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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第26話 人間・女




 自室に戻ると、すでに日が暮れかけていて部屋はほぼ真っ暗だった。

 無意識に電気を付けようとして、電気がつかないことを思い出す。

 ダンジョン探索用に用心してランタンを買ってあったので、それで明かりは確保できた。

 本格的に、文明の終わりを感じてしまう。


 一度ダンジョンから自室に戻ってきて、まずやったのは水を貯めること。

 水が出るうちに風呂桶の掃除をして、そこにたっぷりと水を入れておく。

 積極的に飲みたいわけではないが、いざという時の備えだ。

 これがなくなるまで、俺は二度とシャワーを浴びることはできないだろう。

 さらば日本人の特権……。


 他にも、空いているペットボトルだの酒瓶だの、空き缶だのにも水を入れておく。

 人は1日に水を2リットル必要とするみたいに聞いたことがあるので、とにかく貯められるだけ貯めた。


 あとは武器の確保。

 金属バットは歪んでしまっていて、これに信を置くのは心もとない。

 かといって、新しい金属バットを入手するにも、ゾンビの歓迎をくぐり抜けていかないといけない。

 そうなると、家にあるもので何か武器の代わりを探さないといけない。


「フライパンとか中華鍋とかあるけど、できれば調理器具は使いたくないな」


 よく漫画やゲームなんかでイロモノ武器になっているのは見るが、調理器具は調理に使うものだ。壊れたら調理できなくなる。

 同様の理由で包丁も使いたくない。ゾンビやゴブリンを切った包丁で料理作りたくない。


 では何かないか、と探してみると、一つ目についたものがあった。


「メタルラック、解体するか?」


 テレビやら書籍やらゲームやらを積んで、ドンと部屋に鎮座している一人暮らしの味方であるメタルラック。

 だが、現状テレビは映らないし、ゲームもできない。本は読めるがそんな暇あるなら動けという感じだ。

 それらを退けてこいつを解体すれば、そこそこ長い金属の棒が4本も手に入る。

 現状、これくらいしか金属バットの代わりが見当たらない。


 というわけで、解体した。

 上のものを退けるのは面倒だったが、ステータスが伸びたおかげであまり苦ではなかった。

 少々長いが、リーチがあるのはいいことだと思う。

 端っこに紐を巻きつけ、その上からガムテームもグルグル巻いて持ち手にした。


「他にやることは。バリケードも作っておくか」


 ゾンビの習性は分からないが、茉莉ちゃんやダンジョンのゲートに近寄ってくる奴ももしかしたらいるかもしれない。

 さっきメタルラックから退けたアイテムを適当に積み上げて、バリケードを構築しておいた。


 窓の方も少し補強しておく。

 ただ、こちらは構造上簡単に入ってこれない立地になっているので、本当に少しだ。

 窓から少し外を見るも、すでに真っ暗で何も見えない。

 その闇の中に、どれだけ多くのゾンビが潜んでいるのか。


 想像したら背筋が凍る。

 人々はゾンビから逃げるために避難したはずだが、感染は空気を通して行われた。

 ということは、時間差で逃げる途中にゾンビになった人もいるということ。

 お知らせが響いたあと、どれだけ効率的にダンジョンに潜ったとしても、追加の被害も大きかっただろう。


 少しでも多くの人が、無事だったことを祈るしかできない。


「そうだ。ゾンビパニックの時間を確認、しておかないと」


 スマホを見れば、俺にメッセージが届いていた時間はわかる。

 そして、その結果を見て俺は膝を屈しそうになった。

 メッセージの時間は、俺が帰ってくるほんの六時間ほど前。


 それはつまり、俺がグールとの戦闘を終えた頃ということ。

 俺があそこで気を失わず、戻ってこれていたら。

 茉莉ちゃんと一緒に逃げることも、いっそ彼女をダンジョンに避難させることもできたということ。


「考えるな。もう、それはイフの話だ」


 いくら考えたところで、過去は戻らない。

 そのたった六時間で、日本は混乱し、電気とガスは止まり、スマホは圏外になった。

 どんな災害が起きても、二、三日は大丈夫と言われていた気がするのだが、現実はそうはならなかった。

 何が起こってそうなったのかは、知るよしもない。

 ダンジョン出現の混乱も、一枚噛んでいる気はするが。


 とりあえず、現時点で知られることは知った。

 これで、ひとまずやることは終わったかな。


「最後に、茉莉ちゃんは……」


 俺が部屋に戻ったところで、再びモゾモゾし始めた茉莉ちゃんに目をやる。

 本音を言えば、ここに彼女を放置しておくことはしたくない。

 だが、ダンジョンの1階層も2階層も安全地帯ではない。

 ゴブリンがいつ現れるかも知らないし、2階層もゾンビが茉莉ちゃんを同族とみなすとは思えない。

 そもそも、茉莉ちゃんはダンジョンに入れるのか?


「抗体がどうのって言ってたのもあるし、試してみるか?」


 ダンジョンに入れるだけで茉莉ちゃんがもとに戻ったりしないだろうか。

 ありえなさそうだが、それでも、と思ってしまう。

 そんな一縷の望みをかけて、俺は茉莉ちゃんを抱き上げダンジョンのゲートに向かってみる。


 だが。


「……そもそも入れないか」


 茉莉ちゃんを抱えたままだと、ダンジョンのゲートに不思議な斥力が働いて、俺はダンジョンに入ることができなかった。

 理由はわからないが、結果だけわかればいい。

 茉莉ちゃん同様、他のゾンビがゲートに入ってくることもない。今はそれでいい。


「ますます、人間がダンジョンに逃げ込むようになるな」


 この事実は、きっと避難している人たちも気づくだろう。

 ダンジョンの外で、ゾンビに怯えて過ごすより、ダンジョンの中でモンスターに怯えて過ごす方がマシだ、という状況が浮かぶ。

 少なくとも、モンスターに噛まれてもモンスターにはならないからな。


「……それじゃ、本当に、ここまでか」


 現状、やるべきことはやった。

 茉莉ちゃんを放置しても、エネルギー源は魔力ということだったので死ぬことはない。

 ないはずだ。

 だけど、思うところがないでもない。


「……そういえば、簡易鑑定があったんだったな」


 ダンジョン曰く、人の感染状況を見極めるために配布したとかいう無料スキル。

 今まで使う機会がなかったので使っていなかったが、最後に茉莉ちゃんの状態を確認してみた。


 ──────

 人間・女

 状態:呪腐魔病(軽)

 ──────


 情報は、本当に簡易だった。


 彼女には、夜柳茉莉という名前があって、優しいご両親と、一度だけ会ったことのある感じのいいお兄さんがいて。

 少し遠慮のないところもあるけど、優しい性格の女の子で。

 友達も多いけど一人でゲームをやるのも好きで。

 昔はダメダメだった料理も、今はとっても上手になって。

 隣に住んでるだけの大学生の健康まで気を使ってくれて。

 そして、俺の口からでまかせだった約束を守るために、こんな状態になって。


 そういう、彼女を形成するパーソナリティなんて何一つ表すことのない簡易な鑑定結果だった。

 俺は拳を強く握りしめる。



「俺が、治す」



 彼女は決して『人間・女』なんて表されるような子じゃない。

 俺が、この世界に夜柳茉莉を取り戻す。



 泣き言を言っている暇があったら、一体でも多くのゾンビを狩ってEPを貯めるんだ。

 そう決意を固めて、俺はダンジョンのゲートをくぐった。


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