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フローチャートの影

作者: じゅラン椿

夜のキッチンに、静かにカップが置かれる音が響いた。藍子は湯気の立った紅茶に口を付けながら、スマートフォンの画面に指を滑らせる。


 今日も何気ない独白をSNSに投稿した。

「一緒にいるのに、独り言みたいな時間だった、話しかけてもかすれるだけ、いつからなんだろう・・・、わたしが、"背景"の代理みたいになったのは・・・」

 

その投稿には特定の名前も、感情もない。ただ静かに沈黙が綴られているだけだった。


翌朝、

夫の隼人はその投稿をこっそり読んでいた。「俺の事か?」と思った。

 あの晩、確かに藍子に話しかけられても、仕事で疲れてて返事をおろそかにした。でも悪意はない。が、彼女は、投稿のように受け止めたのだろうか・・・。


同じころ、娘の詩織もその投稿を読んでいた。「私の事じゃん」と思っていた。最近学校の事を聞かれて、なんとなく、耳障りで、うるさく、うっとうしく感じてて、返事せず結果無視してしまった。


思春期の詩織は自分の冷たさを責められている気がした。

投稿の言葉は一切の名前を記していないのに、誰に向けたとも書いていないのに・・・

 それぞれが、自分のことと、思い込んでいたのだった。


 その日から家の中の空気が少し変わった。

隼人は妙に優しくなったが、目を合わせない。詩織は素っ気なくも、洗い物を手伝うようになった。そして藍子は、それに違和感を覚えた。

"やさしさ"がどこか、よそよそしい。


藍子は再び投稿する。


 「私の言葉を"誰かのあてつけ"だと決めつけないで、これは"私自身へのメモ" 時々自分の気持ちを忘れそうになるから書いてるだけ それを読んで勝手に距離を置かないでね」


この投稿に家族は同時に息をのんだ。

『違ったのか』

自分が責められていると思っていたのはただの"思い込み"。

自分自身の輪郭を保つために言葉を綴っていただけ。


 その夜珍しく三人でリビングに座った。テレビもつけず、スマホも見ない、ただ紅茶を飲んでいる。


 「お母さん、さっきの投稿よかったよーー」と

詩織が言った。


 「そっか」と藍子。

 隼人は何も言わずにグラスを傾けた。

ちゃんとわかってくれてると、確信した瞬間だった。


今度は読み違えなく、伝わった。


 言葉は、伝える為なのに、誰宛てとも向けていないはずの言葉が誰かを傷つけることがある。

そして、ときには"やさしさ”としてすれ違う。


この物語は「受け取り方の分岐」・「言葉に潜む影」を"家族"という身近な関係性で、描いている。

しずかな拝読の後に何か響くものがあれば、大変うれしい。

                                じゅラン 椿


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