第10話 初期ステータスの謎
夜の探索を終えて帰ってくると、時間はもう天辺を回るところだった。
帰って来たという安堵とともに、意識していなかった強烈な疲れと眠気が襲いかかってくる。
「せめてシャワーを」
浴びなければ、という俺の意思が形になることはなく、俺は服を脱ぎ散らかしたところで限界を感じてベッドにダイブしてしまっていた。
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冒頭まで残り4日
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目が覚めたのは、午前10時ごろ。
もう朝と呼ぶには厳しい、ブランチくらいの時間である。
「……とりあえず、シャワー浴びて腹ごしらえするか」
昨日脱ぎ散らかした装備類を一瞥してから、俺はバスタオルを片手にシャワールームへ向かう。
嘘だ。そんな小洒落たものはこの安アパートにはない。
風呂とトイレが一体になったユニットバスが俺のシャワールームである。
トイレにお湯が行かないように防水のカーテンで部屋を区切り、眠気を吹き飛ばすように熱いシャワーを浴びた。
昨日の分の疲れまで洗い流すようにしながら、俺は不思議に思っていた。
「どうして俺は、全く筋肉痛とかになっていないんだろう」
はっきり言えば、俺は運動不足な方だ。
家にこもってゲームばっかりやっている人間で、運動不足じゃないやつの方が珍しい。
そんな俺が、合計八時間近く歩き回って、戦闘までこなして、ピンピンしていられるのは不思議だ。
「そういうのもレベルアップの恩恵なのかもな」
少しだけ心当たりがあった。
新規登録のあとに俺たちはステータスが確認できるようになったが、その初期ステータスには、初回ボーナスのようなものが含まれていたのではないだろうか。
だって、今まで魔法みたいなものを一切使っていない俺に、最初から魔のステータスが10もあるのはおかしいだろう。
つまり、元の魔が0だった俺に、資質だかなんだかを鑑みて初期10のボーナスを与えたのが、あの初期ステータスだったのではないかという考察だ。
そう考えると、昨日の段階で、すでに俺は普段の運動不足の俺よりも、かなり肉体的な面で能力を上乗せされていた可能性があるのだ。
「まぁ、ダンジョンに入った人間の身体能力が、普通の人間を凌駕していくってのはお約束だしな」
俺は自嘲気味に呟いた。
となると、やっぱり無許可でダンジョンに潜ったことがバレれば、結構な問題になるかもしれない。
その時点で、遵法精神に問題があって、しかも一般人より強い人間だという証明になってしまう。
「……やっぱ早まったかぁ」
ダンジョンに一度入ってから、非日常を前にした興奮がちょっと落ち着いてきている。
それで、忘れてしまったはずの人間的な常識の部分がニョキニョキと。
「いや、もう仕方ない。最悪、知らなかったで押し通してなんとか交渉しよう」
そう。最近の若者はニュースを見ないのだ。
だから、報告義務があるなんて知らなかったのだ。
……知らなければ許されるのかと言われると微妙だが、バレたらそれで押し切ることにした。
というわけで、俺はこの辺りで、無駄な抵抗と思いつつ可能な限りニュース断ちをすることを決めてしまったのだ。
『ダンジョン18764番へようこそ。上杉志摩様。あなたの挑戦を歓迎いたします』
3回目の挨拶を聴きながら、俺は毎度のごとく最初に端末の方へ向かった。
とりあえず、1日経ってふつふつと湧いてきた疑問を片っ端から処理したかった。
【ダンジョンには罠やギミック、宝箱は存在するのか?】
↓
『具体的な内容などは伏せるが存在する』
【二階層に降りたら戻れなくなるなどのギミックはあるのか?】
↓
『そういったものは存在するが、階段などの正規の手段で降りた場合に戻れなくなるといったことはない』
【ストレージに入れられるアイテムの制限、および消費コストはないのか?】
↓
『規定以内のサイズなら制限はない。ただし生物の生存は保証しない。使用の際に消費コストはかからない』
【ストレージ内では時が止まっているなどはあるのか?】
↓
『スキルのランク、および魔のステータスに寄る。詳細は説明できない』
というわけで、とりあえずストレージの実験はいくらでもできそうだった。
これを取っているおかげで、現在のCPは12しかないのだ。
これで使うたびに減らされたら、切り札の強打なんか全く使えなくなる。
「現状、強打2回と目星1回しか余裕がないからな……」
いっそのこと集中力を外してコストを捻出することも考えたが、こういうパッシブは俺の意識していないところでしっかり働いていたりするのだ。
集中力が下がることでミスが増えたら命に関わる。
どうしても強打が三回必要だと思えたら、その時考えよう。
あとは、そう。
魔のステータスについて気になったんだった。
【魔のステータスが初期から10あったが、これは初期ボーナスのようなものがあるからか?】
↓
『冒険者としてダンジョンに登録した際に、元の能力、および素質を元にレベル1に相応しいステータスが与えられる。基本的には元の能力から強化されると考えて問題ない』
【魔法のようなものはあるのか。覚え方は教えてもらえるか】
↓
『魔法のようなスキルは存在する。現時点では、モンスター由来の能力は、そういうモンスターとの戦闘経験やドロップアイテムから解放される。そうではない魔法は、宝箱に入っているアイテムから習得できる可能性がある』
答えは期待していなかったのだが、丁寧に教えてもらえた。
もしかしたら、魔法関係とかステータス関係の質問は、チュートリアル的な要素としてテンプレ回答が用意されていたのかもしれない。
聞いてなかった俺が迂闊だったというわけだ。
「にしても、魔法を覚えるにはアイテムを見つけるか、モンスターと戦うか、か」
俺はまだ、この階層で宝箱らしい宝箱を見つけたことはない。
出会ったモンスターもゴブリンだけなので、魔法らしい魔法も見たことがない。
少なくとも、もう少し先に進むまでは無関係な話だろう。
「……いや、冷静に考えて、ファイアーボールとか向けられたくないよなぁ」
ちょっと考えただけでも、火だるまになるのは御免被る。
たぶんHPが尽きるまでは無傷ではいられるのだろうが、服は燃えそうだ。
まぁ、先のことはその時心配することにしよう。
「よし、それじゃ今日はマップ埋めに勤しむとしようか」
気を取り直して、俺は今日の予定を進めることにした。
現状、この階層の広さは分かっていないが、推測はできる。
ここ、入り口をスタートとし、昨日見つけた階段をゴールとすると、道のりは入り組んではいるが、綺麗に直線で結べるようになっているのだ。
ここが一階層だから単純な構成になっている可能性は高い。
となると、階層の縦幅はスタートからゴールまで。
横幅も同じだと仮定すると、地図を埋める必要がある範囲がわかる。
昨日も散々歩き回ったし、今日1日で埋まり切るかもしれない。
「とりあえず、右半分から埋めていくか」
目的を確認し、金属バットを握る。
レベルアップに必要なEPが溜まるまで外には出ないつもりなので、場合によってはダンジョンの中で食事になるだろう。
可能なら、昨日のようにアイテムがドロップしてくれるとありがたいな。
そして、俺はついにそれを見つけた。
「……宝箱だな」
一階層の奥まった地点に存在する、いかにもという形をした宝箱だった。




