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紫電の聖女と護衛騎士 〜それはたとえば物語の中盤に隠しキャラとして出てくる癒しの力を失った聖女様が、逆転でヒロインに上り詰めるような話〜  作者: さつ。
第一章

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3.村を出る元聖女様

 きっと、普通の女の子なら泣いていた。

 そんなことを思いながら、メイナは顔をあげる。


 スヴァイもきっと、メイナが泣いていると思ったのだろう。

 少しも濡れていないメイナの表情を見て、僅かに目を見張る。


「ところで何故、騎士様達はこの村へ来たのですか?」


 そんな微妙な空気を振り払うように、メイナはスヴァイに疑問を投げかけた。

 変に踏み込まれることも嫌だった。


 だって、そうされたところでメイナは自身の感情を説明できないのだ。


 メイナは、これしきのことで悲しいと心を折ることができるような人生は送ってこなかった。

 そんなことで心を折る暇があるのならば、這いつくばってでも生きなければならなかったのだから。


 そんな気持ちが、伝わったのだろうか。

 スヴァイは一瞬硬直したものの、すぐにメイナの言葉に応える。


「――シュナ様を助けるためだ」

「助ける? 何かあったのですか?」


 しかし、返ってきた答えは予想の範疇から外れたもので。

 メイナは思わず首を傾げた。


 そんなメイナに、スヴァイは一度考えるように目を閉じる。

 それはまるでどこまで開示してよいかを悩むようだった。


 そこまで重大な質問だっただろうか。メイナは話の逸らす先を間違えたか、と少し悩んでしまう。

 しかし空気に耐えきれなくなったメイナが口を挟む直前、スヴァイは覚悟を決めた様子で手を祈る形に組み直すと、話し始めた。


「魔族に呪われた」

「え!?」


 魔族という言葉に、メイナの心臓がドクリと大きく跳ねた。

 それは嫌な予感を伴っていて、メイナの座りを悪くする。


 浅くなる呼吸と、渇いていく喉。メイナの脳裏に、先ほど見た夢の光景が浮かんだ。

 今も自分の首にあの指が巻き付いているようで空気がなかなか入ってこない。


「君は、メルティナという魔族の姫を知っているだろうか」

「はい。でも、まさか……?」


 冷静に、落ち着いて。

 そう思う頭に反して過剰な反応を見せる身体を押さえながら、メイナは自然とスヴァイに向けて身を乗り出してしまう。


 知りたいけれど知りたくない。そう思った。

 とどめのように出てきたメルティナという名前は、メイナが思い浮かべた最悪の想像をなぞっているようで、たまらない。


「彼女に、呪われたんだ」

「そんな、まさか! そんな、はずは……だって二人は」


 しっかりと頷き、そう続けたスヴァイ。メイナは思わず大きな声を上げてしまった。

 最悪がそのまま形となってしまったから。


 でも、と、なおも信じられない思いでメイナは頭を巡らせる。


 だって、シュナもメルティナも仲が良かったのだ。

 三人でいつも一緒に過ごしていたぐらい。

 大人に囲まれて、お互いが唯一の心を許せる存在で……。


 確かにメイナは魔族に襲われたことであの日々から弾き出された。

 でもそれはメイナだけが育ちの異なる人間だったからで。あの二人は境遇も同じだったわけで。


ーー貴女の力を封じたのはメルティナ姫ですよ。シュナ様がそうおっしゃいました。


 その時、あの日メイドから言われた言葉がメイナの脳内に蘇る。


 あれだってきっと、勘違いだったはずなのに。だって、メイナを襲ったのはメルティナと似つかない白に似た栗色の髪の魔族だったのだし。


「君は妙なところで物知りなんだな。確かにシュナ様はかつて、あの魔族の姫と共に過ごしていた時期がある。だが、先に裏切ったのは魔族の方だろう?」


 食いついたメイナに、スヴァイは苦笑して続ける。

 それは、メイナを気遣いながらも確信を持っていると言わんばかりの口調で。


「当時、俺はまだ城に配属されていなかったから又聞きになるが……あの魔族はシュナ様のご友人を害して逃げたとか。あの方の信頼を裏切るなど、やはり魔族と人間が共存するなど到底無理な話なのだな」


 折角話してくれているというのに、スヴァイの言葉はメイナの耳を抜けていった。

 内容がほとんど聞き取れない。理解したくないと心が言っていた。


 スヴァイの言葉から滲むのは、人として当然の魔族に対する悪意。

 そして、それを向けるだけの経験をしたのだとスヴァイの声は語っていた。


 けれどメイナの心は、まだ違うと叫んでいた。


 だって、メルティナは友達だったのだ。あんな状況において、たった二人の同年代の友達の一人。

 だからメイナが聖女の力を失ったのだって、きっとメルティナとは関係ない何かで。


――でももし、本当にメルティナがシュナを襲ったのだとすれば?


 メルティナがシュナを、人をそんなに恨んでいるというのならば。

 もしかしたらあの日の魔族の襲撃だって、本当にメルティナの仕業だったのかも知れない。

 姫として、彼女が誰かに指示を出したのかもしれない。


 そんな疑念がメイナの心に生まれていく。疑いたくないのに、それでもメルティナを信じていた気持ちが揺らいでいった。


「シュナ様は、今も呪いの茨に蝕まれ、捕らわれている。それを助けるため、俺達はゼクセードを目指していてな。その道中、このドライ村の話を聞きつけて寄ったんだ」

「そう、なのですね」


 心のどこかで、メイナは今もあの二人の存在を支えにしていた。

 そんな事実を、メイナはこんなところでようやく自覚する。


 メイナが聖女の力を失ったのは不幸な事故で、シュナがメルティナを犯人にしたのは単なる勘違い。

 いつか未来ではメイナは聖女の力を取り戻して、シュナとメルティナとまた三人で楽しく過ごせる日が来るだろう。


 そんな、甘いことを考えていたのだ。


「あの、騎士様」


 悲劇に浸って、メイナは進むことを諦めていたのだ。


 だって、たとえメイナの件が勘違いだったとしても。事実、今のメルティナはシュナを呪い、茨に閉じ込めるほどに憎んでいるのだから。


 なら、私がするべきことは。


 メイナは一つ決意を決めて、スヴァイに声をかける。


「なんだ?」


 真実を、知らなきゃいけないと思った。

 あの日の当事者として、メイナとメルティナ双方の真実を。


「私を貴方たちの旅に着いていかせてもらえないでしょうか」


 その言葉に、スヴァイは少し目を瞬かせた。

 当然だ。メイナは弱くはないけれど、先ほどの態度は進んで魔族退治に向かうような人間のそれじゃなかった。


「だが」

「決して、足手まといにはならないと約束します。だから、お願いします!」


 ぐっと唇をかみしめ、言葉を整理する。そしてほんのひとかけらの真実を口にした。


「……村を助けてくれた貴方達に、恩返しがしたいのです」


 その言葉は嘘ではない。嘘ではないけれど、本当でもないその理由。

 しかし強く強く願いを込めてメイナはスヴァイを見つめる。


 真実を知る。今度こそ逃げないで、魔族と人間の真実を。

 そしてもしも本当に魔族が、メルティナが人間を恨んでいるのならば。

 今度はちゃんと、彼女に刃を向けるのだ。


「分かった。そんなにお願いされたら断れないよ」


 どこか懐かしい笑みをこぼし頷いたスヴァイに、メイナはほっと胸をなで下ろした。


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