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紫電の聖女と護衛騎士 〜それはたとえば物語の中盤に隠しキャラとして出てくる癒しの力を失った聖女様が、逆転でヒロインに上り詰めるような話〜  作者: さつ。
第二章

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6.村娘と初めての旅

 メイナを加えたスヴァイ達一行は、次の街フィーアに向けての道中を進んでいた。


 かつての大切な友の真実を知るため。

 そして初恋の思い出を殺すため。

 メイナは彼らについていくことを決めたから。


「おっと、そんなおっそい攻撃、当たんないよ」


 旅の仲間達は存外個性的で面白い。


 2本の短剣を携えて、素早い動きで敵を翻弄する、シーフのリース・ノクティア。

 サイドに流されたひとまとめの長い襟足をたなびかせる彼の姿は、まさしく風のようだ。


「ひゅー、リースってばかっこいいね」


 相変わらず調子のよい魔道士、ルジェル。

 彼だって、口は軽いがそれでも魔術の腕は本物だ。

 素早く練り上げた高純度の魔力球が目の前の魔物を焼き払っていく。


「戦闘中にずいぶん余裕だな」


 だけどやっぱり、このパーティの要はスヴァイだった。

 先陣を切って敵を屠り、かと思えば詠唱中の仲間の援護も器用にこなす、騎士様。


 5年前に聖女様専任の護衛騎士になったというのも頷ける実力だった。

 攻めてよし、守ってよしの戦いの柱。


 そんな彼の姿を見て、メイナは少しだけ唇を噛み締める。

 自ら志願したからには、足を引っ張らずにこの旅に貢献したい。それがメイナの思いだ。


 もちろん、メイナとてそれほど弱いわけではない。

 剣とてそこらの門番程度に負けることはないし、紫電も数体の魔物を同時に屠ることができる代物だ。


 けれどメイナの剣はリースほど早くない。だからといって、スヴァイほど剛くもない。

 そしてメイナの魔法はルジェルほど強大でもなかった。


 良く言えばオールラウンダー。悪く言えば器用貧乏。

 一人で戦うぶんには役立った能力だが、パーティには不向きと言わざるを得ない。


 仮に、今のメイナにも治癒が使えれば相当役に立ったはずなのに。

 仲間に隠れて幾度と繰り返した解呪は、今もまだ達成できていない。


 悔しい思いで、メイナは歯噛みする。しかし、それが油断を招いてしまったみたいだ。




「逃がさない!」


 紫電の剣、その切っ先が鳥型魔物の羽ばたきで躱される。それを追撃するべく、メイナは跳び上がった。

 剣の先が魔物に触れる。同時に雷の力が魔物を焼き尽くした。


「!」


 けれど同時にメイナの目の前にもう一体の魔物が飛び出してくる。

 カメレオンのような姿をしたその魔物は、どうやら枝と体色を同化させ潜んでいたようだった。


「くっ」


 メイナはとっさに手のひらで紫電を放とうとした。

 けれどその詠唱はどうしても間に合いそうにない。


 ぎゅっと目を瞑り、メイナは襲いくる衝撃に備える。幸い、毒を持たない種類のようだから最悪でも数日腕が使いモノにならない程度で済むだろう。


「…………?」


 しかし待てど暮らせどその衝撃はおとずれなかった。


 恐怖の時間は永遠に感じる。ようやく地面に着地したところで、メイナは目を開けた。

 すると目を見開き今にも飛びかからんとする魔物が――真っ二つに分かれて倒れていった。


「危ないよ」


 その低すぎず透き通った声の主はリースだった。トンと軽やかな足音を立てて地面に降り立った彼は、軽くナイフを血振りする。

 どうやら助けてくれたらしい。


「ありがとうございます……」


 そんな彼は性格も声の通りクールで、礼を言うメイナに対して軽く手を振り答えると、次の魔物に向けて歩き出す。


「あ」


 そのきびすを返したリースの左手の小指。

 そこに小さな傷がついている事にメイナは気が付く。


 とっさにその手を取ろうと指を伸ばしたメイナは、そこでまた自分の無力さに気が付いた。

 後で、薬草で治療をしよう。

 そう思いながら伸びた指先を丸めた。


「次来るよ」


 そんなメイナの葛藤に気が付いているのか、いないのか。

 リースは素っ気ない言葉をかけるのみだ。


 しかしそんな冷たさこそがリースの個性だとメイナはもう理解している。

 だからこそ、メイナはそんな彼をかわいらしいとすら感じていた。


 育った環境柄、メイナは自分よりも年下の子の面倒を見ることも多かった。だから彼の事を、どこか弟の様に思っていたのだ。

 もちろん、過去にいた仮の弟妹達はその殆どが掃き溜めの環境に耐えきれず命を落としていったのだけれど。


 そんな考えを振り払うように、メイナは再び剣を握りしめる。

 これ以上、足手まといになどなっていられない。


 けれどその時、メイナとリースの間にものすごい熱がかけていく。


「なっ」


 声を上げたリースの髪をぶわりと靡かせたその熱は、そのまま二人を狙っていたひときわ大きな鳥型魔物を墜落させた。


「油断禁物ってね」


 驚く2人に、ウインクをしながら告げたのはルジェルだ。

 先程の魔法も、彼のものだったらしい。


「ほらほら、次も来るよ」


 続けて杖の先で敵を示す彼に、リースはわかりやすく顔をしかめた。


「わかってるっての。てかさっきのも落とせたし」


 言いながら、リースは鳥型に投擲しようとしていたナイフを構え直す。

 なるほど、言葉通りらしかった。

 メイナもそっと放とうとしていた紫電で別の魔物を迎撃する。


「ありがとうって? 気にしなくていいよ」

「言ってねえ」

「女の子にカッコつけたい気持ちもわかる、わかる」


「言ってねえ! というか詠唱中だから援護しただけだろ」

「ふうん。ならオレのことも守ってくれるよな。何せオレ、魔道士だから」


 じゃれるような2人の会話はいつも通りだった。

 芝居がかった動作でルジェルは肩をすくめる。

 しかしそんな彼をリースは鼻で軽く笑った。


「どの口がそれを言うんだ。アンタ、僕よりよっぽど剣の腕が立つくせに」

「今は丸腰だよ」

「それこそ魔法で剣でも出せばいいだろ!」


 戦闘中にも関わらず、気安い会話を続ける二人。

 その中でも正確無比に、何なら一人だった時よりも効率よく敵を倒していくのだから、恐れ入る。


 メイナも負けじと敵に攻撃を仕掛けた。




 しかし二人の殲滅速度はすさまじく、気が付けば辺りに動く敵は数えるほどしかいなくなっていた。

 残党は彼らが倒してくれそうだったので、メイナは少しでも役に立てるようにと手近な魔物の素材をはぎ取ろうと座り込む。


 ぐっと腹に力を込めて魔物の身体に解体用のナイフを突き刺す。旅に同行し始めた当初は苦手だったこの作業も、もうすっかり慣れてしまった。


 血みどろ聖女、なんてぞっとする言葉を頭に浮かべながらメイナは淡々と素材を採取する。


「よっし、討伐完了。リースもお疲れ様」

「ふん。このぐらい余裕だ」


 そんなことをしていれば、すぐに2人が戻ってきた。本当に一瞬で敵を全て倒してしまったらしい。


 労いの言葉をかけるルジェルに、リースは何でもない風に答えながら、自身のマフラーの中に顔を埋める。それは褒められたことに対する、彼なりの照れ隠しだろう。


 抜けきらない少年らしさが可愛らしく、遠目に見ていたメイナはそっと口元を緩める。

 一方のルジェルはリースの頭を思い切り撫でていた。


「止めろ! そういやスヴァイのやつはどこにいるんだよ」

「ああ、なんかさっきこの先の開けた場所に一人で突っ込んでったぜ。全く、元気な奴だ」

「まだ戦ってんのかな。僕そっちも見てくるな!」


 ルジェルの手を払いのけ、リースは走り出す。

 からかいすぎたかと笑うルジェルはソレを緩く手を振って見送った。


 そうか、スヴァイはまだ戦っているのか。


 メイナは2人の会話を聞き、ふと魔物を捌く手を止めて考える。

 自身もリースを追い、スヴァイに助力すべきか、それともこのまま素材収集をすべきか。それを悩んでいた。

 しかしメイナが動くよりも早く、そんな沈黙を見とがめたルジェルが声をかけてくる。


「あっちは平気だよ。オレがこっちに来た時点で、スヴァイはほとんど魔物を倒してた。どうせ向こうでも素材を剥いでるだけだろうから、オレとここのやつら捌いちゃおうぜ」


 へらりと笑ったルジェルはそのままローブと杖を近くに置くと、解体用のナイフを取り出した。


「そう……」


 少しだけ残念に思いながら、メイナは再び魔物に向き合う。

 そんなメイナの表情を、ルジェルは薄い笑みを浮かべて見つめる。


「何?」

「いいや。お、これは状態良いからそれなりにお金になりそうだな……あーこっちはダメかも。こんがり焼けてる」


 メイナの指摘で、わざとらしく魔物に向き合ったルジェルは手際よくそれを解体していく。

 口と同時に動く手はメイナの倍以上の速度があった。しかもルジェルの審美眼は正確で、物の価値を瞬時に理解し、価値ある部位のみを的確に取り出している。


 多分、ルジェルは何かしらの商売に深くかかわったことがある人間だ。

 一度も口にしたことはないが、メイナはそれをなんとなく察していた。


 リースは器用だけれど必要以上に魔物を丁寧に捌くから早くはない。一方スヴァイは意外と細かい作業が苦手なようで、素材の仕上げを他の人に依頼することが多かった。

 そんな彼らと比較してみれば、ルジェルの異常なまでの手際の良さは際立つ。


「これは――ねえねえ、メイナちゃん。これ貰っちゃっていいかな」


 そんなルジェルに負けじと魔物と向き合っていたメイナは、突然目の前に紅の石を掲げられて手を止めた。


「なんですか、それ?」

「魔粧石」

「ましょうせき……?」


 聞き慣れない名前にメイナは首を傾げてその石を見つめる。

 米粒ほどの小さな小さな石。内部から光を発してるようにも思えるが、特段珍しい物にも思えなかった。


「知らない? 一般に魔物や魔族と呼ばれてる、あっちの世界の生物が体内に作るとされてる石なんだけど。これ魔法薬の素材として貴重なんだよね」

「さあ、聞いた事はありませんが」

「そっか」


 その答えに少し残念そうにルジェルは肩をすくめた。

 メイナが紫電という珍しい魔法を操るから、詳しいと思っていたのだろう。


 だが申し訳ないがメイナはとても学がある育ちとは言えないので、そんなものは知らなかった。


「まあこの石は酷く不安定で、素材として採れるのは0.1%以下とも言われてるから知らなくても無理ないか」

「そうなんですね」


 それだけ珍しい素材ならば、知っていれば欲しいと思うのも頷ける。

 メイナはルジェルの行動の一通りを理解して、一つ頷いた。


「なら、ルジェルが貰ってしまって良いんじゃないでしょうか?」

「え?」

「だってあまり知られていない素材なんですよね。だったら、知っている人が貰って悪い事はありません。少なくとも私には綺麗な石の欠片にしか見えませんしね」


 改めて、メイナはその石を見つめる。やはりただの石だ。

 物は真価の分かる人間の手にあって初めて輝ける。だからこそこの石だってルジェルの元にあるべきだろう。


 一瞬、呆けた様にメイナを見つめたルジェルは、それから格好を崩し笑った。


「あはは! 確かにそうかも。それじゃ、メイナちゃん。これはオレが貰っちゃうね」

「はい。ソレを見て、私はルジェルが綺麗な石を拾って喜ぶ、少年のような心を持っているんだなと思いました」

「最高。なんか君ってもっと真面目でしっかりした感じだと思ってたよ」


 いわれた言葉に、今度はメイナが驚いた。

 真面目だのしっかりしているだのはメイナではなく、シュナやメルティナといった周囲の人間にこそ似合う言葉だと確信していたから。


「……初めて言われました」

「うそ!」


 きょとんとした表情でメイナとルジェルは目を合わせる。

 そして二人して笑い合った。

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