第25話 ジョブ解禁のデメリット
称号から思わぬ精神的ダメージを受けたが、ひとまず性能自体はプラスになっているとわかった。
ステータスが合計+3ということは、レベル一つ分の恩恵があったということ。
運に使ってしまった3がそっくりそのまま帰ってきたと思えば、運振りも全然許せる。
「こういった称号を集められたらアドバンテージにはなるんだろうな」
ただ、称号を集めて能力の底上げをするのは現状難しいだろう。
この称号を手に入れたきっかけはグールだったが、今はもうグールみたいなおしおきボスの出現が中止された。
なにより、あんな死ぬ思いをして称号が欲しいとは思わない。
というわけで、今回のこれはたまたま手に入ったボーナスだと割り切っておく。
「さて、あとはジョブとアイテムか」
アイテムに関しては、ゴブリンのドロップアイテムを納品して以来ほとんど見てない。
こっちに回すEPはなかったし、必要なものはだいたいホームセンターで手に入った。
だが、現状はそのホームセンターが無期限休業になってしまった。
今は売り尽くし0円セール中かもしれないが、対価として己の命をお預け金とする必要があるので、積極的に利用したくない。
というわけで、何か今の俺に役立つラインナップが増えていないか、と思ったのだが。
「災害支援特別ショップ?」
しれっと、ショップのタブが増えている。
通常のショップに関しては、いつか見たように回復薬とかゴブリンの装備類が並んでいるので、特に代わり映えはしない。
HPじゃなくてCP回復薬がラインナップに増えたので、これはいつか買いたい。
CP回復薬Ⅰ:EP30
効果:現在CPを15回復する。
でもHPがEP5で15回復だったのに、ちょっと暴利じゃないですかね?
たぶん、回復速度とかから考えてもHPよりCPの方が重要なリソースだからなんだろうけど、ゾンビ4体でようやく一個て。
まぁ、とりあえずこっちはいつか余裕があったら買うリスト入りだからいい。
問題は災害支援特別ショップのほうだ。
こっちは、お知らせには載っていなかったがそれと同時に追加された救済措置の一つだろう。
ラインナップはまさしく、こういう現状で欲しかったものが多い。
ただ、
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小型発電機:EP7000
濾過装置:EP5000
電子レンジ:EP3000
動画再生機:EP6500
軍手10組セット:EP20
etc...
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足元見すぎだろ。
EPの価値わかってんのか運営?
もう透けて見えるんだよ、お前らの『ほらはやくダンジョン潜って、はやくはやく』っていう意図が。
そもそも、電子レンジ買っても、小型発電機も買わなきゃ動かねえじゃん。そういうところもっとちゃんと考えろよ。
俺は呆れながら、ポンと適当に電子レンジについて詳しい説明を見てみる。
──────
電子レンジ:EP3000
災害支援用グッズ。
中に入れたものを温めることができる。
EP結晶を動力にして稼働可能。
──────
よく見たらオーパーツだったわ。
これ電気じゃなくて、ダンジョンがあればどこでも動くタイプの電子レンジだわ。
ていうことはあれか、ここにあるような機械は全て、電気じゃなくてEPで動かせるのか。
……いや、それを考えても差し引きで高い気がするが。
それでも、ダンジョンに避難した人達からすれば、失われた文明の利器が目の前にあるとすれば、手を伸ばさずにはいられないだろう。
よく見てみれば、EP結晶で動くタイプのアイテムは値段が高く、そうじゃないアイテムは比較的安い傾向は見て取れた。
「それでも、普通に買うには高いけどな」
軍手買うにもゴブリン10匹はきついだろ。
1日潜ってやっと軍手一つとか、やってられない。
EPによる購入とダンジョンの仕様(EPの持ち越しができない)が噛み合ってないというか、電子レンジなんて、いつ購入できるようになるんだか。
と思ったところで端末から補足が入る。
『アイテムの購入に関しては、冒険者による共同購入が認められています。その際、誰か代表が端末の前で待機していれば、他の人物はダンジョンの外に出ることも問題ありません』
「つまり、みんなで力を合わせてお金を貯めましょうってことね」
なるほど、俺には関係ないな。
文明の利器への道は、陸の孤島に取り残された俺には無縁の話となった。
いつか、宝箱から金貨がザクザク取れた時にはあらためて考えることにしよう。
「あと、災害支援って名目のくせに食料と水を一切支給する気がないのはどうなんだ」
『救済措置として、モンスターからのドロップが追加されました』
「知ってるよ」
欲しいものはだいたい揃えてやったから、食い物と水は自分らでなんとかしろよってことなんだろう。
ダンジョンはそういうところに余念がない。
「さて、いよいよお待ちかねだな」
アイテムショップを閉じて、俺はいよいよジョブシステムに触ろうと思う。
現状でもレベル10は見えてきてはいたが、それはそれとして、早めに確認できるならそれに越したことはない。
スキルやステータスと同じくらい、俺が生き残るためにジョブは必要なはずだ。
少なくとも、どんなゲームでも序盤でノージョブがジョブありより強いことはない。(最終的にって話ならまだしも)
「それじゃ、っと?」
こんなクソみたいな状況でさえ、ほんのわずかな楽しみを感じるジョブ画面を開こうとしたところで、そこにはわかりやすい警告の文が出てくる。
『あなたは現在ノービスレベル7です。本来のジョブシステムはノービスレベル10で解禁されます。本当にレベル10を待たずに解禁してもよろしいですか?』
……いったん、タンマで。
なんだこの、いかにも何かありげな警告は。
ゲーマーでなくても、こんな警告を出されたら思い至るぞ。
レベル10未満でジョブを解禁すると、絶対に何らかのデメリットがあるんだって。
昔ジョブについて質問したときはなんて言ってたかな。
確か、レベル10になって、条件を満たしているジョブが習得リストに並ぶとかだったか。
ということは、ここで解禁すると本来就けるはずだったジョブに就けなくなるみたいな感じか?
「端末くん。現状でジョブを解禁するメリットとデメリットを教えて欲しい」
さて、今回は教えてくれるだろうか。
俺はしばらく端末くんの返事を待つと、ややあって長文が帰ってきた。
『現状でジョブを解禁するメリットは、ジョブの持つ能力をいち早く会得できることです。
反対にジョブを解禁するデメリットはいくつかあります。主だったものは以下の通りです。
・促成栽培によるステータスの若干の欠損。
・ノービス時に受けられるスキル経験ボーナスの放棄。
・ノービス時の経験をもとにする特殊ジョブへのルート喪失。
・その他、細かい権益の放棄。
従いまして『どうしても火炎魔術使いや氷水魔術使いによる生活インフラの確保が必要』『即座に戦闘を有利に進めるステータスが必要』などといった切羽詰まった状況でない場合、レベルを10まであげて本来のジョブシステム解禁を行うことを推奨します』
なるほどね。
無職期間は無職であると同時に職業適性を見極める期間でもあるわけか。
ノービスはお勉強中の学生で、ジョブに着いたらもう働くものってことだ。
だから、ノービス期間中はあらゆるスキルを磨くのに適していて、その中で発現したスキルなんかを見てジョブを決めろと。
実際、俺だって頭の中には華々しい英雄像を持っていても、実際の行動は汚い忍者を地で行ってたしな。
なりたいものと、なれるものは違う。それを見極め、あるいは納得するための時間がノービス期間か。
そう言うんだったら、レベル1の段階で魔法の適性も見られる無属性魔法とか解禁しとけよと思わなくもないが。
「ついでに、端末くんのオススメは?」
『あなたの場合は、レベル10まで上げることを強く推奨します。先ほどの警告文が出現するのは、特殊ジョブに就ける可能性が高いと判断された挑戦者のみとなります』
「ほう?」
どうやら、さっきの警告は誰かれ構わず出るわけではない、と。
そう言われると、こんな状況でも厨二心をくすぐられるところはある。
そうして浮かれそうになる頭を、俺は強く振った。
楽しんでるんじゃねえよ俺。
茉莉ちゃんの責任を取るのが第一だろうが。
一瞬で冷静になった俺は、ジョブについて考える。
即座にジョブに就けるメリット自体はもちろんある。
だが、俺はゾンビ狩りのおかげでEPそのものにはあまり困っていない。
レベル10になるまでに必要なEPは分からないが、1000だの2000だのがいきなり要求されるとも思えない。
これくらいなら教えてくれそうだと思って、端末に尋ねてみる。
「俺がレベル10になるまでに必要なEPを教えてくれるか?」
『上杉様は現在ノービスレベル7です。レベル7からレベル10まで上げるために必要なEPの合計は480です』
「絶妙に届きそうな感じだなぁ」
実に、いやらしい。
グールのイレギュラーはあったにせよ、実際俺は490ちょっとまでEPを貯めた実績がある。
ということは、ゾンビ狩りでレベル10は現実的に狙えるラインだ。
「…………うん、やはり上げよう。誰かと力を合わせられない俺の場合、自分の強化に妥協を挟むのはダメだ」
方針は決めた。
まず、最低限必要だと思ったスキルを習得。
次に、レベルを10まで上げてジョブを習得。
余裕がありそうだったら、ゾンビキラーを習得。
ここまでやって、第三階層で食料を得られそうか、外に出て食料を手に入れるかを判断する。
というのが理想だが。
「問題は現時点での食料が保つかどうか」
ダンジョン引きこもりをするために買い込んだ分がまだ残っているが、もう一週間近く補充していない。
現実的にはレベル10まで上られるかどうかのあたりで、底を尽きそうだ。
ダンジョンの奥は怖いが、ある程度のところで一度下見もしておいた方がいいだろうな。
「となると、時間は無駄にできないな。さっさと行動を始めよう」
現状の確認を終え、俺は生き残るための行動を開始することにした。




