第14話 ダンジョンのゾンビ
そして数時間、いろんな戦い方でゾンビと戯れることになった。
まず、不意打ちについてだが、これは単体だとゾンビとの相性が悪かった。
そもそも、ゾンビは俺を目視だけで認識しているわけではなかったのだ。
音、匂い、温度、あるいは魔力。
もちろん目が見えていないわけでもないようだが、それ以外のなんらかの方法でも人間を認識していた。
だから、ゾンビの気配を感じて隠れていても、ばっちりこっちに気がついて向かってくるのである。
不意打ちは相手に認識されていないことが発動の条件なので、大いに困った。
奇襲をしかけたつもりが、がっつりバットをガードされた時、俺はもうターゲットを切るために全力で一階まで逃げたとも。
石での遠距離攻撃は、ぼちぼちといったところか。
頭という的に当てないといけないのでコントロールは必要だが、相手の動きが鈍いのもあって、当てること自体はそこまで難しくなかった。
問題はやはりタフネスにあって、明らかに頭にクリーンヒットしたと思っても、石の10個程度では全然倒れる素ぶりも見せないのだ。
一体のゾンビに、ストレージにしまってある石を一袋使い切るかどうかというところ。
安全に倒せるのはいいが、時間と、あと投げ終わった石を拾う労力がかかるのがネックだった。
結局、一体に向かって石を投げている最中にもう一体に補足されてしまったことで、俺は途中からこの戦法の中断を余儀なくされた。
そして、肝心のゾンビ一体から得られるEPは8ポイント。
ゴブリン4体分を多いと見るか少ないと見るかは人それぞれだろう。
個人的には、そこまで労力と釣り合っているとは思えなかった。
結局、そこまでに俺が倒せたゾンビは、投石作戦が成功した三体だけだった。
もっと攻撃力が上がって簡単に倒せるようになれば美味しいのだが、この分だと一階に戻って、ゴブリンのアイテムドロップを祈願した方がレベルアップは早いかもしれない。
強打はまだ試していないが、接近するリスクと何発必要か分からない現状では、早々に使いたくはない。
だから、一旦ゾンビ狩りは諦めた方がいいかもしれない。
と思っていたところで、俺はゾンビの攻略方法を見つけてしまったのだった。
その時俺は、二階層の入り口にある端末を見ながら、唸っていた。
現在のEPは34。レベルアップには50必要。
今からゴブリン狩りに戻っても、寝るまでに50を貯め切ることは難しい。
ドロップアイテムにワンチャンかけることしかできない。
だったら、現状を打破しうるスキルを何か習得した方がいいのではないだろうか。
そう思ってスキルリストを眺めているとき、ふと思った。
この画面で『目星』を使ったらどうなるのだろう、と。
目星は眼に映る範囲で違和感を見つけるスキルだが、説明は他にもあった。
──────
目星:5EP
視界に映る範囲で違和感を探す。また探し物が見つかりやすくなる。
消費CP:2
──────
そう。探し物が見つかりやすくなるスキルでもあるのだ。
となると、このスキル習得画面を開きながら『目星』を使えば、俺が今求めているスキルが分かるんじゃないだろうか。
咄嗟の閃きだったが、試してみる価値はあると思った。
まだCPは残っているし、一度くらいならいいだろう、と。
そして使った結果はこれだ。
「見事に、何も引っかからない」
スキル習得に並んでいるスキル群には、どうやら俺の求めているゾンビ特攻のスキルは無いようだった。
俺は少し失意に沈みながらも、一度ステータスの画面を開いて、今後のステ振りでも考えようかと思い。
そこで目星が『悪臭』をプッシュしていることに気づいてしまったのだ。
半信半疑になりながら、俺は目星のことを信じて悪臭をセットした。
最大CPのコストを5も消費したそれは、つけた瞬間に自分でも顔をしかめるほどの臭いを体から発し始める。
「なんだこれ、ゴブリンだけじゃない。ゾンビの臭いも混ざってるのか?」
俺は鼻をつまみながら、悪臭の説明を見た。
──────
悪臭
今まで経験したことのある悪臭を放つことができる。
放つ悪臭の種類は任意で選択可能。デフォルトでは複合悪臭となる。
コストCP:5
──────
どうやら、今の俺はゴブリンが腐ったような臭いを発しているらしかった。
俺は慌ててスキルの操作を目論む。
強打やストレージなどで、なんとなくスキルの扱いは染み付いた。
頭の中に『悪臭』の設定を開いて、ゴブリンの臭いだけをoffにするイメージ。
「少しはマシになったか?」
すると、とたんに激烈な悪臭は強烈な腐臭程度に弱まり、この階層で慣れたく無いのに嗅ぎ慣れたゾンビの臭いがする冒険者になった。
「これで一体、何が変わるんですか目星先生」
尋ねてみるも、目星は何も答えてはくれない。
俺は自身の臭いにため息さえ吐きたくない気持ちのまま、もう一度ゾンビの群がうごめく二階層に足を踏み入れることにした。
そして俺は悪臭の有能さを知った。
ゾンビの臭いを発していると、ゾンビは俺に襲いかかってこないのだ。
「せーの!」
俺は、どこを目指すでもなく通路をうろうろしているゾンビの背後に回り込むと、金属バットで思い切りゾンビの後頭部を強打する。
普通の攻撃に不意打ち補正が加わり、眼には見えないHPがごっそり削れたはずだ。
そして攻撃を受けたゾンビはつんのめり、唸りながら後ろを見る。
俺は、素知らぬ顔でそこに立っている。
ゾンビはそんな俺を無視し、進行方向を変えて己を攻撃した何者かを探し始めるのだった。
「もういっちょ!」
再び歩き出したゾンビを、俺はもう一発金属バットで殴る。
この動作を4回ほど繰り返すと、ゾンビは物言わぬ骸へと戻り、そのままEPへと変換されるのである。
「目星先生は神だったわ」
どうやら、ゾンビは臭いで同族を判断しているようなのだ。
多分だけど。
俺は『悪臭』の効果を正確に把握しているわけではないので、はっきりとは言えない。
ただ、ゾンビ臭を発している状態で後ろから殴りかかっても、ゾンビは俺が敵であると気づかない。
振り向いて俺を認識はするのだが、少しの間を置いて自身を攻撃した敵を探しに行ってしまう。
流石にゾンビの目の前で殴りかかると、臭いはともかく存在として敵だと認識されるようなのだが、その決定的な瞬間さえ見せなければ、さっきのように金属バットを持って突っ立っていても問題ないのである。
この時点で、ゾンビはその厄介な能力の大半を喪失し、ただタフなだけの経験値タンクと成り果てたのだった。




