第11話 宝箱
宝箱。
ダンジョンものには欠かせない、ギミックの一つ。
冒険者がダンジョンに潜る理由の一つであり、場合によっては収入源の全てであったりする謎の報酬。
それが今、フィクションではなく現実として俺の目の前にあった。
「とりあえず目星」
マップを埋めている最中。
とある通路の行き止まりで宝箱を見つけた俺は、不用意に近づく前に新しく覚えたスキルを使う。
一階層で何か不審なギミックを見かけた覚えはないが、宝箱やその周辺に罠がないと決まったわけじゃない。
むしろ俺がダンジョンを作るんだったら、こういうところにこそ仕掛ける。
「……反応なし」
と思ったが、このダンジョンを作っている製作者は、少なくとも一階層に罠をしかけるタイプではなかったらしい。
一応安全確認はできたが、それでも警戒したままじりじり宝箱に近づいて、ようやく触れられる距離にたどり着く。
本体は木製。
枠組みは鉄っぽい金属で、蓋はあのよくみるかまぼこみたいな形だ。
これ鉄とか木だけでも、資源としてなんか使い道あるんじゃないかとか思いつつ、俺は金属バットで宝箱をつついてみる。
反応なし。
反対側に回ってつついてみるも、再び反応なし。
やっぱり、罠の気配はない。
「……開けるか」
でもやっぱり正面から開けるのは怖いので、俺は後ろに回り込んだまま、かまぼこの側面を持ってゆっくりと宝箱を開いた。
きぃーっと小気味のいい音が響き、ぱかりと口を開ける宝箱。
とりあえず、毒針の罠とかは発射されなかった。
蓋の部分を邪魔に感じながら、箱の中を覗き込んでみると、そこには箱の容積とは似ても似つかないサイズの、謎の硬貨らしきものが数枚あった。
「銅貨?」
手袋をつけた手で、一枚拾い上げてみる。
よくわからない文字が書かれた、銅色の硬貨だった。
イメージ的には、ほぼ十円玉。
「銅貨が五枚か」
なんで五枚ぽっちをこんなでかい箱に入れるんだ、という思いはあったが、溢れるほど入っていても今の俺にはどうすることもできない。
とりあえず、銅貨をまとめてビニール袋に入れたあと、せっかくなのでストレージにしまうことにした。
ストレージは、思ったよりもシンプルなものだった。
ストレージを使おうと思うと、手元に30cm四方くらいの異空間ゲートもどきが開く。
そして、その口に収まるサイズの長さ30cmくらいのアイテムをその中にしまえる感じだ。
ちょっと実験した限りでは、アイテムごとにストレージの枠が割り当てられるというよりは、一辺30cmの立方体サイズの空間が五つほど、自由に金庫として使えるという感じだった。
何をしまったのかを覚えていないと取り出せないタイプのストレージである。
自動でアイテムごとに分別とかしてくれないし、自動でアイテム回収とかもしれくれない。
逆に、そのサイズに収まるなら、小物を入れた袋とかはまとめて一個のアイテムとして認識してくれる。
便利であるが、万能ではなさそうだ。
少なくとも、ストレージを相手の頭上に出して、質量攻撃に応用とかはさせてもらえなさそう。
液体とかも、容器にいれないと収納できなさそうだ。
まぁ、便利であることには変わりないので、不満を漏らす気もない。
現状、リュックサックそのものはサイズオーバーで入れられないが、その中身は大分軽くできた。
それでまだ、ストレージ5枠のうち2枠は余っているので、今回のお宝や、ゴブリンのナイフみたいな抜き身では持ちたくないアイテムをしまうのには便利だろう。
「うん。実にダンジョンものの主人公してるな俺」
こういう検証もダンジョンものの醍醐味だ。
とりあえず、袋にまとめてしまっておいたマッピングツールをストレージから取り出しながら、俺はうんうんと一人頷いていた。
──────
四時間かけて、埋まっていないマップの右側を埋め、一度入り口で食事休憩したあとにもう四時間かけて左側も埋めた。
当初の想定通り、横の広さと縦の広さは同じだったようで、穴埋め感覚でいけばさほど苦労することなく、意味のない行き止まりまで埋めることができた。
その間に討伐したゴブリンは15体。ドロップはなし。
マップを埋めたところで、どうにか目標だったEP30を貯められた。
一回だけ二匹同時にエンカウントして強打を使う場面があったが、それ以外は全て不意打ちで仕留めた。
もう、ゴブリンを倒したあとの手の震えもほとんどなくなった。
俺が実は戦闘に向いていた、というわけではなく、作業に落とし込んだが故の慣れのおかげだろう。
「まあいいや。これでレベルアップはできる」
というわけで、貯めたEP30はパーっとレベルアップに使うつもりだ。
もちろん、欲しいスキルを考えれば、まだまだEPは足りない。
だが、欲しいスキルというのはだいたいパッシブスキルに偏っているし、パッシブスキルをつけるにはCPの最大値を削らなければならない。
現状でも、ストレージを取ってしまったせいでカツカツになっているので、パッシブスキルはCPにもっと余裕ができるか、必要に迫られたときに改めて考えたい。
というわけで、念願のレベル4である。
端末でレベルアップを選択すると、もはや見慣れたポイントの割り振り画面が現れる。
今回も、パラメータの割り振りの思想は変えずにいく。
──────
力:9→10
魔:10
体:7
速:13→15
運:9
──────
冒険者としては、ちょっと偏りの見えるステータスになってきた。
だが、最初に想定した通り、いつでも逃げられるようにという前提だから仕方ない。
とりあえず、これでレベルアップは完了。
端末は次のレベルアップに必要なEPを告げる。
『ステータスの割り振りを確認しました。次のレベルに上がるために必要なEPは50です。レベルアップを終了します』
あ、20増えた。
やっぱり、単純に10ずつ増加というわけではないか。
となると、これ以上この階層で稼ごうと思うと、早朝から時間をかけるか、泊り込む覚悟がいるな。
この入り口は比較的安全だとは思うが、それでも眠りについても問題ないほど信頼はできない。実質、この辺りが一階層の限界だろう。
「そうなると、ステータスの振り方がちょっと軽率すぎたかもしれないな」
いや、4レベルまで上げたことは問題ないと思う。
だが、ここから先のステータスはもう少し慎重に考えても良いかもしれない。
とりあえず、今は安心できるまで速を上げて逃げることを考えているが、逃げるためのスキルが手に入れば、他のステータスの重要性も高まる。
20EP必要だったが『早足』スキルとかは、速ステータス上昇の効果だったし、他にも有用なスキルはあるだろう。
「まぁ、良いや。これで最大CPにもちょっと余裕が出たし、明日からは二階層に潜ることも視野に入れよう」
ちょっと思うところはあれど、振ってしまったステータスは仕方ない。
決定的に間違っていることもないはずだ。
「とはいえ、今日はここまでかな」
レベルアップできるまで粘ったため、もうダンジョンの中で8時間ほど過ごしている。
次の階層に進むためには現在CPが心許ない。
そもそも何が出てくるかも分からないので、体力気力ともに万全の状態で挑むべきだろう。
「と、その前に質問いいかな。宝箱から銅貨を拾ったんだけど、これは何に使えるのかな?」
忘れそうだったが、この銅貨の使い道を訪ねるつもりだったのだ。
俺の質問に、端末くんは明快に返す。
『ダンジョンの宝箱からは、稀にアイテム購入に使える貨幣が手に入る場合があります。銅貨であれば一枚で1EPと同等の価値を持ちます。この貨幣はダンジョンの外に出てもEP結晶に変換されません』
「つまり、こいつはダンジョンアタックを繰り返しながら貯められるってこと?」
『その通りです』
なるほど。
アイテム購入専用のポイントって扱いか。
EPに変換してくれた方が嬉しい気もするが、同時に貯められるというのはメリットにもなる。
ひとまず、俺は手に入れた銅貨5枚──5EP相当の貨幣は貯金することにした。
「それじゃ、今日は帰るよ。また明日」
『明日もお待ちしております』
そうして、少し単調に過ぎるが順調なダンジョン攻略を、俺はこの時確かに楽しんでいた。
──────────
冒頭まで残り3日
──────────




