第16話 約束
二階層の端末の前で一世一代の勝負を決めた俺だが、別にそこがダンジョンの出口だというわけでもないので、帰るためには一階層も通らないといけない。
ゾンビ相手には無敵だった俺だが、ゴブリンは普通にゾンビ臭が漂って居ても向かって来る。むしろ怒りに身を任せて襲いかかって来る始末だったので、俺は慌ててゴブリンの臭いに変更した。
そうすると、明らかに違いがわかるほど奇襲がやりやすくなったので、モンスターはある程度は臭いで同族判定を行っているらしい。
まぁ、仲間がいると思って警戒してなかった通路の角からいきなりバットが降って来るのは反則だよな。
そんなこんなで、小銭みたいなEPを稼ぎながら俺はダンジョンの入り口へと戻ってきた。
さっき使わなかった分と合わせて、残っているEPは20。
今ってどんなスキルが出てるんだっけと、改めて確認する。
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【スキル習得】
所持EP:20
[パッシブスキル]
聞き耳:2EP
危機感:5EP
罠感知:10EP
すり足:10EP
棒術:10EP
ポーカーフェイス:10EP
早足:20EP
気配察知:20EP
ナイフ術:20EP
隠密:50EP
オートマッピング:2000EP
[アクティブスキル]
強打:5EP
堅固:5EP
測量:10EP
大声:10EP
急所突き:10EP
物真似:20EP
罠解除:20EP
声真似:50EP
火炎魔術(初級):400EP
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パッと見ただけで、どうあがいても斥候とか暗殺者とかが覚えそうな技能ばっかり増えている。
もしくは詐欺師とかそういう類のやつ。
戦闘スタイル的にはそれであってるんだろうけど、これから魔法使いになるとすると、こう、パッとしないのばっかりだ。
ポーカーフェイスとか物真似とか、絶対ゾンビの前で素知らぬ顔しながらゾンビのフリしてたから出てきた奴だよな。
少し悩んでから、俺はこの先でも比較的使い道がありそうなスキルを二つ選んだ。
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罠感知:10EP
第六感によって仕掛けられた罠を直感的に感知することがある。
コストCP:5
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測量:10EP
視界に映る範囲を正しく測量する。また、その結果を正しく地図に残せる。
消費CP:1
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測量が神スキルすぎるだろ。
しかもこれ、書いてはいないが、どうやら使い切りというよりは制限時間があってその間はずっと効果が発動するタイプのスキルっぽい。
極論を言えば、発動時間中にダンジョンを一周できれば、それでマップを作ることができてしまうのだ。
まぁ、そこまで行っても手書きに違いはないし、発動時間中じゃないと正確な地図は書けないみたいなので、あんまり欲張りすぎてもダメみたいだが。
罠感知はまあ、パッシブとしてつけといたほうがいいよね、ってくらいのスキルだ。
というわけで、今の俺はこんな感じである。
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上杉 志摩
ノービス(無職)
レベル6
所持EP:0
HP84/84
CP40/40(使用中42/82)
力:10
魔:16
体:7
速:15
運:9
【所持スキル】
[パッシブスキル]
悪臭
[アクティブスキル]
なし
【セットスキル】
[パッシブスキル]
不意打ち 集中力 罠感知 ストレージ(極小)
[アクティブスキル]
強打 目星 測量
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悪臭は残念だが外させて貰った。
これから部屋に戻るところで、ゴブリンだのゾンビだの臭いをさせておくわけにはいかないだろう。
「とりあえず、準備はこんなところか。おっ?」
念のため、ストレージの中身の再確認と思ったところで、感触が変わっている。
おそらく、ストレージの枠数が6枠になり、制限サイズも一辺40cmくらいに広がっている。
やけくそに上げた魔のステータスが役に立ったというところだろう。
「有効活用させてもらおうかな」
一枠増えたストレージの使い道は即座に決めた。
悪臭を解除したはずなのに、今着ている装備類からガンガンに嫌な臭いがしているので、この辺をまとめて突っ込んでおこう。
「ふぁああ。やっぱ、戻って来ると眠気がすごいな」
ダンジョンの謎の声に見送られて、家に戻れば、見慣れた六畳の部屋が出迎えてくれる。
今日は目星先生の活躍によって危険がほとんどなかったとはいえ、ゾンビをぶっ叩きまくって疲れていないはずもない。
でも、その前に絶対にシャワーには入ろう。俺はそう決意していた。
とりあえず、部屋に臭いがつかないよう、急いでポリ袋に装備を押し込む。
なんとか一枠に収めたかったが、収まり切らずにストレージを二枠消費してしまいつつ、悪臭問題からはひとまず解放される。
あとは、体にこびり付いた臭いもガシガシ落とし、ようやくダンジョンから帰って着た心地になるのだ。
「あ、煮物、残り食べなくちゃ……」
と、冷蔵庫に入れたままだった料理に気づいたのは、俺が疲れから眠りの底に落ちる寸前のことだった。
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冒頭まで残り2日
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「おはよう、志摩くん」
「……おはよう。茉莉ちゃん」
次の日。
俺の爽やかな朝の目覚めは、いつもの連続ピンポンによって齎された。
本当に、俺が引きこもると宣言しているのに、聞いてくれない少女である。
「鍋回収しに来たよ」
「あー、はい」
昨日のうちに、煮物は皿に移して冷蔵庫に入れてある。
鍋は洗ってあったので、すぐに茉莉ちゃんに渡した。
「いつもありがとう。美味しかったよ」
「ふふん。惚れ直した?」
「惚れ直した惚れ直した」
俺のおざなりな言葉でも、茉莉ちゃんは満足げに頷く。
こういうところは、年相応の可愛い子なんだけどなぁ、どうしてゲームが絡むと面倒臭いオタクみたいになっちゃうかな。
「それで、進捗は?」
俺がアクセサリーを完成させないとゲームの続きができないと思っている茉莉ちゃんは、そうやって探りを入れて来る。
彼女が何回も俺の家に突撃してくるのは、そのせいもあるか。
だが、今日の俺は一味違った。
「それなんだけど。明後日の夕方くらいに、家に来てくれないかな」
「えっ!」
そう。明後日。
俺は当然アクセサリーの製作など行っていないし、明後日になっていきなりそんなものが完成するわけもない。
だが、俺は明後日、茉莉ちゃんを家に招くことに決めた。
つまるところ、茉莉ちゃんにダンジョンの秘密をバラすことにしたのだ。
「本当に、明後日で大丈夫なの?」
「ああ。期待して待っててほしい。茉莉ちゃんを絶対に喜ばせる自信がある」
「ふ、ふーん。良いんだ。ハードルあげちゃって」
「問題ない!」
茉莉ちゃんは、俺の断言にちょっとテンションを上げている。
ボソボソと「手作りアクセかぁ。えへへ」などと呟いているのは、いくらゲームが異様に好きな茉莉ちゃんでも、女の子だということだろう。
俺が手先の器用なところを見せたことはないので、そこまで期待してもらうと少しの罪悪感がある。
だが、俺は昨日ステを魔力に傾けた時点で決めていたのだ。
これ以上、ソロで意地張るのはやめておこう、と。
今までは、ソロで潜るにはどうすればという考えのもと、生存可能性に全振りしてきたわけだが、やっぱり人間、一人では限界がある。
最初は散々苦労したゾンビだって、二人で投石していたら結果はずいぶん変わったはずだ。
もちろん、年端のいかない女子高生を危険なダンジョンに誘うことに思うところはある。
だが、彼女もいっぱしのダンジョン好きだ。
俺の家にダンジョンがあると知ったら、通報よりも自身も入ることを望む可能性が高い。
そして、俺の時と違って、二人で入ればいざという時、俺が彼女を守れるのだ。
もちろん、二階層の先がどうなっているのかという問題はあるし、どこまでいけるのかは分からない。
いずれ、この秘密の冒険が終わりを迎える日もくるだろう。
だが、その瞬間まで、俺と茉莉ちゃんでダンジョンを二人占めするのも悪くない。
「そ、それじゃ、楽しみにしてるからね! 明後日、約束ね!」
「約束だ」
俺のそんな思惑など知らないで、茉莉ちゃんは笑顔を浮かべながら家に帰っていく。
俺はそんな彼女の背を見送りながら、ダンジョンに泊り込む準備を進めるのだった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
明日も朝夕合計4話投稿して、プロローグ終了予定です。




