第85話 黄昏の剣王
澄み切った青空を竜の背に乗って飛行する。
隣にはノルフが掴まっていた。
風に吹かれる中、ノルフはよく通る声で説明する。
「黄昏の剣王ダンは不死者です。傷は絶えず修復し、決して攻撃を止めることはありません」
「なんか私と似た能力だな」
「基本戦法も近いですね。剣の間合いでは無類の強さを誇るそうですよ」
「上等だ。正面から叩き潰してやる」
間もなく前方に巨大な箱型の結界が見えてきた。
結界の表面は泥のように濁った色味で、中の様子を窺うことはできない。
「あそこが剣王の結界です。内部は強力な呪いが蔓延しており、侵入者を衰弱させます。まあ、再生魔術を持つリアさんは特に問題ないかと」
「でもノルフは呪いの影響を受けるだろ。何か対策できないのか?」
「全身を魔力で保護すれば、衰弱をある程度は抑えることができます。消耗が大きいので、必然的に短期決戦になりますがね」
そこまで言ったところで、ノルフがふと顔を曇らせる。
彼は真剣な眼差しで私に告げた。
「結界内において、私は足手まといになる可能性が高いです。外で待機しておりますので、ここはリアさんだけで――」
「ノルフ」
遮るように名を呼ぶ。
ノルフは我に返った様子で応じた。
「何でございましょう」
「グダグダ言ってないで一緒に戦うぞ。これは命令だ」
「……ありがとうございます。承知いたしました」
竜が結界を貫いて内部に突入した。
その瞬間、空の色が変わって夕闇に包まれた荒野が現れる。
さらに再生魔術が反応し、微かな倦怠感を覚えた。
どうやら衰弱の呪いを受けているらしい。
ノルフは魔力で防御しているが、やはり消耗が激しそうだ。
悠長に戦うのは得策ではないだろう。
私は眼下の荒野をじっと眺め、中央付近に立つ大男を発見した。
粗末な布の服を着込み、錆びた大剣を担ぐのは黄昏の剣王ダンである。
剣王は空虚な目で私達を静かに見上げていた。
ノルフは剣王を見つめ返しながら述べる。
「かつてこの地には、巨万の富と幸福で満たされた楽園がありました。ところが発狂した剣王が民を皆殺しにしたことで、呪われた場所しまったのです」
「へえ、滅茶苦茶だな」
「リアさんも大概ですがね」
「確かにそうか」
「……とにかく、剣王はこの荒野に縛られています。結界の呪いは彼の味方をしますが、同時に檻でもあるのです」
剣王はこの濁った結界から出られない。
以前は結界から漏れ出た力を悪用する勢力がいたのだが、現在は伯爵が粛清済みである。
つまり私達の仕事は、力の根源である剣王を討伐するだけだった。
こっちの方が遥かに大変であるものの、殺し甲斐のありそうな奴と戦えるのは楽しいので悪くない。




