ネトゲの最強俺、現実の最強ヒロインにロックオンされました
『今日もランク手伝ってくれてありがと! だ〜りん!』
ディスコードのボイスチャット越しに、可愛らしい女の声――“アリス”が響いた。
俺はこのあと、こいつの爆弾発言で生活が一変するとは知る由もなく、いつも通り「気にするな」とだけ返した。
数分後。
『そろそろ私たちが付き合って一年だね』
「いや、別に付き合ってないけど」
アリスと出会って二年。だが一年前から、勝手に「俺の嫁」を名乗りはじめた。
正直まんざらでもないが、女慣れしてる風を装いクールに振る舞っている。
実際は全然慣れてないし、むしろアリスのことが大好きだ。
俺みたいな半分不登校の社会不適合者を、好きでいてくれる女の子。
それだけで、もう十分に惹かれてしまう。
『それでね、お願いがあるの。聞いてくれる?』
「いいよ、言ってみな」
大好きなアリスの頼みなら、なんだって聞いてやる。
『明日ね、学校に来てほしいの』
「学校に?…って、まるで学校で待ってるみたいな言い方だな」
『そうだよ。私は“九条透”くんの通う神園高校二年三組――四ノ宮有栖だよ』
「は?…ちょ、どういうことだ?」
理解が追いつかない。俺はアリスに個人情報なんて教えたことはない。
『続きは明日。絶対来てね! おやすみ、大好きだよ!』
「あっ、待っ――」
通話はぷつりと切れた。
……整理しよう。
俺の通う高校には二大美少女と言われる存在がいる、その内の片方が“氷の女王”
白い髪、透き通る肌、完璧なスタイル。成績は常にトップ。まさに氷の女王。振った男のは山のよう。
その正体が四ノ宮有栖。そして、俺の嫁を名乗ってきたアリス。
いや整理しても意味わからん。
まあいい。明日行けば答えがわかる。
――――――――――――――――――――
「だ〜りん」
「うわっ!? びっくりした!」
背後から小声で囁かれ、心臓が跳ね上がる。
「ちゃんと来てくれたんだ。嬉しい!」
「あっ…おはよう、四ノ宮さん」
「ん? 緊張してるの透くん。あっ! もしかしてリアルで女の子と話すの初めて?」
ぐさり。
図星だ。ここ数年ゼロだ。
しかも相手は学校一の美少女。緊張するなってほうが無理だ。
「いや、べ、別にそんなことないし!」
「嘘だ〜。声、震えてるよ? もしかして…私に“だいすき〜”って言われて、毎回ドキドキしてた?あ、こんな誰も来てない時間に来ちゃったのも、緊張と期待のせい?」
にやにやと笑う有栖。
あぁ!どっちも図星だよ!ドキドキしてるに決まってるだろ!でも口が裂けても言えねえ!
「全然してないよ、四ノ宮さん」
「かわいい。…でも“有栖”って呼んでほしいな」
「……わかったよ。有栖」
途端に彼女は黙り込み、俯いた。
「有栖? どうした?」
「……すき。……だいすき」
顔を真っ赤にして抱きついてくる。
「うわっ!? ちょ、待っ――」
「いいでしょ。やっと会えたんだから。愛してるよ、透くん。大好き」
その言葉と同時に、有栖は俺にキスをしてきた。
「んんッ――」
衝撃で頭が真っ白になる。
有栖の柔らかい唇が触れている。現実なのに、現実味がまるでない。
「ぷはっ……」
有栖は名残惜しそうに離れると、俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。
「やっと……こうして“リアル”でキスできた」
「な、ななな……っ!?」
心臓が爆発しそうだ。ネトゲで聞き慣れた「大好き」や「嫁」なんて言葉も、現実のキスの前ではまるで意味を失っていた。
「ちょっ、有栖! 人に見られたら……!」
「見られたら何? 別にいいよ。私は透くんの"お嫁さん"なんだから」
「お、お前、またそんな……!?」
「ふふ、照れてるの可愛いね」
有栖はくすりと笑い、朝の教室の光の中で、彼女の白い髪が柔らかく揺れた。
そんな彼女を見ているだけで、俺の口元は勝手に緩んでしまう。
「照れてるのかわいい...」
「可愛いって言うな!」
「でも言われて嬉しいでしょ?口元ニヤニヤしてるよ、かわいいねっ」
「......っ」
言葉に詰まる。
だって本当の事だから、好きな子に目の前で可愛いと言われるのはここまで破壊力がある物なのか...!
耳まで真っ赤になった俺を見て、有栖はふわりと笑う、そんな有栖を見ただけで更にニヤけてしまう!。
ダメだ、このままじゃ完全に有栖のペースだ。なんとか打開策を――と思った瞬間、彼女の雰囲気が変わった。
「ねぇ透くん。私はずっと、本気だよ。ゲームの中も、現実も。透くんのことが、大好き」
有栖の声は真剣そのものだった。
冗談でも、遊びでもない。
俺なんかを、本当に――。
「……俺なんかで、いいのか?」
思わず本音がこぼれる。
「いいに決まってる。だって透くんは、私のヒーローだから」
「ヒーロー……?」
「そう。ゲームでも、現実でも。私が困ってるとき、必ず助けてくれる。私にとって透くんは“最強”なんだよ」
……俺はただ、必死にゲームをしていただけだ。
でもその時間が、有栖にとっては支えになっていた。
それは、素直に嬉しかった。
けど――昨日の今日でこの展開。頭が追いつかない。
「...透くん?」
さっきまでニコニコと天真爛漫な笑顔を向けていた有栖の顔に不安の影を落とす。
彼女、有栖がなんで今になって急に関係性を進展し始めたか俺には分からないが、有栖が...俺が大好きな彼女が勇気を出してくれたんじゃないのか?今まで現実世界で人と関わる事を避けてきた俺でもわかる"今俺が逃げるのは違う"と。
俺も正直に向き合おう、だって俺は彼女の中では最強なのだから。
「あ、あのさ、有栖……俺もお前が好きだ。大切に思ってる。だけど……展開が急すぎて、頭が追いつかない。だから……まずは友達から、始めないか?ハッピーエンドが約束された、友達から」
自分でも声が震えてるのがわかる。
顔は熱で焼けそうなくらい真っ赤になっているに違いない。
恥ずかしすぎて、有栖の目を直視できない。
……やっぱり俺、情けないな。
でも、これが今の俺の精一杯の正直な気持ちだ。
数秒の沈黙。
心臓の音だけがやけに大きく響く。
次の瞬間――
「……透くんっ」
ふわりと温もりが飛び込んできた。
有栖が勢いよく抱きついてきて、俺の胸に顔を埋める。
「うん……! それでいい! それで十分だよ……っ!」
震える声と一緒に、胸元に涙の熱が滲む。
彼女の肩が小さく上下している。
「ほんとはね、透くんは私に興味なさそうだなって思ってた。断られるんじゃないか、拒絶されるんじゃないかって怖くて、リアルでは話しかけられなかった...。でも、どうしても透くんを“ちゃんと”感じたくなって、我慢できなくなっちゃって...だから昨日勇気を出して学校に来てって言ったの、そしたら透くんも同じ気持ちでいてくれた。それだけで…...もう、嬉しいんだよ!」
「有栖……」
彼女の涙声が、胸に深く響く。
氷の女王なんて呼ばれてるのに、今はただ俺に甘える普通の女の子だ。
そして、その女の子が俺を求めてくれている。
おそるおそる手を回すと、細くて温かい体の感触が伝わってきた。
「うん、俺絶対有栖を幸せにするよ」
また強く抱きついてきて、有栖は涙混じりに笑った。
朝の教室に差し込む柔らかな陽光が、彼女の白い髪を淡く照らしていた。俺たちはその光に包まれながら、これまで知らなかった温もりを確かめ合った。
たぶん「友達から」なんて言ったけど――この瞬間、もう俺たちは十分すぎるほど恋人だった。
そして俺の日常は、もう戻らない。
“最強のヒロイン”にロックオンされたからには。
なぜ透がヒーローと言われているのかはそのうち必ず書きます。
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