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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第21話 連絡と救済



 現実を認めたくなくて嘆いていた時間は、そう長くなかった。


 別に、いきなり頭を切り替えたというわけじゃない。

 現実を認めて、割り切ったわけじゃあない。

 俺を動かしたのは純粋な疑問だった。


 なぜ、茉莉ちゃんがここにいるのだろう?


 現時点で俺が分かっていることは少ない。

 俺がダンジョンに潜っている二日とちょっとの間に、何かがあってゾンビがあふれたということ。

 そして、友人たちはしきりに俺に『避難しろ』という連絡を入れていたから、どこかに避難したのだろうということ。


 その二つを繋げて疑問が生まれた。

 友人が俺に連絡する余裕があるくらいなら、きっとこの辺りの地域は逃げるまでの猶予が全くなかったというわけではない。

 ならばなぜ、茉莉ちゃんは避難せずに、ここにいた?


 逃げ遅れた、という話なら仕方ない。

 でも、寝たきりのご老人とか、体力のない引きこもりとかじゃないんだ。

 一般的な女子高生が、理由もなく逃げ遅れるか?

 そもそも、逃げる途中でゾンビになったならまだしも、どうして自分の家の前に居た?



「まさか……まさか……」



 ベッドで拘束されている茉莉ちゃんから目を逸らし、俺は圏外になって今はどこにも繋がらないスマホを手に取る。

 今から何かをすることはできなくても、圏外になる前に受け取ったメッセージは確認できるはずだ。


 メッセージの大半は、俺の安否を確認するもの。

 こう見えて、そこそこの社交性はあったので話をする程度の相手は多かった。

 緊急時にも、お互いに連絡を取ろうとする程度の相手だ。


 だが、今は良い。

 相手の安否が気にならないでもないが、どうせ得られる情報はない。

 たくさんのメッセージを無視しながら、俺はついに見つけてしまった。


 最初は、俺の家の隣に住んで居たはずの、大家さんからのメッセージだった。


『今そちらはどうなっていますか? 茉莉は無事ですか?』

『私たちはいま所用で家を出ていたので無事なのですが』

『茉莉が、あなたとの約束があるからとそちらに残っています』

『どうか返事をしてください』

『あの子からの返事がないのです』

『お願いします』

『茉莉が無事かどうか、教えてください』


 うっ、と吐き気が込み上げてくるのを、ぐっと堪えた。

 手が震える。

 それでも、確認しないわけにはいかない。

 俺は震える手で、最後に、茉莉ちゃんからのメッセージを開いた。


『志摩くん、返事をして』

『早く逃げなきゃ!』

『待ってるから! 一緒に逃げよう!』



『お願い』

『開けて』



 膝から崩れ落ちそうになった。

 だけど、ギリギリで踏みとどまった。


 ベッド拘束していた茉莉ちゃんの、その手を、見る。

 襲われたときは必死で気付いていなかったが、彼女の手は何度もドアを叩いたかのように、ボロボロだった。


 彼女がなぜ、逃げ遅れたのか。

 知ってしまえば、こんなに簡単な理由だったのか。



 彼女は、俺との約束のために、ここに残って。

 声が届くわけもない俺を呼び続けて。

 そして、逃げ遅れたんだ。



 つまり、彼女は、俺のせいでゾンビになった。

 俺との、つまらない約束のせいで。



「ウォエッっ」



 今度こそ込み上げて来た吐き気を、俺は慌てて洗面台にぶちまけた。

 ゾンビの腐臭に慣れた体にも、酸っぱいその臭いは不快に思えた。

 出すものを出し切ってから、蛇口を捻ってそれを押し流す。

 水道がまだ生きていることも、なんの慰めにもならなかった。



「……これから、どうする」



 頭から水をかぶり、こみ上げる吐き気を抑えて俺は自問自答する。

 俺は、どうすればいい?

 茉莉ちゃんをゾンビにしてしまった責任を、どうとれば良い?


 何をすれば良いのかわからない。

 正直に言えば、自己嫌悪で死んでしまいたいくらいだ。

 俺が死ぬことで、茉莉ちゃんの今をなかったことにできるなら喜んでそうしてやる。

 今から拘束を解いて、彼女と一緒にゾンビになるのも悪くない。


 もちろん、そんなことで何かが変わるわけがない。

 それでも、その誘惑に抗いたくない。

 俺は、完全に自分の進むべき道を見失っている。


 こんなはずじゃなかった。

 ダンジョンに潜ったのがまずかったのか?

 そもそも、なぜ世界にゾンビなんてものが溢れたんだ?


「ダンジョンのゾンビが、漏れた?」


 とっさに考えたのは、そんなことだった。

 俺は思わず、自分が潜っていたダンジョンの入り口を見る。


 ここから、ゾンビそのものが溢れたとは思えない。

 事実、俺の家は綺麗なままだし、玄関には鍵もかかったままだった。


 だけど、もしゾンビがウイルスのようなもので発生するとしたら?

 二階層に入り浸っていた俺が、うっかりそのウイルスをこの街に撒き散らしていたとしたら?


 俺だったらステータスの恩恵で耐えられたそのウイルスに、世間一般の人が感染したのだとしたら?

 茉莉ちゃんだけじゃなく、この世界の惨状そのものが、俺のせい……?


「…………っ」


 至ってしまった考えに、俺が再び胃液を吐き出しそうになったところで。



 この世界に、おそらく2度目の声が響いた。



『突発的に発生したゾンビ災害に関して、ダンジョン側からの連絡及び救済を行います。人類は速やかにダンジョンに潜り、お知らせを確認しなさい』



 それは、普段ダンジョンに入るときに聞いている声とはまた違った、頭の中に響いてくる声だった。

 これと同じ声が響いたのは、世界にダンジョンが現れたときくらいのはずだ。


「連絡と、救済?」


 俺の脳裏によぎったのは、珍しく端末から声をかけられた時のこと。

 端末には、今まで聞いたことのなかった『お知らせ』が2件届いていると言われたのだ。


 だが、ダンジョン側の意図はわからない。

 人類をダンジョンに潜らせたがっているというのはなんとなく察していたが、連絡と救済とはなんのことなのかさっぱりだ。


 そもそも、直接頭に声を届けられるのなら、直接その連絡を伝えればいい。

 それをせず、ダンジョンに潜って連絡を確認しろというのは、人類をダンジョンに入らせるためにこのゾンビ災害を利用しようとしているようにしか思えない。


「ダンジョン、か」


 俺は、自室でぽっかりと口を開けているゲートを睨む。

 こいつのせいで、俺は茉莉ちゃんをゾンビにしてしまった。

 もしかしたら、こいつのせいで日本をめちゃくちゃにしてしまった。


 正直に言えば、ぶっ壊せるのなら今すぐにでもぶっ壊してやりたい気分だ。

 でも、ダンジョン側からは、わかりやすい人参をぶら下げられている。


「茉莉ちゃんを、救える可能性が、もしかしたら……」


 俺はまだベッドでもぞもぞと動いている茉莉ちゃんを見た。

 もし、さっきの『声』がなかったら、茉莉ちゃんに噛まれて一緒にゾンビになったかもしれない。

 責任の取り方としては下の下も良いところだが、俺みたいな奴の末路にはふさわしいだろう、と。


 だが、まだここから、何かを救える可能性があるのなら。

 この、どうしようもなく壊れてしまった世界にも、希望があるのなら。

 俺はもう一度、喜んでダンジョンに潜ってやる。



「ごめん茉莉ちゃん。待っててくれ」



 意思の疎通など欠片も取れている様子のない少女に、それでも優しく声をかけて、俺は再び異界への門をくぐった。






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