第13話 二階層
「石つっよ!」
現在地は、第二階層に続く階段のある広間である。
俺は素直な感想をこぼしながら目の前の惨状を眺めていた。
目の前には下へ続く階段。
大量に散らばっている庭石。
そして、その石に頭を撃ち抜かれて生き絶えたゴブリン3匹。
ステータスの力を以前より高めた影響はもちろんあるのだろうが、距離を取りながら投石を繰り返すだけで、ゴブリン3匹を討伐できてしまった。
速のステータスのせいか命中率も向上していた気がするし、投石一発では削りきれないHPも四、五発も投げればなんとかなった。
「やっぱ人間って、投擲に適した体してるんだな」
聞いた話では、人間は動物の中でも長く走ることと物を投げることが得意だとか。
となると、人間最強の戦法は走りながら物を投げ続けることではないだろうか。
「いやまぁ、こんなのが通じるのは今だけかもしんないしな」
しばらくこのままで良いやと思いそうだった心を引き締め直す。
これはゴブリンだから有効だっただけで、石でダメージを受けないモンスターが出た時点で破綻する話だ。
相手が遠距離攻撃の手段を持っている可能性もあるし。
「油断せずにいこう」
とはいえ、温存できたことは素直に喜ばしい。
広間に散らばっている石を回収しながら、消えゆくゴブリンを眺める。
今日はまっすぐ入り口からここに向かってきたので、戦闘はほとんどしていない。故にHPもCPも満タンだ。
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HP64/64
CP22/22(使用中37/59)
──────
ストレージがごっそり最大値を削っているのはやっぱり気になるが、そのおかげで大量の石を袋に詰めて持ち込めているのだ。
現状ではプラスだと考えよう。
「さて、行くか」
今回はドロップアイテムを落とさなかったゴブリンをちょっと恨めしく思いながら、俺は静かに、二階層へと向かう階段を降りて行く。
「なんか、臭いな」
階段を降りて、最初の感想はそれだった。
一階層も思い返せば無臭だったわけではない。いたるところから、土っぽいような石っぽいような匂いがしていたし、ゴブリン本体はぶっちゃけ臭かった。
だけど、それを意識するほどではなかった。
それが、ここに降りてきて初めに、饐えたような、何かが腐ったような臭いを真っ先に感じた。
床や壁の材質が変わっていないところを見ると、ここにいるモンスターに問題があるのではないだろうか。
「アレかなぁ」
誤魔化しのためではないが、積極的にはニュースを見ないようにしている俺だが、海外勢や俺以外の無許可探索勢の情報はチェックしている。
その中には、俺よりも早く二階層に降りた人たちは多い。ついでに、そのあとに書き込みがなくなった人も、いなくはない。
そんな先駆者達から、二階層の情報はそれとなく拾ってある。
大まかに言えば一階層のモンスターの数を増やしたり、それに関連する敵を増やすパターンと、一階層とはガラッとモンスターを変えるパターンの二つがあるらしい。
そして、二階層から出てくる可能性のあるモンスターで一番会いたくなかった奴が──
「ぅうううう、あああぁぁあああああ」
「っ!」
ダンジョンの奥からうめき声が聞こえてきた。
そう。一番会いたくなかったのが、ゾンビである。
思わず悲鳴をあげそうになった口を慌てて抑えて、俺は耳をそばだてる。
聞き耳は取ってないが、男とも女とも取れぬ濁ったうめき声が、かなり遠くの方から聞こえてきている。
「ゾンビかよぉ。戦いたくねえよぉ」
俺は、泣きたくなる気持ちをこらえてそうこぼした。
ダンジョンに出現するゾンビは、人間を元に作られたモンスターというわけではないらしい。
そもそも、顔の方まで腐り爛れているので、仮に元人間だったとしても判別不能なのだが。
その特徴は、鈍足、怪力、腐臭、そして高耐久。
先駆者曰く、頭を完全に叩き潰すか切り離さない限り、見つけた獲物をどこまでも追いかけてくるらしい。
たとえ、手足が切断されていたとしてもだ。
「速のステータスを上げた意味が半分くらい無くなったかもなぁ」
俺が悲しかったのは、腐った相手と戦いたくなかったという他に、ゾンビとの戦闘では速があまり必要なかったというのがある。
そもそも彼らは足が遅いタイプのゾンビだ。昨今ではそうではないタイプのゾンビも散見されるが、ダンジョン内ではそうではない。
あそこまで頑張って速を盛らなくても、逃げることは十分可能なのである。
端末に聞いたわけではないが、モンスターは基本的に階層間の移動はしないらしい。
万が一、ゾンビ複数に囲まれてピンチに陥っても、入り口まで逃げ切ればいくらでも仕切り直しができるとか。
「逆に、耐久はゴブリンの比じゃない」
鈍足であることと引き換えに、奴らは高耐久高火力である。
アメリカあたりの話を聞くに、このダンジョンは銃火器が極端に弱くなるといった補正はないらしい。
ただ、HPを削り切らなければダメージを与えられないのは一緒で、有効な攻撃でなければHPへの影響も減る。
そしてゾンビは、その有効なポイントが頭部にしかない。
だから、闇雲に銃を乱射してもゾンビへの有効な攻撃とはならない。
ずっと頭を狙ったとしても、耐久力がそもそもゴブリンよりずっと高いので、簡単には倒れない。
そして一度捕まってしまうと、恐ろしい怪力で抑え込まれて喉を食いちぎられるとかなんとか。
ちなみに、ダンジョンの中のゾンビに噛まれて感染したという話はまだ出て居ない。HPに助けられた可能性もあるが、今の所は、あくまでそういうモンスターというだけ。
これが、アメリカのとあるダンジョンでゾンビと交戦した先駆者の情報だ。
「逃げながら、頭だけ狙い続けるとか、なかなか難しいぞ」
俺はその銃火器よりもさらに原始的な遠距離攻撃手段しか持っていない。
ただ、近づいてバットで攻撃するのもそれなりのリスクがある。
いきなり腕を掴まれる心配まではないだろうが、バットを掴まれたら最悪捨てて逃げないといけない。
何より、近寄ったらめちゃくちゃ臭い。
ゴブリンに比べて、急激にいやらしさを増したのがゾンビというモンスターだった。
「不意打ちで頭に一発叩き込めたら、あとは流れでやってみるか」
相手の耐久力がまだ分からないので、俺は暫定的な作戦を考え、一回当たって見ることにした。
ダメなら、逃げよう。
「おっと、まずは端末のチェックも必要か」
稼いだEPは10程度だが、念のため何か新しい要素が追加されていないかだけ確認しておこう。
特になければ、EPは一回ゾンビと当たるまで温存だ。
一階層踏破ボーナスとか、マップ100%ボーナスとか期待してみたが、とくにそういうものはなかった。
そういうところは、ケチなダンジョンだった。




