第52話 王国の敵
私は告げられた言葉を噛み締める。
それから単刀直入に訊いた。
「エルスワーズを潰したいってことか?」
「そういうわけではない。君とシェリー以外の三人を始末できればそれでいい。彼らは敵対国や違法勢力との繋がりがある。多額の援助を受け取り、禁術による戦力増強も確認されているんだ」
いずれも知らない情報だった。
まさかエルスワーズ家がそこまでの悪事に手を染めていたとは。
私はノルフに真偽を尋ねる。
「本当か?」
「いえ、そのような事実はまったく存じませんが……」
「ノルフも把握していないということは、よほど上手く隠蔽しているのだろう。もしこちらの虚偽を疑うなら自分で調査するといい。一応、詳しい情報も渡しておこう」
伯爵が羊皮紙の束をノルフに手渡した。
それに目を通したノルフは、珍しく険しい表情で述べる。
「アルゥデグ伯爵……あなたは嘘をつく人間ではありません。この情報もおそらく真実なのでしょう」
「理解が早くて助かるよ。君がリアの世話役となった裏で、彼らは暗躍していたんだ。この数年間、リアが放任気味だったのはそういう意図も含まれていたのだろう」
「エルスワーズ家の目的は突き止めたのですか?」
「至極単純で、王国での地位を上げるのが目的のようだ。そのために邪魔な勢力を武力で葬り去ろうとしている」
「そこにリアさんも含まれているのですね……」
「元々はエルスワーズの尖兵として育てる予定だったようだがね。制御の利かない狂人と分かり、排除する方向に切り替えたらしい」
伯爵がじっと私を見て、意味深に笑って補足した。
「再生魔術を封じる手段も研究中だそうだ。かなり恨まれているね」
「まあ色々やったからな」
別に驚くほどのことではない。
私の素行を考えれば、対策くらいは考えていないとおかしいだろう。
むしろまだ手段を確立できていないことが意外だった。
それだけ再生魔術を封じるのは難しいのだと思う。
伯爵は真摯な口調で語る。
「君が依頼を受けなくても、私はエルスワーズ家に仕掛けるつもりだ。だが、君には彼らを処断する権利がある。だから確認を――」
「やるよ。私は奴らを殺す。これでいいか?」
私が遮るように断言すると、伯爵が少し驚いた。
彼は真意を探る眼差しで問いかけてくる。
「躊躇いが無いね。そんなに憎んでいるのか」
「いや、別に。エルスワーズ家はいつか乗っ取るつもりだったし、報酬が貰えるなら今やるのが得だろ」
「はっはっは、面白い答えだ」
楽しそうに笑った伯爵は、続けてシェリーの意志を確認する。
「シェリー・エルスワーズ。君はどうする」
「もちろんお姉様に従いますわ」
「実の親や兄を殺すことになってもいいのかな?」
「ええ、お姉様の素晴らしさを理解できない家族など不要です。エルスワーズの栄光のためにも消えてもらいますわ」
シェリーは一切迷うことなく即答した。
それは信頼や敬意より、信仰心に近いものだった。
確認を終えた伯爵はますます笑みを深めて呟く。
「ノルフ、愉快な二人を育て上げたね」
「恐縮でございます」
ノルフは恭しく一礼した。




