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紫電の聖女と護衛騎士 〜それはたとえば物語の中盤に隠しキャラとして出てくる癒しの力を失った聖女様が、逆転でヒロインに上り詰めるような話〜  作者: さつ。
閑話 - メイナの章

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4.ゴミ溜めの聖女様

 聖女。それは普通の人には使えない、癒しの魔法を行使することができる人間に与えられる、救国の乙女の称号。

 数十年に一度、数名の割合で候補者が生まれる。


 そしてその候補は、なぜだか全員が少女だった。

 貧富も生まれる町村もランダム。彼女達の共通点はただ一つ、癒しの魔法を使えることだけだ。


 今世の聖女として有名だったのは、この国の第一王女たる、シュナ・エルミナ・ヴァルテリス。

 しかしメイナもまた、今期の聖女候補の一人だったのである。




 メイナに家族というものは存在しなかった。


 なぜならメイナは物心ついた頃には既に城下の隅の掃き溜めにたった一人でうずくまっていたからである。


 毎日、日が昇ると共に起きて、その日一日を生きられるだけの胃に入れても死なないモノを探すだけの生活。

 それだけがメイナの全てだった。


 当然それは、幼い少女にはあまりにも過酷な環境。だからメイナは幾度となく死の淵を彷徨った。

 それでもメイナが生きていたのは、周りの大人達が助けてくれたからである。


 ただし、それは美談じゃない。大人達がメイナを助けてくれたのは、メイナが彼らにとって利用価値のある人間だったからに過ぎなかった。


 当然、下卑た将来への投資もあった。当時のメイナが気が付いていなかっただけで、もっとおぞましい欲に満ちた思惑もあったのかも知れない。

 けれどメイナがそんな思惑に潰されず、その運命の日まで生きられたのは、メイナの利用価値というものが表向きに、彼女が奇跡の力を行使できることになっていたからだ。


 メイナは癒しの魔法が使えた。

「治れ」と祈るだけで、命に関わる破傷風を治すことができた。腫れた喉を、蝕まれた肺を癒すことが出来た。


 それは小さな傷や病で簡単に死がやってくるその環境では、まさしく奇跡の力に他ならなかった。


 しかし、そんな最下層の人間達には学も教養も無かった。

 だからメイナのその力が、聖女の証であることを知らなかったのだ。そうでなければ、メイナの身柄はもっとたやすく、高額で良くない人間に売られていたことだろう。


 そしてそれは、メイナ自身も同じで。

 だからこそ今世に生まれた聖女は、この国の第一王女シュナ姫だけだと思われていた。


 きっと、その方が平和だったのだ。




 運命の日。最下層の掃き溜めには、珍しく騎士がいた。


「待て!」


 極悪人を追いかけていたのか、ただの腹いせで貧乏人を脅しつけていたのか。騎士の目的は、もう今となっては定かではない。


 けれどたった一つの真実として、騎士は誰かを追いかけて掃き溜めに現われた。

 そして騎士に追われていた誰かは、メイナに良くしてくれた人間の一人を突き飛ばしてケガをさせたのだ。


「退きやがれ!」

「ぐ!?」

「おじさん!」


 その人間を恩人と信じて疑っていなかったメイナは、迷うことなく彼を治療した。

 そう、癒しの魔法で。


「大丈夫?」


 祈り、願い、手を伸ばす。

 メイナにとってはいつも通りの行動。


「触れるな!」


 しかしそんなメイナの手はなぜだか騎士の手によって阻まれてしまった。

 今まで追っていた相手をたやすく逃がしながら、その騎士はメイナの手を強く強く握りしめる。


「聖女候補、それには貴方が触れるほどの価値もありません」


 おぞましいものを見る目をおじさんに向けた騎士は、メイナを抱えあげる。

 そしてメイナが、あっと思う間もなくその場を立ち去ろうとした。


「やだ、放して!」


 暴れるメイナを意にも介さない騎士はまるで鉄で出来た魔物のようだった。

 恩人達を心配するメイナの心を踏みにじる様なその姿に、メイナは恐怖を募らせる。


 その上、彼の邪魔をしたメイナの仲良しな人間を突き飛ばすのだから堪らない。

 なおも抵抗するメイナに、騎士は冷たい目で言い付ける。


「暴れないでください。大人しくしていれば傷つけません。大人しくしていただけないならば……この一帯を更地にします」


 それは「上流階級のお目こぼし」によって生きてきたこの場所の住人達の死を意味する言葉だった。学がなくとも、ここで生きてきたメイナにはそれが理解できた。


 途端、暴れることを止めたメイナに、騎士は満足そうに息をつく。

 そしてメイナは、冷たい鎧に包まれて。正しく知識を持った騎士に聖女候補として召し上げられることとなったのである。

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