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紫電の聖女と護衛騎士 〜それはたとえば物語の中盤に隠しキャラとして出てくる癒しの力を失った聖女様が、逆転でヒロインに上り詰めるような話〜  作者: さつ。
第二章

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8.騎士様と村娘

 リースが倒したトカゲのような魔物の姿を睨み、スヴァイは考えていた。


 王都を出てからしばらく。

 以前までと比べて、街道に出てくる魔物の数が妙に多い気がしていた。


 確かに魔物は昔から人を襲う。

 辺境のそれが問題として王都に上がってきている事だってスヴァイは知っていた。

 それでもやはり、体感してみると妙に多い。


 魔族の姫様が人間の姫様を呪う様なご時世だ。多少増えていてもおかしくないだろ。


 以前ルジェルに相談したときにはそう言われて納得したが、やはり何か理由があるのだろうか。


「私も運ぶのお手伝いしますよ」


 そんなことを考えていれば、スヴァイの元にメイナが小走りにやってきた。

 どうやらルジェルからこちらを手伝うように言われたらしい。


 視線で合図を送ってくるルジェルに、小さく手を振って返す。


「それは助かるな」

「ええ。私、多少は力に自信があります。あまりに重たいのは無理でしたけど……どうぞ騎士様、何なりとお申し付けください?」


 茶目っ気を込めて告げるメイナ。そんなメイナの言葉に、スヴァイは少し首を傾げた。


 彼女はいつも、スヴァイを騎士様と呼ぶ。それ自体は構わない。王都にいた頃からよく呼ばれていた。


 ただメイナは、その名前を呼ぶときにいつも僅かに言葉を詰まらせるのだ。


「なあ。その騎士様というやつ、言いにくくないのか?」

「へ?」


「いつも言い淀んでいるように見えるから。それこそ、ルジェルが言っていた様にスヴァイと呼んでくれて構わないんだぞ? リースだってそう呼んでいる」


「そう、ですね。まあいずれ」


 あくまでもメイナが呼びにくいならば、との提案だったがそれはすげなく断られてしまう。

 曖昧な笑みを浮かべて答えるメイナに、スヴァイはそれ以上の追求はしなかった。


「そうか、楽しみにしておく」


 誰にだって言いたくない事情の一つや二つあるもの。

 なんとなく、残念な気もしたが仕方が無い。


「それで……これを運ぶのを手伝ってくれるのか?」

「あ、はい。中に小袋が入っていると聞きましたから。いくつかください」


 気を取り直して、スヴァイは自身の持つ袋の中を検める。

 どれを渡したものか。


 この袋には、メイナが言うとおり小袋がいくつか入っていた。

 それは元々、メイナやリースにも持たせるつもりで分けた袋を一つにまとめて持つとスヴァイが言い出したからだ。


 何せ今回の獲物は動物型。

 軽い部位を選んで詰めていくと、自然とあまり直視したくないものが多くなる。

 そんなものを女性や少年に持たせるのはスヴァイの美学に反するため、こうしてまとめてスヴァイが持っていた。


「では、これを頼めるか? 中は見ない方が良い。頭と手が入っている」

「……はい。見ません」


 ようやく選んだ袋を渡し、スヴァイは丁寧に言いふくめる。

 袋を受け取ったメイナは神妙に頷いた。


 そんな姿にスヴァイはふと、心に引っかかりを覚える。

 それはメイナと出会ってから先、ずっと感じている感覚だった。


 言葉にするならば、懐かしい。もしくは恋しい。そんな物が当てはまるだろうか。


 スヴァイには、いつかどこか、彼女とよく似た相手と大切な約束をした記憶がある。

 メイナと話していると、時折そんな気がする。


 聖女になったらまた会おうと、そんな約束をした記憶が。

 メジストルグルの花の香りに紐付いた、遠い日の思い出。

 ありもしない、そんな記憶が蘇ってくるのだ。


 でもそれはあり得るはずがなかった。


 だって、あの日花畑で約束をしたのはシュナだから。


 シュナの髪は、メイナの綺麗な紫とはほど遠い、王族の荘厳な金を宿している。

 いくら遠い思い出でも、二人を見間違うはずはない。


 だから間違いなく、メイナとの思い出は記憶違いなのだけれど。


 考えれば考えるほど、分からなくなってスヴァイはわざとらしく首を振る。

 この答えは、まだ出そうもなかった。


 それから無駄な推測を広げる前にとメイナへと声をかける。


「君は、随分ルジェルと打ち解けたのだな」


 突然切り出された言葉に、メイナはぱちくりと瞬きを繰り返す。


「そうですか? 単にルジェルがああいう、誰とでも打ち解けやすい人ってだけだと思うんですけど」


「そうでもないぞ。ルジェルはかなり人を見る目が確かだからな。少しでも怪しいと思った人間とはすぐに距離を取る」


「ああ、なんとなく分かります。商人気質、とでも言うのでしょうか。人の悪意とかすぐに感じ取れそうですよね」


 メイナの言葉に今度はスヴァイが瞬きをしてしまった。

 ルジェルはそんなことまで彼女に話すほど、心を許しているのか。


「ルジェルが言ったのか? アイツ、実家の話をするのを嫌うのに」


「え……あ、もしかしてルジェルって商人の家の生まれなんですか?」


「すまない、忘れてくれ」


 どうやら早とちりだったらしい。

 必要の無い情報を広めてしまったことに、スヴァイは頭を抱えそうになる。


 普段、スヴァイはそれほどおしゃべりなタイプではないというのに、メイナと対面すると妙に口が滑ってしまうのだ。

 ドライ村で夜に話をしたときにもつい熱が入って手を握ってしまったし。


 思えば、あのときのルジェルの行動はメイナではなくスヴァイに対する牽制だったのだろう。


「分かりました。もう忘れました! でも……そっか。魔物を捌く手際の良さとかから、商売に関わった事のある人だとは思っていましたけど。生まれた時からだったんですね」


「忘れていないじゃないか」


「あっ! いや、もう忘れました! ルジェルはああ見えて、綺麗な石を拾って喜ぶ少年みたいな人って事しか覚えてません!」


「……それは、なんだ?」


 和やかな笑いが二人の間に落ちる。

 フィーアの街はもう目と鼻の先だった。


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