第12話 社会の心配
引きこもってダンジョン攻略を始めて三日目。
俺は二階層に挑む前に、ストレージに入れるアイテムについて考えていた。
そう。
ストレージはダンジョンの中だけでなく、自室でも使えるのだ。
こいつはやべえと思った。
ダンジョンでステータスを得るお話でも、能力には二つの種類がある。
ダンジョンの中だけで強くなるタイプと、ダンジョンの外でも超人になるタイプだ。
前者なら、まぁ、どんな超人だろうとダンジョンから出てしまえばただの人。
もし問題が起きたとしても、最悪どうにか処理することはできるだろう。
だが、後者であれば、それはもう社会の大混乱は約束されたようなものだ。
だって、今の社会のルールは超人を想定したものになっていないのだから。
特にこのストレージ。
ぶっちゃけこれがあるだけで、武器を持ち込んではいけない場所に武器を持ち込み放題。
博物館なり宝石店なりから何かを盗んで、誰にも見つからずに外に出たりといった行為も容易にできてしまう。
特に細かいことを考えずにダンジョンに入っていた俺が習得できたのだ。
きっとダンジョンに入る人間が増えれば、多くの人が習得するスキルになるだろう。
そうなった時、社会は変革を余儀なくされる。
おそらく、ステータスを確認し、抑制する何らかの手法がなければ、社会を満足に維持することができなくなるだろう。
そして政府が情報を出し渋りながら、必死に調査を進めているのは、そういった背景が存在するからだ。
「……まぁ、俺にできることは何もないんだけど」
と、秩序の心配をしたところで、俺も不法にダンジョンに侵入している大学生の一人である。
こういう懸念があることくらい、国の上の人たちは分かっているだろうし、俺が何かをいうことでもあるまい。
俺に今できるのは、ダンジョンに入っちゃった事実をなんとか誤魔化しつつ、罪に問われないルートを必死に考えることくらいだ。
そんなことを思いながら、俺はストレージの整理をする。
昨日の探索時と同じく、ストレージの5枠のうち、3枠は使って2枠は空けておく感じにしたい。
ストレージとリュックの違いは、緊急時に即座に取り出せるか否かだ。
ストレージは念じただけで取り出し口が出てくる。
リュックは、外側のポケット(ペットボトルの水とか挿す場所)はともかくとして、肝心の本体部分は一度下ろして口を開けないと取り出せない。
だから、落ち着いた時に使うものはリュックに、とっさに出したり入れたりするものはストレージに入れておきたい。
「まぁ、現状はマッピングツール以外は適当だけどな」
とりあえず、歩く時はずっと持ち歩いているマッピングツールはいの一番にストレージ行きだ。さっとまとめて一かたまりにして入れられるのは検証済み。
たぶん、このサイズにシンデレラフィットする箱を用意して、貸し倉庫気分で扱うのが一番上手い使い方だろうな。現状は困ってないから適当に袋詰めだけど。
あとは、即座に取り出す攻撃アイテムとか回復アイテムとかを入れたいところだが、あいにくそういうのは持ち合わせがない。
そういうわけで、基本、荷物の中で重いものから順にストレージにぶちこむ感じになっている。
「重いものは一応質量武器の代わりになるし、いいのかな」
案としては、ちょっと手頃な石とかをつめた袋を用意することも考えている。
今の主武装は金属バットだが、やっぱり遠距離用の何かはほしい。
石というのはその辺りとても手頃だ。ストレージに入れておけば重さも問題にはならない。
問題は、東京では意外とその手頃な石というものが道端とかでは手に入らないところである。
それならいっそ、目潰し用の砂とかぎっしり詰めておいたほうが役にたつかも。
「それもありか」
砂ならホームセンターで売っているだろうし、大抵の生き物には効果的だ。
もしかしたらホームセンターには石も売っているかもしれない。
とりあえず二階層に行く前に、一度ホームセンターに再訪すべきだろう。
そう決めた俺は、午前中は武器の確保に努めることにした。
「よし、準備はできたな」
実際にホームセンターには色々あった。
庭に敷き詰める用の庭石なるものはそこそこの量を買えたし、砂も簡単に手に入った。
ただ、備蓄用の食料みたいなのが目に見えて枯渇しているのは少し気になった。
やっぱりダンジョン不安がそうさせるのだろうか。
ちらっと見えたニュースでは、某国で暴徒が徒党を組んで暴動を起こしているみたいな話もあった。
一部では終末思想が蔓延しているだとか、どこかの研究施設が破壊されたとか、混乱に乗じて騒いでいる人もいるようだ。
その対応に軍隊が投入されたとまで聞けば、日本で買い占めが発生するくらい可愛いものだろう。
「まぁ、ダンジョンに実際に入ってみると、意外とどうにかなりそうな感じなんだけどな」
丸二日ほどダンジョンに入り浸っているので少し偉そうに言いながら、俺は覚悟を決める。
今日は二階層に潜る。可能なら、そこにいるモンスターをいくらか狩ってEPを確認する。
もしやばそうだったら、尻尾巻いて逃げる。
絶対に無理はしない。
ピンポン、ピンポン、ピンポーン!
そう心に誓ったところで、俺の家に再び、無慈悲なピンポン連打が鳴り響いた。
「……」
俺が無言で玄関を開けると、そこには案の定、茉莉ちゃんがいる。
しかも今日は私服だ。
大学生は春休みという概念のせいで曜日感覚が希薄になっているがどうやら今日は休日だったらしい。
だから、茉莉ちゃんは昼からやってきてしまった。
しかもなぜか、鍋も持っている。
「こんにちは志摩くん」
「こんにちは茉莉ちゃん。えっと、いったいどうしたのかな」
「はい、これ」
茉莉ちゃんは、挨拶もそこそこに俺へ手に持った鍋を突き出した。
俺が受け取ると、そこそこ重い。
「私が作った煮物。お野菜中心だから、カップ麺ばっか食べてそうな志摩くんにはいいと思う。後で洗って返してね」
鍋の中身は煮物だった。
ウー○ーイーツならぬJKイーツだ。頼んでないけど。
「あ、ありがとう」
「いいよ。志摩くんの健康を守るのは私のライフワークみたいなところあるし」
相変わらず、女子高生に食生活を心配されていた。
この通り茉莉ちゃんはいい子なんだけど、ちょっと今のタイミングは嬉しくなかったかなぁ。
「それで」
煮物を渡し終えて、さあ解散とはならなかった。
茉莉ちゃんは、俺を探るような目でそう言葉をかけてくる。
「えっと、それでって?」
「……だから、アクセサリーはどうなの?」
アクセサリーって何の話だっけ?
そう、思わず聞いてしまう前に、俺のパッシブ集中力がちゃんと答えを導き出す。
そう。俺は先日、茉莉ちゃんを家に入れたくないばっかりに、現在手作りアクセサリーの修行中みたいな言い訳をしたのだった。
「えっと、まだ全然、かな?」
「えー!」
茉莉ちゃんは非難するような目で俺をみる。
だが、仕方ないのだ。本当はアクセサリーなど全く作っていないし、作る予定もないのだから。
「ごめんだけど、もうちょっと待ってほしい」
「……まぁいいけど。やりかけのメガミン、はやくやりたいんだからね」
「それは本当に申し訳ないと思ってるから」
いや本当に申し訳ない。
ついでにメガミンとは現在茉莉ちゃんが我が家で進めている、3DダンジョンRPGの金字塔の一つだ。
シリーズ化もされている作品だが、その第1作目を茉莉ちゃんは我が家でちまちま進めていたのだ。
俺のリアルダンジョン攻略のために、茉莉ちゃんのバーチャルダンジョン攻略を止めてしまっていることに罪悪感はないでもない。
「まぁ、いいや。その代わりちゃんと私を驚かせるようなすごいの見せてね!」
「おう。それは約束するよ」
俺が安請け合いすると、茉莉ちゃんは嬉しそうな顔で去って行った。
まぁ、俺が茉莉ちゃんを再びこの家に入れる時は、ダンジョンの入り口を秘匿するのを諦めたときだろう。
だから、彼女を驚かせるというのは嘘じゃない。絶対驚くすごいの見せられます。ソコントコヨロシク。
「さて、気を取り直してダンジョンに……の前にちょっと煮物をいただいておくか」
流石に、もらった煮物を放ってダンジョンに行くのは憚られた。
全部は食べきらないが、味の染みた人参や大根を堪能し、残りは皿に移して冷蔵庫に突っ込んで、俺はダンジョン探索を再開することにした。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
明日も朝夕合計4話投稿予定です。




