考えの通りです。モンスターにもレベルとステータスがそれぞれ割り振られており、ご自身、そして相手の運のステータスそれぞれが、ドロップアイテムのドロップ率に影響を与えます』
「……ビンゴかよ」
思いつきで出した答えが、花丸を貰って帰ってきてしまった。
つまり、これはあれだ。
「運に適度に振らないと、レベルアップが遅くなる仕様ってことかよ」
端末くんがなぜ俺に情報を解禁してくれたのかは分からないが、これは、現時点で俺しか知らない情報じゃないだろうか。
ドロップアイテムがEPに直結するというのは、本当に運良く手に入れないと知ることはできない。
そして端末に答えを聞けば『強い敵が落としやすい』としか返ってこない。
これはつまり『ボスモンスターを倒せば経験値にボーナスが入るのかな』程度の認識にしかならないってことだ。
実際、俺だって一階層の階段前に居座っている三匹のゴブリンは、そういう特殊なモンスターだと思っていた。
ドロップアイテムを落としたのは、そういう役割だからだと。
だが、実際は『他のステータスが高いから運が低いだけの、手強いモンスターだった』程度の話に過ぎないのだろう。
そして、EPを貯める為にそういう強いモンスターと戦おうと思えば、ステータスの割り振りもより実戦的な方向に行きやすい。
少し前の俺みたいに、運のステータスは二の次三の次くらいに思うだろう。
だが実際は、このダンジョンを攻略する上では、運にある程度は振り続けて、相手より運で優位の状態に立っているのが理想なんだ。
そしてドロップアイテムを効率よく回収し、レベルの有利を維持し続けていれば、自然と他のステータスも上がり戦闘も楽になっていく。
そうせず実戦的なステータスにばかり振っていると、途端にEP効率がガタ落ちして、苦しい攻略を強いられるのだ。
「とんだ罠じゃねえか」
運営の調整不足をひしひしと感じる。
なんだそれ、最初に運も重要なパラメータですって説明が絶対に必要だろ。
いや、それとも、これも狙い通りなのか?
「より戦いを増やすために、意図的に情報を曲げている? でも、そしたらそもそもドロップアイテムなんて設定しないほうが……わからん」
考えても答えが出ないことは、考えない方がいい。
現時点で俺が持っている情報では答えにはたどり着けそうにない。
少なくとも、このダンジョンはまだまだ謎だらけだということははっきりわかった。
「ただ、言われてみればおかしいとは思ってたんだよな。運のステータスがCPの最大値に影響するってことが」
最初にステータスの説明を聞いた時に知っていたことだった。
力と体はHPに影響し、魔と運はCPに影響すると。
魔はわかるけど、なんで運が関係するんだと少し思った程度だった。
その時点で、運にも何か大きな役割があると思えても良かったかもしれない。
CPは貴重なリソースなのだから。
「これからは、運も気にかけつつレベルを上げて行こう」
早い段階で気付けてよかった。
そう思うと同時に、俺以外の生き残りがこのことに気付いてくれるかと、大いに不安になるのだった。




